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退魔師は公務員  作者: 海水
廃村の校舎
12/14

第12話 青天の霹靂とはこのことか

『直道! 直道!』


 二日酔いの頭に不快に響くような韮崎の声で、直道は意識を取り戻した。目を開ければ、そこには3本の尻尾を風に揺らしている狐と、心配そうな表情で覗き込む幼女の顔があった。


「ん、気を失ってたのか」

「よかった、お兄ちゃん生きてた!」

「……花子ちゃん、俺を殺さないでくれる?」

「だって、息してなかったんだよ! 死んじゃったと思うじゃん!」

「マジ?」


 直道は起き上がりながら韮崎の顔を見た。狐は小さく頷く。


「……マジなのかよ。俺、よく生きてるな」

『花子が必死に心臓マッサージをしたからです。彼女には一生感謝しなさい』

「そうだよ、頑張ったんだよ!」


 涙ぐむ花子の頭を、直道はそっと撫でた。


「で、落ち着いてるとこみると、あの黒いのはどうにかできたってことか」

『祝詞製炸裂弾が効いたようです。妖怪にまであがってしまた霊障に対しても有効だったというデータは、新たな発見です』

「まー、アレが効いちゃうと、俺らが駆り出されやすくなっちまうってことなんだけどさ」


 直道は立ち上がり、ボロボロになってしまったズボンの尻を叩いた。


「さて、これで一件落着ってわけじゃ……ねえよなぁ……」


 直道の眼前には、完全に崩壊して炎に包まれる廃校舎があった。陽も沈み、静粛に包まれるはずの森は、炎によって赤々と照らされていた。

 見たくない現実に、直道も頭を抱える他なかった。


「これ、始末書で済むかなぁ……」


 直道の独り言は爆ぜる木の音にかき消されたのだった。





 翌日午後。直道と韮崎は霞が関の総務弐課の部屋にいた。安心院(あじむ)の机の前に気を付けの姿勢で立ち、彼のため息を黙って聞いていた。

 そして、そのふたりの間には、赤いジャンパースカートの花子。3人は緊張した面持ちで安心院の言葉を待っていた。


「なるほど。消防庁からのクレームが来たのは派手に燃やしたからかー」


 安心院は親指で額の皺を伸ばしている。直道はばつが悪そうにそっぽを向いた。

 花子がここにいることで、安心院の机には数本の髪が落ちており、さらなる報告でまた数本。儚げに舞い散る落ち葉のように、ハラリと抜け落ちていった。


『ですが安心院。成果がなかったわけではありません』

「そこの可愛い女の子をゲットしたこと?」

『花子のこともありますが、黒坊の発生についてです。詳細は彼女の口から聞いてください』


 韮崎は花子の肩に手を置き、促す。緊張しているのか花子は胸の前で拳を握った。


「うん、怒っているわけじゃないからね。ゆっくりでいいからおじさんに話してくれないかな?」


 安心院の優しげな声に緊張もほぐれたのか、花子はポツポツと話し始めた。


「あのね、お兄ちゃんたちが来る前の日にね、おじさんが来たの」

「おじさん?」


 直道が声を出したからか、花子は彼を見上げ「えっとね、眼鏡をかけた目つきの悪いおじさん」と続けた。


「そのおじさんが何かしたのかな?」


 安心院が水を向けると、花子は「うん」と答えた。


「すっごい静かで、足音もしないで廊下を歩いて二階のトイレまで来たの。あたしは怖くって閉じこもってたんだけど、いつの間にかおじさんの気配が消えたから、そっとドアから除いてみたんだ。そしたらおじさんはいなかったけど、綺麗な赤い石が、洗面台に置いてあったの。透明で、宝石みたいにキラキラしてたんだ」


 花子がその石を思い出しうっとりしている横で、安心院と韮崎は苦虫を潰した顔をしている。直道は訳が分からず、花子の言葉に耳を傾けていた。


「で、お兄ちゃんたちが来たときに、その石が急に輝きだしたの。あたしびっくりしちゃった!」


 子供らしい大げさな表情で、花子は語る。だがすぐにその表情は曇ってしまった。


「でもね、綺麗だった石から真っ黒な煙がモクモク出てきて、あたしを襲ってきたの。ムギュムギュってあたしの中に入ってきたの」

「それが、トイレでのあの叫びか」

「うん、怖かった。良くわからない物が、あたしの中に無理やり入ってくる感じだったの。怖かった……」


 涙目で語る花子の背を、直道がゆっくりさすった。少し興奮してしまったのか、花子の言葉が途切れてしまったが、落ち着くようにと直道は彼女の背を撫で続けた。


「で、黒い煙が黒坊とかいう妖怪になったってわけか。何が何だか俺にはさっぱりだ」

魂寄(たまよ)せの石か……」


 おどけた直道に続き、安心院が唸るように低い声で呟いた。


「たまよせ?」

『古来から呪術で使用する特殊な石のことです。魂を寄せる石と書きますが、その言葉通り、霊を、魂を封ずることができる要石のことです。普通は見ることも聞くこともないものだから、知らないのも無理はですが』


 直道の疑問には韮崎が答えた。安心院も頷く。


「つーことは、怪しげなおっさんが持ち込んだその、魂寄せの石ってのに、何かが入ってたってことか?」

『現象としてはそれが正解でしょうが、何故花子に入り込もうとしていたのか。その意図が不明です』

「それに、花子君と融合したっていうじゃない。彼女は都市伝説であって妖怪じゃあない。本来であれば融合などできないはずなんだけど」

『それも含めてなのですが』


 韮崎が花子を見て、そして安心院に向き直った。


「わかってる。花子君を第弐課(うち)で預かろう」


 突然の展開に、花子と直道はぽかーんと口を開けた。

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