終章 それぞれのレゾンデートル その20
終章 それぞれのレゾンデートル その20
聞き覚えのある声に振り向く俺たち。
そこには、父さんの姿があった。
「父さん!」
「銀、みんなも、なんとか無事のようだな。それと……」
父さんは俺たち全員の無事を確認し、三栖先生を見据える。
「なるほど。やはり、あの杖がネックか」
そう言うと、父さんは折れた刀を三栖先生へと向ける。
「“剣帝”、まさかそんな折れた刀で何かできるとでも?」
三栖先生は嘲笑する。
「ふっ、無様に映るかもしれないが、折れた刀でもこのぐらいはできるものだ」
父さんは、刀をギュッと握り、構える。
俺はそんな父さんの顔を見て、先の戦いの時とは異なる父さんの雰囲気を感じた。
(さっきとは違うな。父さんの目は黒く濁っていない。むしろ、希望に溢れているというか、そういう感じがする)
「真天一刀流、極。二の太刀、蒼炎落葉斬!」
折れた刀に蒼い炎を纏わせ、右に左に瞬時に移動しながら、あっという間に後から現れた二人の三栖先生の持つ杖の宝石を砕く。
そして、
「ハアアアア!!」
パリンッ!
父さんの最後の一撃が三栖先生の杖の宝石を全て砕き、同時に刀の残りの刃も砕け散った。
と、割れた宝石から青白い光がいくつか飛び出す。そのうちの6つの光が俺たちを包んだ。
「銀、今だ!」
「あぁ!」
俺は、取り戻した能力で、刀を戻す。そして、すぐに構えた。
「よくも! よくもやってくれましたね! まだ、まだ終わるわけには!」
三栖先生は宝石の割れた杖を放り出し、今度は拳銃を取り出す。
そして、銃口を俺へと向けた。
パンパンパンッ!
乾いた銃声が辺りに響く。
しかし、
「俺は、まだそこにはいない!」
俺は能力を使い、以前いた場所まで戻り、銃弾を全て躱していた。
「父さんが作ってくれた最後の好機、決して無駄にはしない!」
俺は、刀の切っ先を三栖先生へと向けた。
「行っけぇ、銀!」
「宇佐見くん、やっちゃえー!」
「宇佐見くん、任せたわよ!」
「宇佐見、行けぇ!」
「銀くん、お願い!」
背中に受けるみんなの声援が心地いい。
「三栖先生、いや、三栖鏡子! これで最後だ! みんなの未来を切り拓く!!」
(父さんの想いも、刀に乗せる!)
「真天一刀流、銀流奥義! 終の型、銀刀一閃、」
「や、やめなさい! こ、来ないで!」
「蒼炎斬!」
一閃。
蒼い炎を纏わせた俺の刀で三栖鏡子を斬り、俺は三栖鏡子の後ろで刀を納めた。
ドサッ
三栖鏡子は血を流しながら、その場に静かに崩れ落ちる。
一瞬の静寂が辺りを包む。
そして、
「「やったぁー!!」」
少し遅れて、後ろの方からみんなの歓喜の声が聴こえてきた。
俺は、それに答えるように、右の拳をグッと上げた。
「よくやったな、銀」
「父さん」
いつのまにか近くにいた父さんに声をかけられ、俺は父さんとハイタッチを交わそうとするが、
グラグラグラ!
突如、地震のような揺れが俺たちを襲い、ハイタッチはできない。
「な、なに!?」
「またか!」
(これは、ここに入る前にも感じたやつか?)
「まずいな。銀、そこにある虹色に光る球体、それにお前の能力を使って、球体自体の時間を巻き戻すんだ! すまないが、説明をしている時間はない!」
「あ、あぁ」
緊迫した表情の父さんに言われたように、近くにあった球体に手を触れ、時間を戻す。
すると、虹色に光っていた球体は、徐々にその光を失い、真っ黒な状態に変化した。
先程までの揺れが止まる。
(やった、のか?)
しかし、それも束の間。再び強い揺れが辺りを襲った。
グラグラグラッ!
「父さん!?」
「いや、これでいいんだ。その球体をあのまま放っておいたら、またブラックウォール事件が起きていた。それを元に戻した。今の揺れは、この空間が無くなろうとする揺れだ。直に崩壊するだろう」
「崩壊!? それじゃあ急いで脱出しないと!」
俺は、みんなの方へと向き、声をかける。
「みんな、この空間が崩壊するらしい! 急いで脱出しよう!」
「脱出って、でも、最初の場所まで結構距離があるぞ? 間に合うのか?」
鈴原先輩が落ち着いて尋ねてくる。俺は、父さんを伺う。
しかし、父さんは首を横に振った。
「残念ながら、俺もわからん。だが、このままここにいたら、今までやってきたことが無駄になる。だから、とにかく急ぐんだ!」
「急ぐしかないか。よし、みんな、とにかく行こう!」
俺はそう言うと、足元に横たわる三栖鏡子の体を背負う。
「まだ生きているのか?」
「もちろん。この人には罪をしっかりと償ってもらう。だから連れていって、警察に引き渡すんだ」
麗先輩がこちらに走り寄ってきた。
「銀くん、先生を回復するよね?」
「はい、そうですね。傷口が塞がる程度でお願いします」
そう頼むと、麗先輩は能力を使って、三栖鏡子の体を回復させた。
グラグラグラッ!
再び揺れが襲う。先ほどよりも少し強くなっていた。
天井が崩れ始め、こちらへと落ちてくる。
「急ごう! ここにいても危ない、まずはここから出るぞ!」
俺たちは急いで、建造物から出るのだった。
「そんな!」
建造物から出た俺たちは、絶句した。
ここまで通ってきた道が崩落して、無くなっていたのだ。
「これじゃあ、脱出できねぇじゃねぇか!」
晃が声を上げる。
「宇佐見くん、あなたの能力で道を戻せないかしら?」
「戻せるとは思いますが、戻してもすぐ崩壊する可能性もあるので、危険ですよ」
「それなら宇佐見、お前の能力で、例のロボットの場所まで戻れないか?」
「できますが、それも戻った先が残ってるかわからない以上、危険ですよ」
如月会長と鈴原先輩の提案に、俺はいずれも首を横に振り答えた。
どうしたものかと、俺たちが途方に暮れていると、黒い蝶が一匹、俺たちの前に姿を現す。
(これは、エンチャントの蝶か?)
すると、その蝶から聞き覚えのある声が聴こえてきた。
『あなたたち、こっちに来なさい』
蝶から聴こえたのは、エンチャントの声だった。
蝶は俺たちを案内するように、ヒラヒラと、建造物前の広場の隅の方へ飛んでいく。
(他に行く先がない今、ついていくしかないか)
「みんな、この蝶に従おう」
「え、でも、エンチャントは敵だったよ?」
朋が疑問の声を上げる。しかし、
「放っておいても死ぬ私たちを、今更罠に嵌める理由がないわ。早瀬さん、大丈夫。宇佐見くんの言うとおりにしましょう」
如月会長が、落ち着いて、朋の疑念を解消する。
そして、俺たちは、黒い蝶の案内についていくことにした。
黒い蝶についていくと、ピタッとその動きを止めた。
その先は、道などなく、何もない崖のような場所。
『さぁ、着いたわ。ここから飛び降りなさい』
黒い蝶からそう声が聴こえたと思うと、すうっと姿を消した。
「え? ちょ、ちょっと! やっぱり罠だったんじゃない!」
「いや、どうやら、ついてきて正解だったようだ」
俺が朋の意見を否定する。そして、勢いをつけて、そこから飛び降りた。
「宇佐見くん!?」
朋は慌てて下を覗く。そして、驚きの声を上げた。
「あっ!!」
俺は飛び降りた先で、ある物に着地。そのまま、それは上昇した。
『思った通り! お兄ちゃんが一番先に飛び降りてきたね♪』
「まぁな。わずかだが、駆動音が聴こえたからな。だが、まさか明凛朱がロボットを操縦して現れるとは思わなかったよ」
俺が飛び降りた先で着地したのは、黒い球体まで来るのに乗ってきたロボットの手の上だった。
「ほお、これはまた大きなロボットだな!」
『えっ!? なんでおじさんが? というか、あれ、どこかで見たような?』
「なんだ、明凛朱くん、仮面がないとわからないか?」
『え、仮面? あぁー!!』
明凛朱は驚き、俺を乗せた手を大きく動かす。
「あ、明凛朱! 俺を乗せたままいきなり動かないでくれ!」
『あ、ごめんなさい!』
俺は、なんとか落ちずに、明凛朱に注意した。
グラグラグラッ!
と、再び大きな揺れがみんなを襲った。
「明凛朱、とりあえずみんなを乗せて脱出しよう! もう、この空間自体が限界が近いようだ」
『うん、了解!』
明凛朱はそう言うと、ロボットのコックピットを開けてくれた。
みんなが次々に乗り込む。
最後に父さんが乗り込むと、先ほどまでみんながいた場所が崩壊した。
「ふぅ、間一髪だったな」
俺たちはこうして、黒い球体の端へとロボットに乗り移動、その後、黒い球体は空間自体を大きく揺らし、姿を消した。俺たちは、目の前に現れた、見慣れた空に感動しながら、脱出の成功を喜んだのだった。
「それじゃあ戻ろう! 俺たちの学校に!」
銀たちが脱出する少し前。
黒い球体最奥部、建造物内。
「オーパーツは無事回収。う~ん、やっぱりもう活動しそうにないか。杖は……やっぱり壊れてる。どうしますか、博士」
ゼロは黒い球体を抱え、近くに落ちていた宝石が割れた杖を見ながら、どこかへと連絡していた。
『杖は必要ない。今回は奪う能力が多すぎた。容量不足という問題点が見つかっただけでいい。例の最新ロボットの稼働実験が成功しただけでも十分だ。ゼロ、君は早くオーパーツを持ってくるように』
ツーツーツー。
「ありゃ、切れちゃった。全く、あの博士は人使いが荒いな~。まぁ、別にいいけど。それで……エンチャント、君はどうするんだい?」
ゼロは、入り口付近にいた、一人の女性、エンチャントに尋ねる。
「あら、ばれていたのね♪」
「そりゃあね。銀のお兄さんたちの脱出を手伝ったのも知ってるよ。もっとも、“あの方”がそれを知っても何も咎めないと思うけどね。僕もまだお兄さんたちと戦えると思うと嬉しいし」
「そう」
エンチャントは短く答えると、どこかへと行こうとする。
「どこに行くんだい?」
「そうね、また南の島にでも行って、少しお休みしようかしら♪」
そう言うと、エンチャントはあっという間に姿を消してしまった。
「行っちゃった。エンチャントも自由だな~。僕が言えたことじゃないけど。さてと、これを早く博士の元に届けて、僕もどこかに遊びにいこうかな? う~ん、お兄さんともう一度戦いたいけど、しばらくはいいかな~。暑いのは苦手だから、北の方にでも行こうかな?」
そう言うと、ゼロもどこへと姿を消してしまった。
崩れゆく黒い球体から脱出した俺たちは、ロボットに乗ったまま、第一能力者学校へと戻った。
俺たちはロボットから降りて、学校の正門へと向かう。
多くの人が歓声を上げながら、俺たちの帰りを出迎えてくれた。
その中心には、師匠、犬山さん、鈴原先輩のお父さんである文輝隊長の姿があった。
俺たちは、そんなみんな対して、声を揃えてこう言った。
「みんな、ただいま!」
そして、一連の事件の犯人として、犬山さんに三栖鏡子を引き渡す。
犬山さんは疲れ切った表情をしていたが、急いで、彼女を連れて、警察署へと戻った。
9月1日水曜日。俺たちの長い一日がこうして無事に終わったのだが、その次の日から大変だった。
第二次ブラックフォール事件と名付けられたその事件を解決した功労者として、明凛朱と父さんを除く、俺たち6人は、政府をはじめ、各所で表彰やらパーティやらに参加。
また、数週間はマスコミの取材を受けるなど、事件とは違う、非日常が待っていたのだ。
日常が戻ったのは、数週間後だった。
ちなみに父さんはというと、過去の事件を警察に自白。父さんが一度は死んでいたということもあり、何やら手続きに時間がかかるということで、しばらくは警察署にいるということだ。
また、明凛朱はというと、改めて生徒会の警備部隊の試験を受け、無事に合格。
合格したその日から、警備部隊の一員として元気に活動している。
そして――
――10月。
あの事件以降、ゼロやエンチャントは現れなかった。また、それらしい事件も起きていない。
迫る文化祭の準備をしながら、俺たち生徒会は今日も元気に活動していた。
そう、つい先ほどまで。
「こちら宇佐見、銀行前に着きました」
なにやら近くの銀行で銀行強盗が発生。うちの生徒が巻き込まれたという。
俺は一人、その事件の犯人を確保するために動いていた。
『犬山さんたちが到着するまで、少し時間がかかるようだわ、いけそうかしら宇佐見くん?』
通信端末から如月会長の声が聴こえてくる。
「はい、わかりました。了解です!」
俺は、元気に答えると、端末を切る。そのまま銀行へと入っていった。
「な、なんだてめぇは! ぶっ殺すぞ!」
急に現れた俺に驚き、強盗犯が俺に銃口を向けてくる。
「俺は、宇佐見銀。第一能力者学校、生徒会の警備部隊所属。お前を捕まえに来た!」
「捕まえに来た!? ふざけんじゃねぇ!」
パンパンパンッ!
銃撃音が響く。強盗犯は俺に銃撃してきた。しかし、
「俺は、まだそこにはいない!」
「な、何!? いつのまに現れ、うぐっ!」
俺は能力を使い、強盗犯の後ろに戻り、刀の柄の部分で男のみぞおちを思いっきり突く。
男は呻き声を上げ、その場に崩れ落ちた。
(一度来たことがある銀行でよかった)
パチパチパチッと周りのお客さんや銀行員から拍手と歓声が起きる。
俺は気絶した男を抱え上げその場を去ろうとすると、近くにいた、同じ制服を着た女の子が走り寄ってきて、こう尋ねてきた。
「助けてくれてありがとう! その、なんで生徒会はみんなを助けてくれるの?」
「ん? そんなの当たり前だろ。生徒会は、生徒たち全員の味方だからな。大事な仲間の笑顔を守る、それが俺の、いや、俺たちの……」
“存在理由‐レゾンデートル‐”だからだ――
『Fランク能力者の存在理由‐レゾンデートル‐』完。
みなさんこんにちは、作者のトウミです。
『Fランク能力者の存在理由‐レゾンデートル‐』、無事に完結しました!
ここまで来れたのも、読者のみなさんのおかげです。
特に感想は、非常に励みとなりました。ありがとうございました。
物語は一つの完結を迎えましたが、銀たちはまだまだ活動していきます。
きっとまたどこかで会えることでしょう。
ここまで読んでくれた皆様に多大なる感謝を。
本当にありがとうございました!
また、どこかでお会いできることを夢見て。
読者のみなさんを楽しませるのが、わたしの“存在理由”ですので。
それでは、またどこかで!




