番外編 夏休みの思い出 その2
番外編 夏休みの思い出 その2
二日後、早朝。
如月島から学生寮へと戻ってきた俺と楽々浦先輩は、荷物をまとめ、東京郊外にある俺の実家へと向かった。
電車とバスを乗り継ぎ約1時間半、ようやく最寄りのバス停へと到着した。
「もうすぐですよ、楽々浦先輩」
「結構遠くだったんだね」
舗装されているものの、山の中のため、坂道になっている道を登りながら、俺は楽々浦先輩を案内する。
10分程歩くと、一軒の家の前に、一台の車が止まっているのが見えた。
(あの車は、見覚えがあるような?)
俺は車が止まっている家の方を見るが、中の様子は分からなかった。
「このお家?」
「あ、いえ、ここはお隣りさんで、こっちです」
楽々浦先輩に尋ねられ、俺は自分の家を案内した。
「わぁ、結構大きいね!」
「そうですか? 如月会長の別荘を見た後だから小さく見えると思いますが」
「あ、あはは。あれは規格外だから仕方ないよ」
今の時代珍しい瓦の屋根に、木造建築の家。
二階建てだから少し大きく見えるが、建物自体はおそらくだいぶ古いだろう。
「宇佐見くん、あの建物は?」
道路から玄関まで続く砂利道を歩きながら、楽々浦先輩は、家の横にある別の建物を指さし聞いてくる。
「あれは、小さな道場なんですよ。父さんが剣の修行のために建てたもので、俺も昔使ってました」
楽々浦先輩は、へぇとマジマジとそちらの建物を眺めていた。
「さ、楽々浦先輩どうぞ。実家へようこそ。狭い所ですが、ゆっくりしていって下さい」
俺は楽々浦先輩を実家へと招き入れた。
久しぶりに戻ってきたので、少し埃っぽいが、自分が出てきた時のそのままだった。
空いている客間に楽々浦先輩に案内する。
「ここは元々客間なので、自由に使って下さい。布団はそこの押入れにあります。もし何か必要なものがあったら言ってくださいね」
「うん、ありがとう」
楽々浦先輩は、なんだか寂しそうにその部屋へ入っていった。
その様子を見て、俺は少し考え、楽々浦先輩に尋ねた。
「その、聞かないんですね、親はどこにいるか? とか」
「あっ……。その、忘れてたというか。えっと……」
「はは、大丈夫ですよ。知ってたんですよね、両親がいないの。師範ですか?」
「う、うん。この間、師範さんから聞いて。ごめんね、黙ってて」
本当に申し訳なさそうに楽々浦先輩は謝ってくる。なんだか悪いことをした感じになるな。
「いえ、謝らないで下さい。大丈夫ですよ。でも、なぜ一緒にここに?」
楽々浦先輩は、覚悟を決めたような表情になる。
「わたし、宇佐見くんのそばにいてあげたいって思って。師範さんに頼まれたというのもあるけど、これはわたしの心からの気持ちだから」
「楽々浦先輩、ダメですよ。そんなこと言われたら頼りたくなっちゃうじゃないですか」
「頼っていいんだよ、宇佐見くん。いつも頑張ってるんだから、こんな時ぐらいは頼っていいんだよ。ここに戻るって言った時にすごく寂しそうにしてたの分かったよ?」
俺はそんな顔してたのか、自分では全く分からなかったな。
「そんな顔してましたか?」
俺が尋ねると、楽々浦先輩は、うんと頷いた。
「はは、そうですか。まだまだ俺も修行が足りないな。その、楽々浦先輩。どうして、そこまで、優しくしてくれるんですか?」
「そ、それは、わたしが、その、先輩……。ううん、そうじゃない。わたしね、宇佐見くんのこと……」
楽々浦先輩は頬を赤く染めながら、一生懸命答えようとしてくれる。
俺は、そんな楽々浦先輩をそっと、優しく抱き締めた。
「あっ……!」
「すみません、そういうことは男の俺から言わせて下さい。ありがとうございます、楽々浦先輩の気持ち嬉しいです。俺も一緒ですよ。楽々浦先輩が好きです」
「わたしも、宇佐見くんのこと、好きです! 大好きです!」
俺はそれに応えるように、もう一度力を入れて、楽々浦先輩を抱き締める。
小さくて、可愛くて、華奢で、それでいてしっかり者の彼女を。
彼女も、俺に応えようと、ギュッと力を入れてくれた。
「ありがとうございます、楽々浦先輩。何があっても、守りますから」
「うん。わたしも、小さくて頼りないかもしれないけど、宇佐見くんの力になるから」
それからしばらく、俺たちは抱き合っていた。
「楽々浦先輩、その、そろそろ」
「あっ、ご、ごめんね!」
「いえ、こちらこそ」
俺はゆっくりと、力を緩め、楽々浦先輩から離れた。
楽々浦先輩は、何か言いたそうに、モジモジしている。
「楽々浦先輩、どうしました?」
「あ、あの、わたしこういうの初めてでわからないんだけど、宇佐見くんのこと、銀くんって呼んでもいいかな?」
「えっ? あ、はい。それじゃあ俺も、麗先輩って呼んでもいいですか?」
「う、うん」
その後、しばらく沈黙が流れる。
「あ、もうこんな時間! 宇佐……銀くん、今日ってただ実家に戻りに来たわけじゃないよね?」
「え、あ、そうですね。お墓参りに来たんですよ。楽々……麗先輩も一緒に来てくれますか?」
「う、うん!」
俺は本来の目的を思い出し、急いで準備をする。
そして、俺たちは、俺の両親が眠るお寺へと向かうのだった。




