第2章 反能力者主義 その3
第2章 反能力者主義 その3
5月2日日曜日。俺と晃と朋の3人は、昨日同様3人で行動していた。
今日は、午前中から学区内にある警察署へと来ていた。
「君たちが例の警備部隊の新入生かい? なるほど、いい顔をしてるな! はっはっはっは! おっと、申し遅れた! わたしはこの警察署に勤める、犬山だ!」
テーブルを挟んで、向かい合わせに座った俺たちに対して、犬というよりは、熊のような大きな体格の警察官が大きな声で挨拶してきた。
「どうも初めまして、犬山さん。第一能力者学校、生徒会、警備部隊所属の宇佐見です。こちらは中森、それから早瀬です」
「は、初めまして!」
「よろしくお願いします!」
晃と朋は少し緊張しているようだった。
「今日は、例の情報を見に来たのだろう? で、これがその資料だ」
一枚の紙がテーブルの上に置かれた。
「よく分かりましたね?」
「ん? あぁ、先日、君たちの先輩、鈴原くんから話を聞いていてね。いつ来てもいいように、予め用意していたんだよ」
なるほど、鈴原先輩らしい手際の良さだ。あとでお礼を言っておくか。
「では、説明をはじめよう。君たちは反能力者主義というのは知っているかい?」
「知ってるか? 朋」
「ううん詳しくは知らないわ」
晃と朋は首を横に振る。
「反能力者主義、確か、能力者を良しとしない考え、また、その考えをもとに行動する団体ですよね?」
以前、入学前にニュースで見たような気がした。
「宇佐見くんは物知りのようだな。そう、その団体なんだがね、最初は君たちの学校の創設に反対するデモを起こすなど、活発に活動していたんだが、どうも最近は、動きが変わってきてね。」
「過激化ですか?」
「いや、それなら警察も動きやすいんだが、違ってね。逆に、気味が悪いぐらい大人しくなったぐらいなんだ」
「あれ? でもそれだと……」
朋が何かに気付いたようだ。
「あぁ、鈴原くんに渡した資料のことだね? 一応注意喚起のために渡したんだが、警察が動くほどではなくてね」
「と言うと?」
「どうも最近は、能力者を毛嫌いしていた彼らが、逆に能力者の君たちに声をかけているようなんだ。事件性は低いんだが、何を考えているかわからない団体だからね。一応声かけ事案として、鈴原くんと情報共有したというわけだ」
手元の資料を見ると、確かに全て声掛けと書かれていた。時間帯もバラバラ、性別も学年も特に関係なさそうだった。
「なぁ、犬山さん、ちょっと気になったんだが、声掛けだけでどうして、その、反能力者主義ってわかったんだ?」
今度は晃が、犬山さんに尋ねる。確かに、そこが一番の謎かもしれない。
「あぁ、それなら簡単だ。声をかける時に、“反能力者主義のもの”と名乗っているんだからな。全く、何を考えてるのかわからん連中だよ。はっはっはっは!」
犬山さんは笑うしかないといった感じだ。それもそうか。わざわざ名乗ってから声をかけるなんて普通のことではない。
「すみません、最後に聞いてもいいですか? 現在の彼らの構成員の人数ってわかりますか?」
そう聞くと、犬山さんは首を横に振った。
「残念ながら掴めていないね。デモをやってた時は300人ほどいたようだけど」
「そうですか。ありがとうございます。二人は何かあるか?」
晃と朋は、大丈夫という表情を浮かべた。
「犬山さん、今日はありがとうございました」
「おや、もういいのかい?」
「はい、次の任務もありますので」
「そうか、気をつけてな! 新入生の3人さん! はっはっはっは!」
俺たちは大きな笑い声に見送られ、警察署を後にした。