第3話:レアなタウンを探し出して確保する
俺たちが最初から持っていたあの光る石が、水晶というわけか。
13のルールがなんのためにあるのか考えてみたが、これは必須であると分かった。なぜなら、ヴィラをつなげて、“特殊結界”でホームを取り囲めば、だれも進入できない無敵のホームになってしまうからだ。神様的にはそれは避けたいのだろう。
ペナルティーには様々な種類があり、ランダムで課せられる。ひどいものでは、‘ヴィラを全て失う’というものもあるらしい。
説明が終わり次第、すぐに俺たちは行動を開始した。何も言わなくても、何をするべきかふたりは理解していた。まず、ステータス画面を開いた。黒い部屋の中でしか使えないが、魔力消費0で誰でも使用可能な魔法の一つである。
目の前に大きなスクリーンが展開される。タッチパネル式になっていて、本人にしか操作できない。その画面には、現在のレベル、ステータス、魔力、スキルポイント、習得したスキルなどが表示される。また、現在の時刻や、付近の簡単なマップなども見ることが出来る。簡単にいうと、この世界のほとんどの操作をこの画面で行うことになる。
そういえば、神が言っていたことだが、この世界に人間を移し終わってから同時刻に全員を起こしたらしい。神は‘平等’がモットーなのだそうだ。
起きてから黒い部屋の壁に水晶をはめ込んだのが早ければ早いほど、多くのボーナスが支給される。冷静に観察して、早く壁の仕掛けを発見できた人だけがもらえるご褒美のようなものだといっていた。
ちなみに、説明が終了した時点から、黒い部屋の外に出られるようになった。また、食欲なども元通りになっていた。あくまで、仕掛けに気付くのが遅い人が餓死をしないための処置だったわけだ。殺し合いをさせようとしている神様にしてはなかなか親切である。
ステータス画面を見ると、“ボーナス受け取り”と書いてある部分がある。そこをタップした。
すると、魔力が366,スキルポイントが366手に入った。
さらに、手元に3つの光る石が現れた。おそらくこれが“疑似水晶”だろう。
本物の水晶と形は同じだが、光り方が弱い。
ちなみに真奈の方は、魔力411,スキルポイント411,疑似水晶を4つ受け取っていた。
ボーナスとは関係なく、“疑似水晶”は最初から全員に2個ずつ与えられると神は言っていたので、俺のボーナス分は1個、真奈のボーナス分は2個ということになる。
なぜ俺のほうが少ないかというと、神の説明がほぼ終わりにさしかかったころに、反対側の壁にあったもう一つのくぼみに俺の水晶をはめ込んだからである。つまり、俺の方が、真奈よりも遅くに水晶をはめこんだのだ。
本来なら、一人一人が別れて黒い部屋に移されるのだが、ある基準を満たした人たちは、同じ部屋に移されたらしい。
・この世界に移される瞬間に、ふれ合っていた人達は同じ部屋に移される。
・一人で生きていくのが著しく困難であると認められる人がいたとき、その人の保護者や家族などから一人選ばれ、同じ部屋に移される。
曖昧な部分もあるだろうが、そこら辺は神様が判断したということだ。
光が満ちたあのとき、とっさに手をつないで本当に良かった。ちなみに4人以上がふれ合っていた場合は、ランダムで3人以下のグループに分けて移されたらしい。たしかに、黒い部屋には三つまでしか水晶をはめる場所がなかったので、そういう理由なのだろう。
他の人と一緒の黒い部屋を望まない場合は、説明終了後、ステータス画面の“部屋移動”という部分をタップすればいい。これは、空いているタウンに移動できるという、初回限定1度きりのサービスである。もちろん水晶も持って行ける。
一緒の部屋を望まない人だって当然いるだろう。むしろ、望まない人の方が多いはずである。なぜなら、他人の水晶を壊した時に得られる経験値や魔力などが、魔物を倒したときと比べてとてつもなく大きく、裏切りにあう可能性があるからだ。心の底から信用できる相手でない限り、同じ部屋に水晶をはめたくはないだろう。そう、俺と真奈くらいの信頼関係がなければ。
だいぶそれてしまったが、話を元に戻そう。
二人は早速、この世界に存在するスキルの一覧を見た。数え切れないほど大量にスキルがあり、表示が
【???】
となっているものもある。条件が満たされれば解放されるらしい。
これらの大量のスキルの中から目当てのものを探すのに便利なのが、“検索”である。‘移動’というワードを入力し、画面にある“検索”をタップした。当てはまったスキルのうち、使い勝手がよさそうなものを選ぶ。【飛行】だ。このスキルを得るために必要なスキルポイントは100。ボーナスのおかげで簡単に手に入れることが出来た。
隣を見ると、真奈も全く同じように【飛行】を選択していた。やはり考えることは同じだ。思わず笑ってしまった。
「あとは、これもいるよな。」
そういって俺が指したのは、【探知】である。これも100ポイントだった。
「そうだね。しかもスキルレベル2にする必要があるね。」
真奈はスキルの詳細を見ながらそう言った。
スキルにもレベルが存在し、上がるほどそのスキルは強力になる。
「たしかにな。レベルを上げるのに50ポイントか。」そういいながら即座にレベルを2にあげる。
「あと、これも有った方がいいよね?」
真奈が画面を見せる。
「気付かなかった。もし真奈が予想した通りならこれは必須だな。」
そういって、【観察】をタップする。これも100ポイントだった。
一連の操作が終わると、ステータス画面を閉じて、ふたりは黒い部屋の外に出た。
すぐそばに魔物がいないのは【探知】で確認済みだ。もし近くに魔物がいて、勝手に拠点に入られて襲われたらどうしようもない。きっと、魔物が黒い部屋に近寄らないような工夫がされているのだろう。
神が言っていた通り、白い地面がどこまでも真っ平らに続いていた。この地面も強力な結界のひとつらしい。たしか‘地面の結界’と言っていたか。そのまんまの名前だな。
「なんか、異世界に来たっていう実感が沸いたな。」
「そうだね。なんか不思議な景色。それに、太陽も無いよね・・・。」
どこまでも続く真っ平らな白い地面と、ぽつぽつとタウンごとに存在する黒い部屋。タウンとタウンの境界にははっきりとした青い線がひかれていて、上からそれらを眺めると、まるで小学校の頃に宿題でやらされた、漢字練習用のノートのようであった。まあそれにしては少しマスが細長いが・・・。
そして全てのタウンに平等に降り注ぐ太陽光。しかしながら太陽はどこにも見当たらない。
神様、何でもありだな。
これだけのことができるのに、自らの手で人間を殺すことが出来ないという制限が不思議すぎる。きっと何か事情があるのだろう。気になるが、今はそれを考えていてもどうしようもない。
「さて、行こうか。俺はこっちにいくよ。真奈はそっちを頼む。」
軽く目線で示しただけで真奈には伝わる。
「オッケー、また後でね。」
「あ、真奈。もし危険な状況になったら、ためらいなく《帰還魔法》を使ってくれ。」
「わかった。亮もね。気をつけて。」
「おう。」
そう言って、ふたりは真逆の方向に飛んでいった。《帰還魔法》とは、死ぬまでに三回だけ使える特殊な魔法である。いつどこでも、使った瞬間に拠点にワープ出来るというものである。三回だけということで、とても貴重ではあるが、危険になったらためらわずに使うべきだろう。
まるで生まれたときから空を飛べたかの様に、自分の思った通りに【飛行】できた。素直に感動してしまった。試しに限界まで上に飛んでみたが、500mほど飛ぶと、光る青いバリアのようなものに遮られ、それ以上は上に行けなかった。上を見上げたときに青かったのはこのせいか。これが、神の言っていた‘天井の結界’なのだろう。
広い範囲まで効果が届く最適な位置まで降りてきて、【探知】を発動する。レベル1の時点で魔物の位置がわかるようになり、レベル2にすると人の位置もわかるようになる。さらにレベルを上げると効果範囲が広くなったりするのだが、今はレベル2で十分だ。
なぜレベルを2にする必要があったのか。それは、人が‘いないこと‘を確認するためだ。神は曖昧な言い方をしていたが、俺たちは、人がいない黒い部屋が大量にあると確信していた。
だからこそ、はやく外に出ることが出来たアドバンテージを生かして、他の人よりもはやく‘より良い’タウンを手に入れるのだ。
‘より良い’タウンとは、何かしら特殊であったり、強い魔物がいたりするタウンである。
神は、タウンごとに特徴が違うといっていたのだ。
人が最初に移された黒い部屋のタウンは、俺たちと同じようなタウンなのだろう。だが、人がいない、空いているタウンとなれば話は別である。格別に強い魔物が存在するタウンもあるのではないかと、真奈は予想したのである。当然、強い魔物を倒した方が得られるものは大きいし、その魔物を調教し、ホームの近くに連れてきて使うのも有力だろう。だからこその、【観察】スキルである。これは、【探知】でとらえた魔物のレベルやステータスを知ることが出来るというものである。強力だが、【探知】とセットでないと使いものにならないスキルといえる。
俺たちは、これらのスキルを使い、有用そうなタウンを探し回っているところなのである。
さまざまな魔物の様子をみていて、わかったことがある。タウンにいる魔物はそのタウンから一切出ようとしない。タウンの境界付近まで来ても、止まるかあるいはそこから引き返していく。また、基本的に黒い部屋に近寄ろうとはしない。ここら辺が、神が魔物に対して行った工夫なのだろう。
3時間ほど飛び続け、そろそろ周りが暗くなってきた。
そのとき、左の方に三つのタウンにまたがってそびえたつ山を発見した。200m×500mのタウン三つ分なので、600m×500mの規模である。
【探知】と【観察】を使い、警戒しながら山に降り立ち、調べてみる。そしてすぐにわかった。これは鉱山だ。真奈と一緒に、いろんな豆知識が載っている本を読んだり、様々な場所に出かけていたことが役に立った。
また、この山には一体のドラゴンが住んでいた。今は眠っているので良かったが、もし気付かれて戦うことになったら瞬殺されてしまうだろう。【観察】で見たところ、ブラックドラゴンという名前らしい。確かに黒い見た目であり、なんとも安直なネーミングセンスだが、ステータスなどはあり得ないほど高かった。先ほどから【飛行】を続けて魔物をみてきたが、その中でも群を抜いていた。
それもあって、このタウンはとても有用であると確信した。見渡しても、ほかにこのような山は見当たらなかった。相当珍しいのではないだろうか。
急いで黒い部屋に“疑似水晶”をはめ込みにいく。
しかし妙なことに気付いた。この3つのタウンに、ひとつしか黒い部屋がないのである。
神の説明では、基本的にタウンごとに黒い部屋が存在すると言っていたが。
つまりこの三つのタウンは、‘基本的’に当てはまらないということである。
とりあえずその黒い部屋に入ってみる。そして、“疑似水晶”をはめ込んだ。しかし何も変化がない。
試しにマップを開いてみたが、まだこのタウンはヴィラになっていなかった。
自分や他人のホームやヴィラは、マップで色がついて表示されるのだ。
どうすればいいのか少し考えて、そして思った。3つ分のタウンなら、3つの“疑似水晶”が必要なのではないかと。後ろの壁と、反対側の壁のくぼみに、残り2つもはめ込んだ。すると、今度こそマップに色つきで表示されるようになった。これで、この鉱山一帯のタウンは俺のヴィラとなったわけだ。
ステータス画面から“ワープ”をタップし、拠点に戻ってきた。
真奈はすでに帰ってきていた。こっちをみて「おかえり~。」といった。
「ただいま。」と返事をする。
真奈はボーナスを合わせて4つの“疑似水晶”をもらえていた。
無事、面白そうなタウンを4つ、ヴィラにしてきたようだ。
明日起きてから見に行くのが楽しみだ。