第18話:引っ越し完了
新しい本拠地に決めたタウン。それは、さっきの炎のタウンの1つ隣の壁沿いのタウンだ。
俺と真奈がステータス画面を開く。左下に赤枠で囲まれた“引っ越し”の文字をタップする。真奈もそれに続いてタップしようとしたのだが、俺がタップを押した瞬間、勝手に真奈の画面の“引っ越し”も選択されていた。二人が同じ部屋を拠点としている場合のプログラムなのだろう。俺の画面に、警告が表示される。
‘この操作は一度しか行うことができません。本当によろしいですか?’
俺は‘はい’をタップする。
すると、ワープのときと似ているが微妙に異なる不思議な感覚に包まれ、そしてすぐに“引っ越し”が終了した。黒い壁の両側に、二人の水晶がはめ込まれている。外に出て確認してみると、となりのタウンにはちゃんと、炎の湖のあるタウンがあった。どうやら無事にうまくいったようだ。
すでに深夜0時を過ぎている。だが、やっておかなければならないことがまだある。
真奈は俺の意図をとっくに分かっているので、すぐに行動を開始する。まずは、この炎のタウンを所有する。使用したのは真奈の“疑似水晶”だ。
そして次は、特にこれと言った特徴もないタウンを確保する。一人10カ所しかヴィラを所有できないのに、こんなタウンに決めていいのか、と普通なら思うだろう。
実は、このタウンの有用さは、‘位置’にある。ホームに沿ってそびえ立つ‘壁の結界’を『右』、炎のタウンを『後ろ』、とすると、このタウンは『左』に位置しているのだ。
つまりこれで、右隣が‘壁の結界’、後ろと左隣がヴィラの特殊結界に、それぞれ覆われた訳である。これが俺の思い描いていた計画なのである。世界の果ての壁まで利用し、拠点の守りを固めるのだ。
さて、最後に『前』のタウンも所有してしまえば、何人たりとも進入できない無敵の拠点の完成・・・・・・。なのだが、そんなことはしない。
そんなことをすればすぐに、『ルール11』のペナルティーが待っている。何人たりとも進入できないというのは、自分も入れないということだ。一週間に一度は、“領土”やヴィラ以外のタウンに行かなければ“審査”に引っかかってしまうので、外に出る必要がある。しかしそうすると、《帰還魔法》を使わない限りけしてホームに戻れなくなる。つまり、ホームを結界で覆ってしまう作戦は‘悪手’なのだ。
ではどうするのか。
今所有したタウンの黒い部屋をでて、今度はさらに一個隣のタウンにむかい、そこをまた所有する。つづいてまた隣のタウンを所有する。‘壁の結界’に沿うタウンの、ひとつ隣のタウンを次々とヴィラにしていく。このようにして、8カ所のタウンを所有した。炎の湖があるタウンを含めれば、9個のヴィラを“つなげる”ことになったわけだ。
“つなげる”ことのできる最大個数は9個なので、もうこの俺たちのヴィラにつなげて誰かがヴィラを所有することは出来ない。今日必ず9個疑似結晶を残しておかなければならなかったのはこれが理由だ。
もし中途半端に8個のヴィラをつなげたとしよう。
そして例えば、俺たちのホームにつながる一カ所だけの入り口のタウンを他の誰かが所有してしまったとしよう。そうなれば、俺たちのホームは結界によって閉じられることになり、それは先ほども述べた‘悪手’そのものである。そんなことになる可能性は至って低いが、ここで油断するほど愚かではない。
さて、これでやっと、今日やるべきことは終了した。
無事に作り終わりさえすれば、これ以上に最強の防御はないといえるだろう。その理由を説明していこうか。。