第17話:本拠地をどこにするのか、ついに決定
真奈が言った。
「つまりこの壁を有効利用するってことでしょ?あ、ってことはもしかして、ここに“引っ越し”をしようってことなの?」
真奈は本当に頭がいい。何にも説明しないのに、いつもわかってくれる。そして、俺のアイディアの不足した部分を補ってくれるのだ。俺がおおざっぱなアイディアをだし、真奈はそれを理解して改良を加える。いつもの必勝パターンだ。
地球にいたころ、真奈とペアを組んで、様々なスポーツやゲームをしてきたが、いつもこんな感じで勝利してきた。
「ああ、その通りだよ、真奈。一番隅のタウンに“引っ越し”をするのはどうだろう?」
「それもいいね。でも、一番隅から数えて4つ目か5つ目くらいの場所の方がいいんじゃない?」
「うーん、あ、そういう発想か。曲がっていた方が相手は攻めにくいってことだね。」
一通り話したあと、一応全ての4隅を見てから決めようということになった。クロのスピードにも慣れてきたので、今回は休憩もせずに次の‘角’まで進むことができた。
同じようにイブに人の気配を探ってもらうと、ここには人が何人か集まっていることがわかった。そしてちらほらと、柱のようにそびえ立つ青い結界が見える。誰かが所有しているヴィラの結界である。
人が多くいるところの近くに拠点を立てるつもりはないので、ここは諦めて次の‘角’に向かうことにした。今度は三時間ほどかかった。
同様に調べてみる。
「人はいないよ。でも魔物も一匹もいない。」
イブがそう言った。たしかに、人も魔物も【探知】にひっかからない。誰かが全部倒してしまったのか、もともとそういうタウンなのかはわからない。次のリセットタイムまで待つのは効率が悪いし、魔物が存在しないのは望ましくないので、ここもやめることにする。
そしてさらに二時間後、最後の角にたどり着く。
ここの条件は、最初にたどりついた角と似たような条件であったが、ひとつ面白いタウンを発見した。一番角にあるタウンから5つ離れたところに、真っ赤なタウンがあったのだ。もう真夜中で、あたりが暗かったので、余計に目立っていた。
真っ赤に見えたそれは、まるで炎の湖のようなものであった。見たことのない金属でできた巨大な桶のようなものの中で、うねったり波うったりしながらあたりに熱気を放っていた。
この炎がただの炎でないことはすぐにわかった。普通ならじきに燃え尽きてしまうだろうし、燃料となるものさえ何も見当たらない。魔法が使える世界で今までの常識を当てはめても仕方がないので、そういうものだと割り切ることにする。ただ、これをどのように利用すればいいのかは分からなかった。
とはいえ、最初の角と条件が似たようなものなら、珍しいタウンをヴィラにしておく方がいい気がした。
真奈もそう考えたようで、
「ねえ、これ何かに使えるかも。面白そうだしこの‘角’のところに引っ越そうよ。」
真奈は相変わらず、楽しいとか面白いとかをしっかり考えているようだ。
そういえば最近は、イブを強化することに必死で、真奈と二人きりの時間があまりとれていない気がする。
「そうだな、そうしよう。」
そういって、俺は真奈の方に手を伸ばす。真奈もほぼ同時に手を出してきて、自然と手をつなぐ。そして、“引っ越し”先のタウンの黒い部屋を目指して二人でゆっくりと寄り添って歩いて行った。
「え、急すぎてついていけません。なんでそんなに自然な感じで手をつないでるんですか!」
イブは動揺しながらそんなツッコミをいれ、慌ててこっちに追いついてきた。
「前に言ってあったろ?真奈は俺の全てなんだ。手をつなぐことも普通だし、ちょっとした挨拶みたいなノリでキスできるし、お互いに気が向けばその先のことだってするぞ?」
俺も真奈も、恋人同士の燃え上がるような気持ちやドキドキ感は全く持っていない。自然とそういうことが出来てしまうのだ。いいことなのか悪いことなのかは分からないが、少なくとも俺は、今のこの関係が一番であると思っている。
常に理性的で、ある意味では冷めているともいえるこの関係は、実に俺たちらしい。そのうえで、お互いがお互いのことを命ほどに大切だと思っているのだ。‘恋’という激情ぬきにして、これだけ大切に思えるのだから、それは本物の絆だろう。あ、ただ一応補足しておくが、‘恋’が偽の絆だとは言っていない。
余談はこれくらいにして、いよいよ“引っ越し”に取りかかろう。