第16話:世界の果てまでいってく(Q)る
朝食(昼食)を済ませると、もう一度鉱山のタウンにワープした。今日、計画がさらに進むことになる。実は、ブラックドラゴンを洗脳したのも、計画の一部に過ぎないのだ。計画がうまく行くかどうかはこれから決まる。
繰り返すが、この世界は広い。地球の表面積と比べものにならないほどに。それでも、この世界には‘端’があるはずである。地球は球体であったので、どこにも‘端’は存在しなかった。だが、この世界は真っ平らで、長方形の形をしていると神は言っていた。それならば、その巨大な長方形の、‘辺’にあたる部分があるはずなのだ。そして、辺の中でも、長方形の四隅である、‘角’の部分。ここに、俺は行きたいのである。
「なるほど、それでドラゴンなのね。」
真奈が言った。
「そう、ドラゴンに乗っていくんだ。」
ライブラリーによれば、ドラゴンの飛行速度は、音速の数十倍らしい。これならば、世界の果てまででも飛んでいけるだろう。
イブは、ドラゴンのところまで飛んでいき、すでに目覚めていたドラゴンに話しかける。
「・・・というわけだから、よろしくね、クロ。」
なにやらブラックドラゴンに説明をしていたようだが、イブがブラックドラゴンに、クロと名付けたことだけは理解できた。もはや威厳もなにもない。
クロは、こちらに静かに歩み寄ってきて、しばらくこちらを凝視してから立ち止まり、ゆっくりと頭を下げ、体勢を低くした。僕の背中に乗っていいよ、とでもいうかのように。
そしてイブが言った。
「ご主人様、クロが『僕の背中に乗っていいよ』と言っています。」
あ、ほんとに言ってたんだ。
じゃあ遠慮なく乗らせてもらおうか。
こうして三人は、クロの背中にのり、世界の果てまでいってくることにした。
音速をはるかに超えるようなものに乗ることなど、ふつうは不可能である。
それを可能にしているのが自分たちのレベルと、イブの実力である。
俺も真奈も、今は25レベルになっている。攻撃力は0だが、他のステータスはとても高いのだ。さらにもし、長い間背中にがっしりとつかまっていることに疲れを感じたとしても、イブはそれをすぐに察し、クロの速度を少し下げてくれるのである。
そのようにして、クロの背中にのった空の旅が出来るのだ。
クロは本当に器用なもので、他人のヴィラの“特殊結界”を、紙一重に完璧によけながらなるべくまっすぐに飛んでいる。
二時間ほど進んだだろうか。目の前に、青い光の壁が現れた。今度はヴィラを取り囲む“特殊結界”ではなく、見渡す限りどこまでも続く青い壁である。イブがクロを停止させる前に、クロが自分で止まった。
この青い壁は、この世界の上空に真っ平らに張られた‘天井の結界’と同じものだった。とにかく、予想通りこの世界の果てには‘壁の結界’が存在していた。これで、計画の大前提は整った。
壁沿いに、一直線に進んでいく。今度は1時間後、ついに、世界の隅っこにたどり着いた。その地点で‘壁の結界’は垂直に交わり、この世界の長方形の‘角’を為していた。
この付近に人間の気配はないかとイブに聞く。【探知】をつかっても、俺たちと同じように【隠れ身】をレベル5にしている人がいれば気付くことができない。
だが、イブが持つするどい感覚に任せれば、そんな小細工も一瞬で見破ってしまう。また、イブは気配を消すのも得意だ。パートナー契約をしてレベルを上げてからというもの、イブは【探知】にさえ映らなくなっていた。どんどんイブがチートキャラになっていく。
「いませんね。誰も。」
「オッケー、ありがとう。これで計画の6割は成功したようなもんだよ。」
そういって、一度クロの背中から飛び降りる。続いて真奈、イブも飛び降りた。