第15話:洗脳って大変だ。イブなら出来るけど
夜になり、もう一度鉱山のタウンに向かう。【探知】と【観察】により、ブラックドラゴンが眠っているとわかった。
ついにこのときがきた。
イブなら失敗しないと信じているが、《帰還魔法》を使用する覚悟はしておいた方がいいだろう。黒い部屋には魔物は近づかないという性質があるとはいえ、怒っている魔物がこちらを追いかけてきたときもそうであるとは限らない。だから、黒い部屋に逃げ込むというのも安全策とは言えない。
準備の一つ目として、《精神回復魔法》を魔力50で購入した。これは、3回まで使える魔法だ。基本的に魔法は、消費物だと思ってもらえばいいだろう。
《帰還魔法》とは違って、こちらは使い終わったらまた購入すればいい。
ちなみに回復魔法の種類には、《体力回復魔法》、《魔分回復魔法》、《状態異常回復魔法》などがある。
続いて、《睡眠魔法》を購入した。これは名前の通り、かけた相手に眠りを誘う効果がある。使用可能回数は3回だ。これも魔力が50必要だった。
これらの魔法は俺が購入したものだが、真奈も《睡眠魔法》だけは購入した。
さてと、準備は整った。最強のドラゴンを手に入れてやろうじゃないか。まあ、手に入れるのはイブだが。
三人で、ドラゴンのいるところまで飛んでいく。俺と真奈は、攻撃力が0ではあるが、サポートをすることは可能だ。
まず、俺と真奈が同時に《睡眠魔法》を発動する。もともと眠っていたドラゴンは、さらに深い眠りについたはずだ。そして、イブが【洗脳】を開始する。
すでに二分が経過した。そのとき、にわかに頭痛が襲ってきた。イブの感覚が伝わってきたのだ。ブラックドラゴンは眠ったままだが、それでも精神の抵抗力がすさまじい。ブラックドラゴンはよほど強い精神力を持っているのだろう。
洗脳しようとする意思と、それに対する相手の抵抗力が激しい戦いを繰り広げ、脳は悲鳴を上げる。頭痛がひどくなる。とっさに、《精神回復魔法》をイブに向けて使う。少し頭痛が和らいだ。イブの苦しそうな表情も、少しはマシになったようだ。そして再度、《睡眠魔法》を発動する。ドラゴンに3回分の睡眠魔法がかかる。真奈ももう一度《睡眠魔法》を使用する。これで、もともと眠っていたところに、さらに4回分の《睡眠魔法》がかけられたことになる。
精神の奥底で、ブラックドラゴンが最後の抵抗をしていることが伝わってくる。また激しい頭痛とめまいが襲ってくる。すばやくイブに向けて《精神回復魔法》を使用する。繰り返しもう一度《精神回復魔法》を発動する。
そしてやっと、頭痛やめまいから解放され、その瞬間、イブがふらりと倒れた。真奈が慌てて駆け寄り、イブを抱き上げる。俺もすぐに向かう。疲れ切ってはいるが、達成感に満ちた表情で、イブが何かを言いかけて・・・そして気絶してしまった。
何も言わずとも、その表情をみれば、洗脳が成功したことがわかる。そのままゆっくりとイブを黒い部屋まで運び、拠点にワープした。全力で頑張ってくれたイブを抱きしめながら、その日は眠ることにした。
久しぶりにゆっくりと寝て、目が覚めたのは昼の1時をすぎた頃だった。
「イブ、昨日はよく頑張ったな。」
「そうだね、イブは本当にすごいよ。」
「ありがとうございます。」
そういって少し頰を赤く染め、頭をこちらに寄せてきた。かわいすぎる。美しい上に、かわいくもできるとはこの子は万能ではないか。俺は思いっきり頭をなでてやった。真奈もほほえみながらイブの背中をよしよしと撫でている。
イブのチートはまだ始まったばかりである。