第14話:これこそが、欲しかったスキル
次は、イブが2体のハムステアを倒し、あっという間に戻ってきた。
今度は“疑似水晶”と、適正レベル3の魔石を用意する。さっきと同じようにして、“従魔強化”を行った。
すると、イブがスキルを獲得した。それは【洗脳】である。これこそが、俺の期待していたスキルである。【洗脳】は、従魔か魔物にしか獲得することが出来ないスキルで、強い精神力と支配力が要求される。精神支配等については、俺と真奈が最も警戒しているものであり、それについて“ライブラリー”で調べたときに知ったものである。
思わず、「よし!」といって俺はガッツポーズをした。ついに、やりたかったことが出来そうだ。あと1つまでは“疑似水晶”を使ってしまっても計画に支障が無いので、イブのレベルをあと1つだけ上げる。これで、イブのレベルは4になった。また、イブは《闇魔法》という魔法を手に入れた。
今のところ一回も手を抜くことなく順調に強化出来ている。この調子でイブを最強の従魔に育て上げよう。ここで一旦、“パーティー補助”を発動し、再びイブへの経験値を遮断する。
先ほどから何かを考えていた真奈は、
「さすがに今回は亮が何をしようとしているのかわからない。早く教えて。」
といってきた。とてもワクワクとしているときの顔だ。
「わかった。じゃあちょっと見に行こうか。」
真奈の操作で一旦拠点までワープし、続いて今度は俺がワープを発動した。ついた先は、そう、例の鉱山である。
黒い部屋から【探知】と【観察】を発動する。どうやら、今は眠ってはいないようだ。
俺が見ているのは、一体の魔物だ。今までの中で唯一、イブにも勝てるだろう魔物、その名はブラックドラゴン。
イブは、遠くからでも気配を感じ取ったのか、ぶるっと身震いした。そして、俺にしがみついてきた。きっと、自分より強い存在に出合ったのが初めてなのだろう。
「亮様、もしかしてあれに挑めとおっしゃるのでしょうか。失礼ながら、先にお伝えしておきますが、今の私ではあれに勝てません。」
いつもより早口でイブがそう告げる。
俺はイブの頭をなでながら、「大丈夫、戦わせるつもりはないよ。」といった。
その言葉で、イブと真奈は察したようだ。
「私に、あれを【洗脳】してこいというのですね。」
先ほどとは違い、武者震いのたぐいの震えにかわり、顔つきも、何か新しいことに挑戦する覚悟を決めたときのように、やる気に満ちている。
「ああ、イブならできるさ。ただ、今ではない。」
「眠っているとき、でしょ?」と真奈が言う。
「その通り。」
そういって、俺たちは再び拠点に戻った。起きて活性化しているときより、眠っているときの方が洗脳しやすいのは当然だ。安全のための努力は怠ってはならない。
それからは、【洗脳】の検証を始めた。洗脳するのにどのくらいの時間が必要なのか、何体まで操れるのか、どこまでの命令がどの精度でこなされるのか、などである。もしさっきドラゴンが眠っていたとしても、すぐに【洗脳】をさせる気はなかった。ろくに調べもせずに勢いで行って、危険にさらすのは愚かなことだ。
以下は、【洗脳】についてわかったことである。
・必要な時間は洗脳対象の魔物の強さによって変わり、短ければ2,3秒、長くて2分ほどであった。【洗脳】中、イブはそれに集中することを余儀なくされ、身動きがほとんどとれなくなる。
・最大で50体ほど操ることができるが、強い魔物が含まれているとその数は減る。また、そのときの洗脳の度合いによっても異なる。
・命令は、基本的に忠実にこなされる。ただし複雑な命令は、知性の高い魔物にしか出来ない。
あくまで、今の段階の能力だ。魔物や従魔のもつスキルには、スキルレベルという概念はなく、成長すればするほど、強くなっていく。イブの【洗脳】はこれからどんどん強力になっていくだろう。
そして夜までの間は、いつも通り魔石集めをした。
この世界は本当に広い。約75億人もの人がいて、これだけいろいろなところにいっているのに、未だ数えるほどしか人を見かけていないと言うことから、それがわかる。