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ゴミ箱の中の街  作者: 藤柵かおる
第一章
3/32

珍しいゴミ


「うおっ!」


 それを認知した瞬間、ヒロはさきほどの崩落音で驚いた時以上に飛び跳ねつつ後ずさった。


「…………」


 周囲に誰もいない中、ヒロは言葉を失いつつそれを見つめ続ける。

 ゴミの山の中から確かに存在している五本の指が生えているそれは見間違いなどではなく完全に人の腕そのものであった。

 一体いつからそこにあったのか、そんな疑問が沸いてきたがそれよりも前にヒロはそこへと近づいていくとまじまじと観察し始める。


 ヒロは驚きはしたがすぐに平常心を取り戻している、実際のヒロはこのような場面には何度か出食わしたことがある。

 先ほどのように崩落が起きるこの最下層アンアンダーでは巻き込まれて生き埋めになった者はこのような形で出てくる事もありもっと言うと崩落した通路に人が消えた瞬間もヒロは見たことがあった。


 だがそれを見たヒロは少しだけ違和感を覚える。


「なんか……綺麗すぎるな……」


 周りにここまで部品があるという事はこの辺りには人が立ち入ったことはないという事、だがその腕の綺麗さから見るにどう見ても生き埋めになってからそれほど時間があっていない。

 むしろまだ生きていそうなぐらいの良い色をしている、一体いつからここに埋まっていたのだろうか。

 そんな事も思ったヒロだったがそれよりも先にすることがあったので取りあえず思考をそちらへと切り替える。


「とにかく……掘っておくか」


 ヒロはその手足を動かして周囲の廃棄物の海をどかし、全く躊躇せずにその腕の持ち主足るものが埋まっている部分を掘り返し始めた。


 廃棄場ドレインでは人間の死体すらも売買される。


 もちろん大っぴらに売買されてはいないが死体の場所を教えると金をくれて戻ってみるときれいさっぱりなくなっているという「現象」は良くあることだ。

 ヒロもその現象を今から起こそうとしているだけ、そのための準備としてまずは取れそうなものは先に取っておくことにした。


 生き埋めになっていれば手持ちをそれなりに持ったままということも多い、生きるために精一杯の人間からすれば立派な収入となりえる。

 人の死体を売買し、身を剥ぐ、その行為を残虐非道という者は当然存在する。

 だがここではその全てが「生きるため」という大義名分によって肯定される、そうしなければ生き残れないのだ。


 仕方がないとまでは言わないがすれば生き残れる確率はあがる、否定することは自らを否定したも同然となるならばせめて自分自身ぐらいは肯定していたくはある。

 大義の元に躊躇せずにどんどんと掘り進めていくとその全貌が次第に明らかとなっていく。


「なんだ……これ……」


 だが掘り返していくにつれてヒロの心臓は不信感によって高鳴っていく、腕の根元を掘っていくと次第に肩のような部分が見えてきて、そこから胴体のような太い部分も見えてくる、そして一時間ほどかけてようやく掘り返したヒロの前に現れたのは――。


「ぅお……」


 廃棄物の山に完全に埋まっていたその腕はしっかりと四肢を残しまるで今にも目を覚ましそうなほどに綺麗さを保ったままの女性であった。


「…………」


 ようやく完全に掘り返すことに成功したがその完全な姿を残した女性を目の前にしてヒロはどうするべきか逡巡する。


 目の前の女性の死体は本当に生きているかのように美しい姿をしている。

 長い黒髪はまるで絹糸の様に一本一本の流れまで把握できそうなほどに艶やか、肌はまるで人形を思わせるかのように白い。

 廃棄物の崩落に巻き込まれ、生きたまま手足が潰され身動きも出来ずに酸欠で苦しみながら死んだであろう人間の死体を見たことがあるヒロに言わせればそれが同一の存在であるようにはとても見えない。


 服も着ているがその服もまたヒロが見たことがないようなよくわからない仕組みをしている、全体的にはワンピースのような上半身部分と一体化したスカートのような感じだが首元の部分に全く隙間がなく肌にくっついているような状態になっている。


「どうなってんだこれ……」


 ヒロはそう言いつつスカートのようになっている部分をぺろりとめくった。

 どっちにしろ死体であり気にする必要もない、そう思って単純な好奇心で行ったその行為だったがそれはさらに疑念を加速させる。


「は?」


 スカートの下を除いたヒロは今までで一番おかしな声を上げた。

 ヒロの目に見えたのはスカートの根元が肌の中に入っているという光景、言い換えるならばスカートが肌と一体化しており肌から布が生えているような状態になっていたのだ。


「なんだよこれ……」


 そこでヒロはもう一度をまじまじとその死体を見つめる。

 何度も言うが顔立ちは非常に端正である、線の細い感じの顔立ちは人形のようなイメージを感じさせるものの決して無機質と言った物ではなくまるで時が止まったまま眠り続けている美女。


 ヒロはなんとなくその顔へと手を伸ばし触れる。

 触れたところでヒロはその固さに違和感を覚えた。押すと人間の皮膚のように柔らかく沈みこみはするだがその下にある骨格の部分が何かおかしい。

 固さを持っており人間の形をしているのだがその固さが余りにも均一でまるで綺麗に型取られた金属が埋め込まれているような状態になっている。


「……これは」


目の前にある物は明らかに普通のものではない、そう確信したヒロはすぐに準備に取り掛かり始めた。

 放りっぱなしだった荷物を急いでかき集めてバックパックに放り込む、崩れた山から出てきた部品はまだ全て拾い終わっていないがそんなものはどうでも良いとばかりにほっぽっておく。


 今はこれを急いで安全な所へと移さなければならない、この手足もしっかりと残されており、長い間埋まっていたに関わらず十分な形を保っている人にしか見えない物体。

 ヒロは片付け終わったところでその物体のわきの下から首を入れ、肩で支えるような形で担ぎ上げたのちに普段暮らしている住居の方へと戻り始めた。


「こいつは……珍しいゴミだ……!」


 狭い道を戻る間、ヒロの心はしばらくぶりの高収入の予感に徐々に高鳴っていく。



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