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時間回帰の荒御霊  作者: 佐守 竜空
ぐだぐだな序章編
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不穏Ⅲ

「もう一度言う。責任を俺に擦り付けるな」

「……」


 最後にそう告げて背を向ける。


 不良はなにも言わない。そういえば、と理不尽な暴論を押し付けれた八つ当たりと愉しむための揶揄いの意味合いが強い反論を披露している間も、ほとんどなにも喋らず静かだったことを思い出した。


 それでも至って問題はない。そう結論付けて、今度こそ建物の外に出ようと出口へと歩く。


 今頃、外はオレンジ一色に染まっているだろう。


 夜に出歩くのは、今も昔も危険であることにそう変わりはない。というか、ゾンビがうろつく屋外は、昔以上に危険な場所となっている。


 屋内にいるのが一番安全……という訳で、早々にここを発って家に籠るとしよう。俺はそう予定立てる。


──ざわり。歩いていると不意に、そんな得体の知れない感覚が走った。


 その確信にも似た嫌な予感を信じて、即座に真横へと跳んだ。


 振り向き様に今まで立っていた場所を見ると、そこには刃物を突き立てた不良の奴がいた。奴は目を血走らせ、仕留められなかった己の武器を睨み付け、次に刃を逃れた獲物である俺を忌々しそうに見る。


「あれ、おかしいな。殺されるようなことをした覚え、そもそも恨まれるようなこと、してないんだけど?」


「アハハッ……なにを言ってやがる。お前が留美を殺したっ!だからっ!俺はお前に復讐するっ!」

「止めたまえ!そんなことをしても、彼女は生き返ったりなどしない!」

「頭を冷やせ!少しは冷静に……」


 壊れたように笑い、奴は意識を俺ただ一人に定めた。コミュニティの何人かが宥めようと声を掛けるが、周囲の制止する声など気にも留めていない様子だ。


「吹っ切るのはいいけど、ここまで壊れるのは普通に想定外なんだけど。というか、正直言って、迷惑極まりないんだが……帰りたい」


 この程度の相手、ゾンビに換算して……そうだな、知性があることを加味して三匹くらいの危険度だろうか? そう考えると、殺気をまき散らす生身の人間が存外弱く感じてしまうから不思議だ。


 そう感じてしまうくらいに、短い期間でも数多の修羅場をくぐってきた、ということだろう。それほど危険な戦場がたった一日で経験できるとか、どんな社会だよと思わなくもない。


「死ねーっ!」


 周りの制止を振り切り、奴は俺に襲い掛かった。上段からの振り下ろし、そこからの薙ぎ払い。あとは子供の癇癪のような滅茶苦茶な攻撃……ただ我武者羅に振り回すだけだった。


 素人丸出しの(俺も戦闘経験の浅い素人だから、あまり強く言えないが)見ていられない、精錬の欠片もない残念なものだった。


「お前──ゾンビになった留美さんって人、殺したろ?」


 次から次へと迫りくるナイフを躱しながら、半ば確信に満ちた推測を述べる。


 その予想は的を射ていたのか、奴はピクリと反応して動きを止める。


「もう一度言う。迷惑だ、自己中な謎理論で俺を悪者にすんの止めてくんない?」


 奴に、反応はない。


 もし俺が静観などせずもっと早く助太刀していれば、留美は死なずにゾンビとなることもなく、ゾンビとして殺す必要はなかった。性懲りもなく、そう考えているのだろう。


 まぁ、言葉通り推測の領域。事実は知らない。どうだっていい。


「よし。んじゃ、今度こそ──」


──帰るか。踵を返し今度こそ帰ろうとしたところで、


「五月蝿い五月蝿い!黙って死ねぇ!」


 突如面を上げた不良が叫び、襲い掛かってくる。攻撃は、背面を狙った突きだ。


 ここまで言っても、奴の中で、俺は恋人? を殺し、その亡骸を殺すように仕向けた悪者であるらしい。


 しかし。不良の咆哮が、先ほどまでの罵詈雑言とは質が明らかに違った。例えるなら、刑事ドラマで見た「崖っぷちに追い詰められた犯人」みたいな。歪んだ形相に如何にもな悪者のセリフだ、間違った表現ではないだろう。半狂乱、というのはこういうことを指す言葉なのだろうか。


「よし──満足した」


 俺は小さく呟く。仕返しは、このくらいで十分か。そう判断して、俺は溜飲を下げる。「矛盾した謎理論の論破」という、俺流の精神攻撃はこの辺で終わらせて、差し迫った問題の幕を閉じるとしよう。


「ふっ」


 突き出されたナイフを握った手首に軽く裏拳。握る手の力が抜けて、手からナイフが零れ落ちた。そのまま、(出来る限り)流れるような動作で後ろ蹴りを腹部に叩き込んだ。


 ここで問題です。バットで殴りつけるだけでゾンビ一匹が軽く吹き飛びます。そんな超人的な身体能力を持った(手に入れた?)人間の放つキックの威力は、一体どれほどのものでしょう。


 それは、この不良が己の身体を犠牲にして教えてくれた。


 奴は吹き飛び、窓に衝突。しかし、それだけでは威力を殺しきれず、残った速度に流され窓ガラスを突き破った。そして、そのまま重力に従ってなにかに引かれるように落下し、少しして水っぽい湿った音、重たいものが落ちた音がした(ちなみにここは建物の三階である)。


「ふう……。やっぱり面倒事だった」


 息を吐いて、そう愚痴をこぼした。


 呆気なく終わってくれたのが幸いだ。割とあっさりとしすぎて文句が出そうだが、現実に二次元みたいな展開が起こるなんてことは御免被る。まぁ、アニメのシナリオのように丁寧な段取りではなく、実に現実らしい急な展開だった訳だが。


 そもそも、事件などは起こらずに平和であった方がいいに決まっている。


 刺激が欲しい?知りませんよ、平穏が一番です。

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