不本意な決断
「くそが……っ!」
援軍の要請を受けたと同時、俺はゾンビの集団へと駆けた。
仮にここで助太刀せずに見捨て、しかしこいつらが自分達でこの場を切り抜け他の生存者のグループに合流したりでもすれば、そのグループが俺という『悪逆非道生存者』の存在を警戒……最悪の場合は“正義”の名の下に殺害するかもしれない。
それに、この世界で生きている人間に貸しを作るのも、これから生きることを考えれば悪くない選択だろう。
しかし、
「選択をした後のデメリットが……どちらにしろ大き過ぎんだよなぁっ!?」
その言葉の通り、あまりにも理不尽な選択を迫られ溜まったフラストレーションを、うじゃうじゃと立ち並ぶゾンビにぶつけることで発散する。
憤りの篭もった鈍器を叩きつけられた哀れな被害者は、ほんの数秒と保たず儚く散っていく。
心は炎のように荒々しく燃え上がっているが、頭の方はいたって冷静。
この時点までの戦闘経験によって生み出された『いまの俺でも、それなりに効率よく壊せる殺し方』で、戦場経験初日の素人にしては無駄の少ない動きでゾンビを倒していった。
* * * * * * *
「マジかよ……たった一人であの数を相手に、それも押してる……」
恭一の戦闘を遠目にとはいえ目撃した男は、その光景に息を呑み唖然としている。彼も数日前まではしがない会社員だったのだ、派手で現実味のない光景を受け入れられなくても仕方がないといえる。
しかし、いまここは戦場。そんな獲物の隙をゾンビが逃さない訳もなく、彼に襲い掛かった。
「……そうです、ね! でも、よそ見している場合ですか?! 危なかったじゃないですか!」
それを察知したもう一人の男性は、襲い掛かるゾンビを持っていた鉄パイプで殴りつけ窮地から救った。
そして、そんなピンチの当事者である男を叱責する。その言葉から滲み出る怒気からして、ただ文句をぶちまけただけかもしれないが。
「風間さんの言う通りです。布良さん、気を抜き過ぎですよ」
風間の叱責に追従して、女性がさらに不注意を咎める。彼女は布良を咎めながらも、近付いてきたゾンビを蹴り飛ばした。その女性的な体格からは想像できない威力があったようで、ゾンビは周囲のゾンビ達も巻き込み地面に倒れる。
「んなことどうたっていいだろうが!! さっさと化物共殺すぞ!」
この生存者達の中で一番若い男は、仲間の窮地を「どうでもいい」と斬って捨てた。通っている高校の物だと思われる制服を着崩しただらしない格好、耳についている銀色のピアス、言葉から察せられる歪んだ性格。おそらく、この男は『不良』と呼ばれる人種なのだろう。
そんな彼は金属バットを振り回してゾンビを攻撃している。急所である頭部以外も殴っているのは、冷静な判断ができないためか。
ちなみにだが、恭一に助けを求めたのはこの不良である。
──事態の収束は近い。