殺人計算
「殺人ノート?」
「そうだ。このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」
「信じられるか」
「試してみるか?」
しばし、沈黙。
「わかった、信じる。続けろ」
「殺すにもいくつか条件がある。たとえば死因。既定値は心臓麻痺だが、実現可能な死因をこちらで指定できる。もちろん自殺も可能だ」
「実現不可能な死因を指定したらどうなる」
「実現しない。心臓麻痺になる」
「なるほど」
「弾が一発しかない銃と、人間が二人いるとする。一方が先に銃で自殺してしまうと、他方は心臓麻痺で死ぬしかない。逆も可能だ。これは"NOT"ゲートになる。ついて来れるな?」
「ああ」
「同様に一発の弾と三人の人間を考えると、これは"NAND"、すなわち、二つの入力がどちらも"偽"、心臓麻痺だった時にだけ三人目の出力が"真"、自殺になる論理ゲートとして作用する。"NAND"さえあれば組み合わせしだいで全ての論理ゲートを構成できるし、もっと効率よく作ることもできる。殺人が計算するんだ」
「なにが言いたい?」
「『人生、宇宙、すべての答え』は知ってるか?」
「小説の話だろう?」
「俺はそれを計算している。このノートでな」
「意味がわからない」
「およそ計算できる物は、さっき言った方法で必ず計算できる。これは何十年も前に証明されてる。もちろん自殺や心臓麻痺を全部俺が仕切ってるわけじゃないから、ある程度のノイズは生じるが、それを吸収するのに十分な冗長性を持たせてある。計画に三年、調整に五年かかったが、いま世界中で進行している現象は、すべて俺の計画によるものだ」
「待て、お前の話なら、それはすなわち機械でだってできることじゃないか。なぜ人を殺す?」
「機械ごときに人生の答えが解るわけがないからな」
「しかし、人間だって機械だろう」
「それはそうだが、多種多様な人間を全部機械でシミュレートするのは面倒だし、それ以前にそれはもう殺人と同じだ」
「納得できないな」
「だろうな…なぜ、お前がここに来たと思う?」
「偶然だろう?」
「いや、必然だ。『お前』である必要は無かっただろうがな」
「なんてこった」
オチは、無いです。
まぁ要するにデスノートの使い道の話で、作中の手法を適当に組み合わせれば計算ができるよ、という。それ以外に特に意味は無いのですが、まぁ「答え」を知った男はたった独りの世界で何を想うのか、なんかに勝手に思いを馳せるのもいいかもしれません。
ああ、「人生、宇宙、すべての答え」はgoogleあたりで検索していただければ、(人類を滅亡させることなく)計算できます。便利な世の中です。
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