姉川静
初投稿です。読んでいただければ幸いです<(_ _)>
不定期投稿です。
静と書いてジョウと読む。
別に不良マンガみたく本気と書いてマジと読んでみたり、ファンタジーみたく火蜥蜴と書いてサラマンダーと読ませてみたりするワケじゃないから要注意だ。ただ単に静脈のジョウってだけだからさ。
けど、なんで意気なりこんなことを言うか、気になるって? そんなの答えは簡単だよ。それがオレの名前だからな。
姉川静。
字面だけ見れば、女と間違われることも多いけど、オレの性別は正真正銘男。付いてるもんもちゃんと付いてる。
だから、いまさら間違われたってどうとも思わないんだが、それでもいつになっても慣れないことっていうのもやっぱりあるんだよな。
特にそれは名前と本人を見比べられた時に起きる。
たとえば、病院とかな。受付での反応だ。
名前が呼ばれるだろ。だいたい間違って、姉川しずかって呼ばれるんだが、それでオレが行くと、だ。
「……」
頭から足のつま先までじっくり視線で舐められたあげく、「え?」って顔で、診察券を二度見されて、それはそれは渋い、ホントにもう渋すぎる顔で、オレの名前を確認してくる。
それが男の受付だと、さらにだ。一体どんだけ劇画タッチで描写されたらそんな顔になるんだろうって言いたくなるくらい明らかにがっかりされる。
これはマジでオレも嫌なんだからな。わかっちゃいるけど、オレだってこれをされるとすっげえがっかりなんだから。
だから、みんなも気をつけろよ。
本人ひどく傷つきます!
――って、別に、そんなことを宣言するするためにいちいちこんことを言ってるわけじゃあないんだけどな。
つまりは、自己紹介の延長だよ。自己紹介のさ。
だから、あとはオレの歳とかも言っておこう。
オレは今年で一七歳になる高校二年生だ。見た目は平凡、中身はけっこう変態? 部活は情報・処理部。現在、部長!
部員たちにめっさ慕われて、日々リア充生活――
出来てたらどんだけいいか!
フッ。願望だよ、願望。大事なことだから、思わず二回も言っちゃったよ。
実はさ、うちの学校――黒川高校は田舎の高校だから、こういう文化系の部活に入ってるヤツはかなり少ないんだよな。だから、情報・処理部は現在、部員が一名しかいない。
つまりオレオンリーだ。だから、部長つったってまったく偉いわけじゃあないし、むしろオレロンリーつってもいい。ただでさえクラスでも、ぼっち生活なのに、部活でもって――うぅっ。
クッ。きゅ、急に目から雨がっ! 屋内なのに!!
い、いや、これは違うんだ。これには理由があるんだ。世間が悪いんだよ!
ハッキリ言っておくと世間がオレを、キモオタ扱いしやがるから!
今オレがいる、この情報・処理部の部室を見て、みんながみんな、よってたかって引きやがるんだよ。ただ、棚にはちょっと毒々しい色をしたゲームの箱とか、カワイイキャラのフィギュアとかが、所狭しと載ってたりするだけだってのに!
ゲームだって、ギャルゲーだけじゃなくて、みんなもやってるFPSとか某有名大作RPGもあるのに関わらずっ!
それにそもそもこれは全部オレのものじゃあなくて、代々情報・処理部が受け継いできたヤツなのに!
いや、でも、目下オレの代になって急激に増殖してるってのはあるけど、そ、それのなにがいけない!
なにがキモオタ乙だ、コンチクショー!
「ハァハァハァ……」
しかし、こうやって息切らしてるだけで女子共は退いていくからな。世の中世知辛すぎんだよ。まったくなんでわかんないんだろうな。
オレのことは置いておくとしても、この高尚かつ、高度な文明の利器を使った、極度に昇華され洗練された最先端の遊技を、卑下するなんて、愚かしいにもほどがあるとは思わないか? 嘆かわしい限りだよ。
――もっとも先端を行きすぎて叩かれた信長みたいに、行き過ぎた者は保守的な人間からは理解されないということも理解はしてるけどな。偉いだろ? オレ。
だからこそ、オレは何にも言わないし、今以上の待遇は望んじゃあいないが――逆に問題なのが、その正反対のことをされることだ。
実は目下、それがもっともオレにとって、そしてこの伝統ある情報・処理部にとって重要な懸案事項になっちまってたりする。
さて、そのことなんだけど、相談があるんだ。どうすればいいと思う? オレはこの件についてマジで悩んでる。悩んでどうにかなることでもないかもしれんのだが、間違いなく頭痛の種になってる。
そしてそれが、オレをこんな風にPCにつらつらと恨み言を書いたりなんかをさせる要因なんだよ。
なぁ、だからちょっと聞いてくれないかな?
昨日のことをさ。
オレは優等生ってわけでもないが、劣等生というわけでもない。さっきも言ったが極めて平凡で目立たない、どこにでもいる平均的な成績の生徒なのに、放課後に職員室に呼び出されたんだよ。
分かるだろ? オレは小心者なんだ。日直でもないのに呼び出されるなんて、それだけで戦々恐々なんだよ。説教でもされるのかと思ってさ。そしたら、だ。オレはそこではっきりと言い渡されたんだよ。
「え? もう一回言ってもらってもいいですか?」
オレは信じられずに、深刻な顔をして思わず聞き直してたよ。
相手はじいさん先生だった。
そこは職員室の窓際。じいさん先生こと、小地谷男治郎先生のデスク前だったよ。オレを呼び出したのもそのじいさん先生だった。
いつもならお茶をすすりながら、そこから見える中庭へとぼんやりと目を向けて、聞いてるのか聞いてないのか、話に頷いてるだけのこの人が、この日はちょっと違ってたんだ。
立っているオレをどこか眩しそうに見上げて、その横しか髪の毛の残っていない頭頂部の禿げ上がった頭をわざわざバーコードに手櫛で丁寧に直して言ってきたんだ。
「今日で退職なんじゃ」
それが意味するのは、おめでとうございます、良かったですね、これで晴れて隠居暮らしですか? 前々から言ってましたもんね、教師を辞めたら、盆栽一筋だって、ついにそれが実現ですか?
いやぁ、いいですね、オレもいますぐにでもそうしたいですよ、ただし、盆栽じゃなくオレはゲーム三昧なんですけどね! あはははー。
なんてどこぞの上司に向かってのんきに言う阿呆な部下のセリフ、じゃあ、もちろん無い。これは断言できる! いや、断言できんほうがおかしいが、それはともかく!
つまりは、こういうことなんだよ。
「――ってことは、ま、ま、まさか……廃部ですか?」
オレは恐る恐る聞いたよ。
そう、じいさん先生は情報・処理部の顧問なんだよ。
部員一名しかいないにもかかわらず、部として存続させてくれたうえに、生徒会に口利きして部費も十分な額を毎年支給することを取り付けてくれた偉大な先生だ。
ついでに言えば、一切部の活動内容にも口出しをしなかった、仏のような人でもある。
そんな人がいなくなるってコトは、活動自体が出来なくなる恐れすらあるわけで、それはすなわち廃部にも等しい大事件がいま、この職員室で起きてるってことだった。
オレの顔色が青を通り過ぎて土気色になったのもわかるだろ?
まぁ、見えないだろうけどさ。
けど、じいさん先生はすぐにこう言ったんだよ。
「じゃが、安心せい。後任はすでに決めておるでな。ほれ」
とじいさん先生は視線をオレから外していた。噂をすれば、と言うヤツだったよ。その視線の先が向かった先ってのは、職員室の出入り口だった。
がらりとあいたそのドアの向こうから丁度入ってきた人物――
「!?」
なっ! ま、マジ!?
オレはぎょっとさせられたよ。
とりあえず、そう――こう真面目に言い表させてもらおう。
冬の寒い日、まだ太陽も昇っていない黎明の空を見上げているかのような心地になった、と。(フッ。我ながらちょっと格好いいかも?)
見上げた時にきっと、みんなも感じると思う。何ものにも犯されない凛とした空の清澄さを。
けど、ただそれだけじゃあなくて、同時にそこに秘められた自然の力強さをも感じるはずだ。
人を容易く受け付けない、畏怖をまとった自然の圧倒的な存在感をな。
つまり、それらが、だ。それらがもし仮に人の形をとったとしたら、きっとこの目の前に現れた彼女みたいな姿をとるに違いないとオレは思ったよ。
あぁ、わかってるとも。もちろんそれだけじゃあまったく伝わらないだろうと思うから、補足はしておく。
まずゾクゾク来るのは、彼女の切れ長の気の強そうな黒い目だ。
これに睨まれたまず間違いなく動けなくなるだろうな。刃物のような研ぎ澄まされた鋭さと美しさがそこに同居していたよ。
髪の色も黒。彼女のそれはおそらく長いんだろうが、いまは、三つ編みにされて頭の後ろでぐるりと円を描くようにまとめられていた。
わざとまとめられずに残されたもみあげが、アクセントになって、二〇代も前半くらいの年齢なんだろうが、同世代の人間とくらべるとひどく大人びて見えたよ。
あとは男子諸君らがもっとも気になるだろうプロポーションだが、これがまたほぼ完璧と言っていい。胸は圧倒的な支持を得られるDカップ!
腰は見事にくびれて、おしりはキュッとあがってスマートだ。さらにすらっと長い足までそろっている上、なにより顔は超絶美形。日に焼けてキャラメル色になった肌なんかも、モロにオレの好み。
勝ち気そうでクール。うんうん、実にすばらしい!
しかし、やばいよな~。これで会話とかした日には鼻血が出るやもしれん!
それくらいの美女だったんだよ。
が、
「姉川しずかだったな――」
そんなことを言いながら手に持っていたファイルに視線を落としつつ、持っていたペンの後ろの部分でこめかみのあたりを掻いている姿を見たときには、さすがにちょっと嫌な予感がしたよ。
彼女はすぐに足を止め、顔を上げていた。じいさん先生の前にいるオレに、気付いたらしい。
たぶん、彼女は前もってじいさん先生から聞いてたんだろうな。オレをここに呼ぶって事を。
その女教師はオレと目が合うなり、
「……」
手に持っていたファイルに再び視線を落として、それからオレをまた見、なにを言うかと思えば、
「ブフッ!」
吹いた!? 吹いただとぉっ!? とんでもリアクションじゃねぇか!?
「く、草間くん」
すかさずじいさん先生が困った顔をしてたしなめるように言い、彼女は慌てて頷いていた。
「あ、いえ、大丈夫です」
大丈夫? 大丈夫ってなんだよっ?
草間と呼ばれた女教師はそう言いながら、目尻の端にたまった涙を拭うと、オレをちらりと見つつ、こっちに近づいて来たよ。
「しかし、クッ、プフッ。まさかこのご時世にそんな牛乳瓶の底のようなメガネをしている生徒が本当にいるとは、ウフッ。しかも、これで名前が姉川静って――ヒーヒーッ」
フグオオオオオオッ!
初対面の人間を一目見て、コレか!? 腹を抱えて笑う!? どういう神経してんだよ!? 失礼にもほどがあるだろ、このアマっ!?
オレの中じゃあ、彼女に対するイメージは当然だが、大暴落だ。それどころか腸煮えくりかえる勢いだったよ。
そもそも確かにオレは瓶底グルグルメガネはしてるけども! そんなのは人の勝手だろうがっ!?
それにオレ、マジで傷つくんだからな! 名前がっかりとか!! とくに名前がっかりとか!! 名前がっかりとかさ!!
「草間くん」
「!!」
おぉ、じいさん先生! 珍しくさらに厳しい口調じゃあないですかっ! ほらほら、言ってやってくださいよっ! ガツーンと、ほら、ガツーンと!!
「世の中には言っていいことと悪いことがあってじゃな――」
そうだそうだっ!
「これは言っても良いことじゃから、ほれ、もっと言え」
「ぬごぉおおおおおっ!」
じ、じいさん先生……。いつからそんなキャラになった?
オレはマジでその場で膝をついてたよ。Orzってこの字型通りに。
少しでも笑っていただければなーと思っていますが、どうだったでしょうか。
続きは、現在も鋭意妄想中ですっ!