レトロブーム
「どうかな?」
「いやあすごいっ、すばらしいですよ」
男は子供のようにはしゃいだ。
「遠出した甲斐がありました。おかげで実物を拝めた」
男はそう言い、テーブルの上に置かれた物に視線を移した。
「この型は激レアなんですよ、マニアの間では」
手に取り、器用に動かす。
「…… 本当にこれが流行っているのかい?」
「もちろんですよ。レトロブームですからね。いい加減信じて下さいよ」
「そう簡単にはいかないよ。私にとっても大事な物だからね。そもそも――」
それ以上訊ねることはできなかった。男は物を動かすことに夢中だったから。私がトイレを理由に席を立ったことも、多分気づいていない。
「これは一体全体どういうことだ。彼の言っていることは真実なのか?」
いやそんなはずはない。馬鹿馬鹿しい。私は腕を組んだまま、家の中を彷徨いた。
「しかしそれならどうして動かせる? まだ市場に出回っていないのに。起動方法を知っているのは今現在私だけのはずだ」
立ち止まり、窓の外に目をやる。
「まさか本当に未来からやって来たのか?」