怪傑!「珍」事件簿 第四話
これは、最高裁判所判事の我輩が磯つりに勤しんでいた頃、珍事件に下した判決の事例集である。
およそ99%がノンフィクションによるものである。
第四話 『キツ殺魚事件の巻き』
この事件は、メンバーが「四国遠征」と、はりきって、牟岐大島へ釣行したときにおこったものである。
事件の主犯格はもちろんあの小村である。
その日も快調にグレをしとめ、メンバー(佐野と東田)は、満足感に浸っていた。
そのとき事件は突然起きた。
1.5号の細ハリスを使っていた小村は、得体の知れない獲物に何度となくハリスを切られていた。我慢しきれず2.5号の太ハリスに交換した瞬間、その獲物は姿をみせた。
小村の竿は、折れんばかりに美しい曲線を描き、ハリスは切れんばかりに音を上げていた。
「大物に違いない!!」
磯にいたすべての者がそれを確信する。
小村の竿さばきを、心配そうに凝視する二人。「いや、少し待てよ?グレの引きではないぞ?もしかして・・・」、心の中でそう思っていたのは。東田だけではなかった。やはり佐野もそう思っていた。時間がたつにつれ、二人の思いは確信へ変わっていった。
「小村さん!グレと違うでキツや。切れてもいいやんか!早く上げてしまい!!」
真剣に格闘している本人の思いをよそに、佐野も東田もそう叫んでいた。
(ちなみに、キツは磯つりにおいて外道の象徴とされているのだ。)
格闘は、時間にすると15分から20分は続いただろうか?本人はもちろん、周りで観戦している二人も、そしてキツまでもがクタクタになっていた。ようやく、上ってきたのはお約束の「キツ」だ。
「ほら、やっぱり」と、二人から罵声を浴びられる小村。しかしながら、本人はまだ真剣に外道とのやり取りを続けている。
「待てよ?キツには間違いないけど、60cmはあるぞ。かんばって取り込め!」
と、佐野の一言で、現場の緊張感は一気に高まった。
慎重にやり取りしていた小村は、ようやく獲物「キツ」をゲット。
と、思った瞬間、
「ボキ!!」
見事に佐野のタモが折れた。そう・・・キツの重みに耐え切れず折れたのである。
仕方なく、大村は糸を巻き巻きキツを磯際までたどり寄せた。
あまりに時間をかけすぎた。
既に「キツ」は仮死状態でまったく動かない。
60cmの大判のキツ。見事な獲物だった。
ただ、地元の徳島の人ですら、キツを食べないらしい・・・身が臭すぎるのだ。
判決:キツ殺魚未遂及びタモ物損
懲役3ヶ月(執行猶予なし)