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「今日も美しいね、私の最愛」


 右手を取られて優しく口付けをされる。物事を射抜くような瞳がしたからこちらの胸の内を探るようだった。


「美しいのは当然のことでしょ。精霊に愛された子なんだから」


 左手を別の人物に取られたかと思うと、相手の額に手の甲がくっつけられる。まるで祈るようなその仕草にどうしても慣れない。


「えへへ、精霊に愛されてたって、醜い子は醜いよ」


 膝に寄りかかるように垂れかかるいくつか幼い子供。キラキラとした瞳の奥には獲物を狙う貪欲さで溢れている。


「つまり、我々が言いたいのは、君が今日も変わらずにいてくれて嬉しいということよ」


 背中から肩に手をかけられ、耳元で囁かれる。くすぐったくて思わず身動きすると耳元でクスッと笑う声がした。



 両手に華――いや、それ以上。



 私こと佐々木梨音は左右前後に美しい女性がたに囲まれながら、ここに来てから変わらず受ける賛美の嵐に辟易としていた。感情を隠すのは得意な方だから、かろうじて表面上では笑顔を取り繕うことができていたが、それも時間の問題だろう。


 私はどこか冷めた笑みを浮かべながら、彼女たちに「ありがとう」と短く感謝を述べる。その言葉を受けて、彼女たちは満更でもない様子を見せる。私としては皮肉が込められていることにいい加減気がついてほしいのだが。


「リオンは本当にどこをとっても完璧だね。でも安心してほしい、たとえ君に欠点があっても私はリオンを愛する自信があるから」


 右隣にいるのはルナと呼ばれる、この世界における私の姉だ。潔癖なところがあって、人を寄せ付けない氷のような女性だと世間では言われているが、実際のところは妹である私を溺愛しているシスコンである。少しエッセンスを加えるのなら、溺愛が過ぎて過去に何度も私を監禁しようとした過去があるくらいだ。


「むしろ見てみたいわね。精霊の悪戯で欠けたところがあっても、それも祝福に違いないだろうけどね」


 左隣にいるのはミア。ルナの友人であり、唯一ルナが気軽に話すことができる人だ。優しいお姉様という雰囲気が全面に出ており、出会った当初は毛色の違う姉ができたみたいで喜んだこともあった。実際には、私を精霊に愛された神の子と敬う、狂信者だ。


「リオンお姉ちゃんの欠点くらい僕が補ってあげるよ! だから、リオンお姉ちゃん、僕を選んでよ」


 上目遣いで私をみてくるのは、ソフィと呼ばれた子供だ。女の子ではあるが一人称を僕とし、男まさりなところがある。普通から外れつつあるソフィに手を差し伸べたら、なぜか妹ポジに収まっていた。嫌がるルナに舌を出して挑発するのは後が大変だから本当にやめてほしい。


「こらこら、ソフィ。抜け駆けはダメだ。それにみんなで決めたじゃない」


 艶かしい声色で牽制するのは第二騎士団長のベラという女性だ。この中でも一番年上で、母親を失った私とルナの世話をよくみてくれていた。この国初めての女性騎士団長として、昼間は凛々しく、多方面からお声がかかるほどかっこいい女性でもある。それなのに、なぜかベラは私と結ばれることを望んでおり、外堀――つまり、国王様を巻き込んで私を手籠にしようとしているイカれた人だったりする。


「さぁ、リオン。今日はどんな可愛い姿を見せてくれるんだ?」


 周りの人から奪い去るようにルナが私を抱き上げる。膝から強制的に降ろされてソフィが恨めしそうにルナを睨むが、ルナの瞳には最愛の妹しか映っていない。


 私は四方八方から突き刺さる視線に頬を引き攣らせる。モテたいと常日頃から願っていたのは事実としてあるが、こんな形でモテたかったわけでは断じてない。それに私が好きになって欲しかったのは――心に決めていたのはたった一人なのだから。


 しかしそんなことを口にすれば、彼女たちからどんな目に遭うかわかったものじゃない。それは幼い頃からの経験則でよくわかっていた。


 なので、私はいつものように天使の微笑みを浮かべて胡麻をするようにルナに抱きつく。


「お姉様たちの望むままに」


 スリっと首元に頭を擦り付ければルナは勝ち誇り、恍惚とした表情を浮かべる。


 これが私の異世界での日常だ。


 一歩間違えればバッドエンドルートまっしぐらな攻略対象を、うまくいなしながら元の世界へと戻る方法を見つける。



 それが私の目下の目標だ。



 なぜか好感度マックスなこの異世界で、いかに相手を刺激せず、かつ決定的なイベントに巻き込まれずにいられるか。


 もしも私を意図的にこの世界に呼びつけた神様というのがいるのなら、一発殴らせてほしいと切に願う。


 見目麗しい人たちに囲まれながら、私は密かにこう思った。



 ――異世界でモテても意味ないんですけどね!?

不定期更新予定。

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