廃病院でVlog撮影
幼馴染の矢野は私の家によく泊まりに来る。
子供の頃から続く習慣で私が大学生になった今でも変わらない。矢野は大学生では無くスーパーでアルバイトをしながらネットで色々やって稼いでいるらしいが詳しいことは聞いていない。
「この前、廃病院へVlog撮影しに行ってきたんよ」
ここは関西ではないし、矢野は関西で育ったこともないのだが何故かえせ関西弁になることがある。
Vlog撮影もネットでの活動の一環なのだろうが、何故に廃病院なのか。
「矢野、ひとりで行ったの?」
「せやで、心霊スポットに誰かと行って何かあったらあかんからな」
矢野の言ってることはまともなのだが、やってることはおかしい。
「そんでな、スクーターで山の方にある●●病院の建物に行ってきたんや」
「あぁ、あの有名な心霊スポットの? スクーターで行くの遠くなかった?」
「そうそう、スクーターで行ったの後悔するくらい遠かったわ。でな、その病院で人体実験があったとか建物の取り壊しの工事をしようとする事故が起きて取り壊しできないとかっていう噂をネットで調べていたら気になってしもうていてもたってもいられなくなって夜中なのに飛び出してしもうて」
矢野も私と同じで実家暮らしなのだが、親は二十歳の娘が夜中に心霊スポットに向けて飛び出して行って心配にならないのだろうか。矢野とは幼馴染だが、あまり彼女の家のことは知らないんだよな。
「で、着いたはいいんだけど山の中だし、病院は潰れてるから電気も通ってないし真っ暗。こういうことがあるかもしれないと思って高性能の懐中電灯を買っておいて良かったで。頭に付けるのと手持ちの二刀流でピカピカ!」
片方の手にはVlog用のスマホを持っているだろうし、手と頭で二刀流というのもおかしい気がしたが放っておいた。
「ほんで、病院の入口が見えてきたんだけど自動ドアやねん。電気も通ってないし開かなかったらめんどくさいって思ってたんやけど、なんと!」
「なんと?」
私は一応、矢野に対して合いの手を入れた。
「ウィーン! って自動ドアの前に立ったら開いたんや。もうびっくりして笑ってもうた」
矢野は漫才であるような自動ドアを両手で開くパントマイムをしながら一人で爆笑している。私は怖くて笑えないのだけど。
「それ、心霊現象でしょ?! 笑ってる場合じゃなくない?」
「ごめんて。本当に笑ってしもうたんや」
矢野はやはり少し変わっている。
「それで中に入れたんだけど、自動ドア以外は全然何も心霊現象が起きんくてな。心霊現象が起きるって噂の手術室まで来たんよ」
「で、手術室まで来ても何も起きんから自撮りだけでもしとうかと思ってインカメにして撮影しようとしてん、そしたら!」
「そしたら?」
一応、私はまた合いの手を入れた。
「何か後ろからカメラに少女が写り込んだんよ。しかもノーマルカメラなのに画面が全体的に赤くなって壊れたかと思ったわ。それでおかしいと思ってその子に叱ったんよ。『今、うちが自撮りしてるんだから入り込まんといて。順番守ってや』って」
矢野はおかしいどころかいかれていた。友達をやめるべきかもしれないが一応、先をうながす。
「ねぇ、それって幽霊だったんじゃないの? 人体実験の被害者とか……」
「でも、叱ったら素直に『ごめんなさい』って言ってたで。だから、うちも『言い過ぎてごめんな。二人でも撮影しよう。写真も共有しような、エアドロップいける?』って言ってツーショットしてエアドロップで写真渡してきたで」
その幽霊、スマホ持っていてエアドロップもできるんかい!?
思わず私は心の中で関西弁で突っ込んでしまった。
「その時の写真や動画はまだ編集してないんやけど、見るか?」
「うん……」
正直、幽霊とのツーショット写真は何が写ってるか分からないし見るのが怖い。でも、矢野がパントマイムでやっていた自動ドアが開く動画はちょっと見たい。
「あれ? おかしいなぁ……写真も動画も全部無くなってもうてる」
「なぁんだ。矢野の勘違いで夢でも見てたんじゃないの?」
「そんなはずあらへん。帰ってきて寝てからバイト行く時にスクーター乗った時にガソリンが確かに減っていたの見たんやで」
「でも写真は無いから証拠も無いし、今回は夢ってことで」
その方が私の気持ちとしては助かる。
「悔しいなぁ。またチャレンジしたろ。それか今から行こか?」
「やめなよ。私は一緒に行かないよ」
矢野は悔しそうな顔をしていたが、今日は泊まっていくことになっているので矢野も大人しく私の言うことに従って寝支度を始めた。
後日知ったことだが廃病院では人体実験は行われていなかった。当たり前だ。しかし、医療事故はあってそれが原因で廃院になったらしい。それと取り壊しの工事で事故があったのも事実のようだ。ただ、心霊現象との関連は不明だ。
矢野が不思議な体験をした後は心霊現象も起きなくなり、取り壊し工事も改めて行うことが決まったという話も聞いた。
案外、矢野の体験談は本当で少女の霊も人と最後に話して成仏できたのかもしれないと私は思った。




