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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第一章 オメガの俺が最強勇者の子供を身ごもるまでの話

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5/33

2-1 ※

※ ※ ※

今回の話にはR-15の表現が含まれています。




 ──……ああ、今、何かとんでもなくひどい声が出た……。


 色っぽさの欠片もない。

 (たと)えるなら、まるで潰された蛙が上げる断末魔のような声だ。……聞いたことはないが。

 まともな思考が出来なくなってから、ずいぶんと時間が経っているはずだった。

 自分の上げた奇声で我に返った途端、為す術なく相手に身を委ねきっていた俺は、ハッと居たたまれない思いで赤面する。火のような羞恥と混乱が、ほんの僅かに残っていた理性を呼び覚ました。

 今の酷い声で相手もすっかり醒めてしまったのでは、と恐る恐るその顔を窺い見ようとした俺は、思わず息を呑んだ。

 荒く吐き出す呼気がかかる程の近さに、彼の端整な顔はあった。

 この世に生ける軍神が在ったとしたら、まさにこのように完璧に整った雄々しくも美しい顔貌をしているのに違いない。

 もちろん、知らない顔じゃなかった。

 とてもよく見知っている相手だ。俺の今の旅の仲間であり。歳の近い気の置けない友人でもあり……。


 ──でも今は、恐ろしく凶悪な、余裕のない表情をしている……。


 燃えるような目で俺を見ている。

 汗みずくの身体で抱き合っていても、男の生来の気高さみたいなものが損なわれることはなかった。

 むしろ、アルファの発情(ラット)によって(あらわ)になった獣性が、オスの魅力を最大限に引き出しているようだ。


「……()()


 ふいに甘い声で低く名を呼ばれ、だがそれにこちらが反応するのを待つことなく唇を塞いでくる。

 すっかり馴染んでしまっている感覚に、もう何度もキスを交わしているのだとぼんやり思った。

 潰された蛙の声は気にしていないようだ。俺だったら、絶対に萎えるが。

 当たり前のように深いキスをされたが、それに難なく自分が対応出来ていることが怖い。

 何もかも、初めてだったはずなのに……。




 夜、彼と二人だけで、安くて美味い肉料理を出す店に食事に行った帰りだった。

 約一年がかりで達成した大きなクエストの後だったこともあり、俺は少しばかり気が大きくなっていたのかもしれない。

 もともと酒精(アルコール)に弱い俺は、普段なら絶対に口にしないはずの葡萄酒を勧められるがままに少し飲み、ほろ酔いの状態で歩いていた。

 そして、仲間全員で泊まっている宿まで近道をしようと、人気のない路地裏に入っていったとき──。

 それは突如として起こった。

 俺は、その瞬間まで完璧に隠し通してきたはずの第二性……、オメガの発情(ヒート)に見舞われてしまったのだ。

 初めて人前で引き起こした発情(ヒート)に、人より少しは頑強に出来ているものと高を括っていた俺の理性はあっさりと崩れ落ちた。

 正直に言うが、俺はオメガのくせにオメガのヒートを甘く見ていた。

 だがそれは、俺のヒートがそのときまではごく軽い症状で済んでいたからだ。

 決まった時期にちゃんと抑制剤を飲んでおきさえすれば、ヒートの期間中であっても特に問題なく平穏無事に過ごせていた。

 自分はアルファであると堂々と公言しているこの男のそばにいても全く平気だった。

 まあ、さすがにヒート中はさりげなく距離をとり、あまり近づかないようにはしていたのだが……。


 

     ➕ ➕ ➕


 

『トワ、まさかお前……、オメガ、なのか?』


 目の前でいきなり発情し始めた俺を、彼は──レオスは呆然と見ていた。

 それはそうだろう。何せ俺は、外見からして全くオメガらしくないからだ。

 その証拠に、俺は今の今まで誰からも第二性の指摘をされたことがない。誰から見ても、まずベータ以外には見えないのだろう。

 オメガといえば華奢で可憐な見た目の者が多い中で、俺は身長もわりと高く、痩せぎすで、顔色は常に青白く、少し吊り目気味のせいか目許がきつく見えて……。

 おかげで、不健康そうだとか不機嫌そうだとか言われることが多い。容姿そのものは、良く言っても十人並みといったところだ。

 髪の色は平々凡々な茶褐色。瞳の色も同じくだ。

 アルファにせよ、オメガにせよ、それぞれの特性を生かすために美しい色や容姿で生まれるのは至極当然だと考えられているが、哀しいかな、何事にも例外というものはある。

 十人並みの俺とは違って、レオスは金髪に碧眼という文句のつけようのない取り合わせであるし、アルファという獣性に見合った完璧な容姿をしている。いずれオメガと番うことがあるにせよ、間違ってもその相手が俺でいいはずはなかった。

 俺がレオスたちの仲間になってから、このときでちょうど一年ほどは経っていたのだが、俺が彼に対して何か特別な想いを抱いているということは全くなかった。

 ただレオスが、魅力的な才気に溢れる優れたアルファであるということは、常に意識をしていた。

 もちろん旅の仲間のリーダーとしても、レオスは申し分のない存在だった。

 だから、その意思はできるだけ尊重してきたし、従ってもいるつもりだったが、必要以上に深く付き合うことだけは避けてきた。

 こちらの領域には決して踏み込ませない。そんな風に、線引きだけはきっちりとしてきたのだ。

 それなのに……。


(薬も飲んでいたのに……、まさか、こんなタイミングでヒートになるなんて……!)


 なけなしの理性がまだ残っているうちにと、俺は急いで斜めがけのバッグから小さな紙の包みを二つ取り出す。

 青い包みの方は万が一のことを考え、ずっと大事に持っていた物だ。それを震える手でレオスに手渡した。


『これは?』


 眉間をきつく寄せたまま、掌に載っているものを見て、苦しげな声で問われる。

 まずい。レオスの身体もこっちの発情に反応しつつあるようだ。

 よくわからないが、俺のフェロモンとやらはそんなにもキツいのだろうか。


『……アルファ用の抑制剤、だ。お、俺のことはいいから、早く……っ、これ、飲んで、先に宿に行って、くれ』


 俺のヒートに当てられる前にいいから急げ、と俺は早口にまくしたててから、耐え切れず地面にしゃがみ込んだ。

 身体全体が火のように熱い。とてもじゃないが立っていられる状態じゃなかった。


 ──なるほど。だからヒートになってしまったオメガは、逃げることもできないで簡単に襲われてしまうんだな……。


 オメガとしてのあまり嬉しくはない事実を噛み締めていると、レオスが怖い顔で俺に向かって一歩足を踏み出した。


『阿呆、俺に、近づく、な!』

『お前は? こんな場所で一人きりになって……、どうするつもりだ?』

『ああ、大丈夫……、俺は、』


 どうせオメガには、見えないから……、と。その部分は口の中だけでごにょごにょと言った。

 ここには俺たち以外は誰もいない。だからレオスさえ無事にこの場から去ってくれればいいのだ。

 焦りに駆られながら、もう一つの薬を……オメガ用抑制剤の薬包紙を解こうとした時だった。

 え? と思う間もなく腕を掴まれ、逞しい肩に担ぎ上げられる。俺の手の中から、薬の包みがはらはらと落ちていった。

 そして、レオスも。あろうことか、せっかく渡した薬は投げ捨てられていた。


『な、なんで……っ』

『……どっちが阿呆だ。そんな状態のお前を、置いていくわけがないだろう』


 ぞっと背筋が冷えるほどの低音で凄まれた直後、レオスの身体からぶわっとオスの発情臭が立ちのぼる。

 ああ、とうとうオスの発情に……ラットに入ってしまった……。


 ──そのまま俺は、(さら)われるようにして近くにあった宿屋に連れ込まれ、友であったはずの(アルファ)と一線を超えてしまったのだった。




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