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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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16-1




「レオ……?」

「全く……、肝を冷やしたぞ」


 興奮と安堵が入り混じった複雑な声音で、唸るようにレオスは言った。


 ──一体、どういうことだ。何故、今レオスがここに?


 今朝、国境を越えてきたばかりではなかったのか……?

 アクラ岬の近くにある兄の屋敷で、早くても明日か明後日あたりに落ち合えるつもりでいた俺は、ただただ呆然とレオスの顔を見上げるしかなく。


「レオ、どうして……」


 ここにいるのかと、そう問いかけようとすると──、

 

 バァーン! バリバリッ、ドカアアンッ!


 背後から大轟音が響いた。

 はいはい、無効化完了~、とパットの呑気な声が上がる。

 黒魔法で特大の雷を落とし、召喚陣を綺麗さっぱり焼き消したようだ。あらかじめ防御結界が張られていなければ、鼓膜が破れかねないほどの音だった。


「さすが嬢さん、お見事!」

「ふふん、当然でしょ」


 キリィのおだてに軽く乗ってみせたパットは、興奮しきった口調で俺に話しかけてきた。


「それにしても、すっごいモノを()んだわね! トワを掴んで引っ込むところをチラッと見ただけだけど……ゴーレムの腕なんでしょ、今の!」

「……。俺が喚んだわけではないがな」


 レオスに抱き締められたまま、もごもごと俺は言った。

 まあ、『冒険者あるある』というヤツだ。当然、パットにはこれっぽっちも悪気はないし、レアなモンスターを見て興奮する気持ちもよくわかる。敵対してさえなければ、俺もきっと似たようなはしゃぎ方をしていただろう。

 それよりも現状を把握したいと、俺は周囲を見るために頭を動かそうとする。

 しかし、ちょっとの身動(みじろ)ぎすらも許さぬとばかり、レオスの手が俺の頭の後ろをがっちりと押さえつけていて無理だった。

 背に回された腕にも、さらに力がこもる。


「……ッ、ちょっ、と、レオ! 苦しいんだが……」

「いいから、まだじっとしていろ。身体が異様に冷えているし、ひどい顔色だ」


 と、不機嫌な声でぴしゃりと返された。

 いや、それでなんで怒られるのか……と思いつつ、仕方がない、しばらく好きにさせるか、と俺は身体の力を抜いた。

 というか、昔付き合っていた頃には、こういう物言いをされたことはほとんどなかった気がする。なんというのだろう、妙に新鮮な気持ちになった。


「それにしても早かったな。俺たちは、お前たちがアクラ岬に到着するまで、少なくともあと一日か二日はかかると思っていた」

 

 と、ヴォルフの落ち着いた声が近づいてきた。

 何言ってんだヴォルフ、と呆れたように言ったのはキリィだった。


「キリィ?」

「いやほら、あんただけ、レオと会うのは十四年ぶりだろう?」


 その言葉に、俺はハッとする。ああ、そうか。そうだった。

 かつて、勇者の一行として共に旅した仲間の中で、俺とイコを守るためにレルネ島に残ってくれたヴォルフだけが、まだレオスとの再会を果たせていなかった。

 俺が促すようにレオスの肩を叩くと、ようやくレオスは俺を解放し、立ち上がってヴォルフと向かい合った。

 二人はしばし無言で見つめ合ったあと、互いに肩を引き寄せ、喜びの声を上げながら再会の抱擁を交わす。


「ヴォルフ! 長い間、本当にすまなかった。トワたちを守ってくれてありがとう」

「なんの。お前こそ、俺たちのもとによく帰ってきてくれたな、レオス!」


 ああ、本当に良かった……。

 柄にもなく涙ぐみそうになっていると、どうやら同じような心地になったらしいパットも、俺のそばまで来て「ただいま、トワ」と囁くように言った。


「ま、あたしたちは、たったの三週間ぶりだけどね」

「ああ、そうだな」


 自分の上着を脱いだキリィが、黙ってそれを俺に手渡してきた。レオスにも言われたが、俺はよっぽど顔色が悪いようだ。

 確かに、召喚陣の中に落ちかけてからずっと寒くてたまらないのだが……。


「いいのか?」

「ああ。暗くなってきて、夜はもっと冷えるからさ」


 今にも夕日が落ちそうな水平線を見て、全員が我に返った。

 ようやく──ようやく十四年ぶりに旅の仲間が揃った感動に浸る間もなく、俺たちはメグも連れ、レオスたちが乗ってきた小型艇と、そのすぐあとにやってきたモーガン商会の小型艇に分かれて乗り込み、急いで島から離れることにした。

 そして、島を監視するために沖合に錨泊していたモーガン商会の大きな帆船に乗り換えて合流すると、一路アクラ岬を目指す。

 イコたちは、先に別の帆船に乗り換えてアクラ岬に向かっていた。

 レルネ島が揺れて以来、この海域では海魔たちが少し不穏な動きを見せているらしいが、イコが乗っている船には、グレンとその配下の精鋭たちが乗り合わせているので、問題なく無事に到着するだろう。


「そういえば、エティス様たちは? もうロダに帰られたのか?」


 魔導信の連絡では、通信局や冒険者ギルドを介する場合、打ち込み作業の負担やその手数料を抑えるために、なるべく簡潔な文章でやりとりをするのが通例だ。

 なので、旅先のキリィとのやりとりでは細かいことまで報告しあっていなかったが、俺はてっきりロダから助っ人としてやってきたエティスと、その護衛のロイルも一緒にグリギアに来ているものと思い込んでいた。


「それに、さっきも言ったが、何故こんなに早く帰ってこられたんだ?」


 不思議そうにヴォルフも訊ねると、得たりとばかりにキリィが口の端を上げて言った。


「単純な話さ。順を追って話すが、もともと俺たちは船でグリギアまで帰ってきてたんだ」


 グリギアの領海内に入ってダマンという港町で船を降り、そこのギルドから帰郷の報せを俺と兄のもとに送っていた。

 そして、その先の行程をどうするかで彼らは迷ったらしい。

 一日以上かけて、都市間の街道を走る駅馬車に揺られて行くか。それとも別の船を探し出して、海路からアクラ岬を目指すか。

 当然、うまく順風に乗れば船の方が何倍も早いのだが、兄や俺と連絡を取り合っていた時には適当な船が見つかっておらず、ほぼ陸路を行くことに決まりかけていたそうだ。

 ところが。意外なことから、その行程は変更となった。

 というのもダマンでは、ロダの次期王妃となるエティスのことを、グリギア王妃からの使者が待ち構えていた。

 どこからそれを聞きつけてきたものか、今のエティスは前回のように使者として訪れた公人ではなく、あくまでも私的に、非公式な日程で動いているにもかかわらず、である。


「それはまた……、えらく気に入られたものだな」

「ええ、そうみたいね。それで仕方なく、エティス様とお供のロイルはお迎えの馬車に乗って、一度王都(クロン)に寄ってから、アクラ岬まで来ることになったのよ」


 それに同行しなかったのは、レオスがとにかく先を急いだからだった。


「当たり前だ。陸路はただでさえ時間がかかる上に、クロンで足止めをされたらアクラ岬に着くのがさらに遅れてしまう」


 さらに決め手は、キリィがエティスのことを俺と兄に報告しようとした時だった。

 それでレルネ島との通信が途絶(とぜつ)していることを知ったレオスは、すぐさま金に物を言わせて船を見つけ出し、ダマンから直接レルネ島に向かうことを決めたのだった。


「何か……理由はよくわからないが、とてつもなく嫌な予感がしたからな……」

「トワのことだから、何かがあった場合、勝手に島に残るんじゃないかってイヴリール様も心配してらしたし……」

「ま、避難したあとで、もぬけの殻だったらそのままアクラ岬に行こうって話になったのさ」

「なるほど……」


 三人から口々にそう言われ、俺もなんと言って返せばいいやらわからない。

 結果として、レオスの予感と兄の予想は完全に的中していたのだから。

 そのうえ「この俺がついていながらすまない、レオス……」と、最年長のヴォルフにまで言われてしまっては、ますます立つ瀬がなかった。


「と、とりあえず、もう済んだことだ。島でのことは、兄の屋敷に着いたら話す。それに、レオ。お前にはもっと大事なことが待っているぞ」

「ああ。わかっている」


 と、レオスは真摯な顔で頷いた。

 彼は、今夜初めて血を分けた我が子と対面する……。




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