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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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15-2


「メグ。これは強制ではないが、答えられるなら教えて欲しい。お前がこの辺りに隠した召喚陣はいくつだ?」

「………む、六つ、です」

「わかった。六つだな」


 ありがとうとお礼を言って、俺は浜辺で繰り広げられている戦闘の状況を確認する。

 浜辺の砂の下から現れたキメラは全部で四体。ヴォルフの『肩慣らし』によって、そのうちの二体は既に首が胴から離れた状態で地に伏している。残りも時間の問題だろう。

 そして今、メグを襲ったオークが一体。

 大鴉は難なくこれを倒してしまうと、すかさずヴォルフの援護に回っていた。さすがはあの兄の使い魔だ。なかなかに働き者である。

 ──だが、まだあと一体、姿を見せずに残っている。


 浜辺での戦いを悠々と見下ろすヨタカに向かって、俺は右の掌を突き出すようにしてかざした。

 そこに魔力を凝縮させて光剣を造り出し、さらには稲妻も纏わせる。俺が使える白魔法の中では数少ない(白魔法は本来、防御や治癒、強化系の補助魔法が主である)攻撃魔法の一つにして、最大の威力を持つものだ。

 その分、魔力の消費量もえげつないのだが、今に限ってはダンジョンの中にいるのと同じぐらいエネルギーとして取り込める魔素ならいくらでもある。

 あのヨタカを撃ち落としたところで、それはただ召喚の端末装置を破壊したにすぎず、ホーンオウル氏とやら本人に対しては傷一つつけることはできない。

 しかしメグを襲うように指示を出すなど、直接的な干渉は出来なくなるはずだった。

 それに、この気味の悪い結界を消し去ることにも大きな意義がある。

 

「悪いが、余興に付き合うのはここまでだ」


 ヨタカに狙いを定めると、俺はありったけの魔力を込めて光剣を撃った。

 俺が放った一撃でヨタカの体は呆気なく撃ち抜かれ、そのまま黒い(ちり)となって消滅した。

 すると、島の一部を膜のように被っていた赫い結界も、みるみるうちに晴れていく。


「ああ、やはり気づいてくれていたか!」


 元の光景を取り戻した俺は、思わず声を弾ませた。

 島の波止場をめがけ、一艘の船がもの凄い速度で接近してくるところだった。沖合いに待機していたモーガン商会の小型艇(ランチ)が、島の異変を察知して早めに迎えに来てくれたのだろう。

 ヴォルフが、三頭目の胴を鮮やかな剣技で両断した。

 四頭目も、魔素の不足で徐々に弱体化が始まっている。


 ──よし、悪くない状況だな。


 これでもし残る一体が現れたとしても、なんならこのまま逃げ切ることが出来るかもしれない。

 状況が許すなら、もちろん倒してしまってもいいのだが、無理は禁物である。

 この場は、メグも連れて一刻も早く島から離れることが先決だった。あのヨタカはきっと、メグの裏切りを赦さない。

 

(ヨタカ殿の……ホーンオウル氏のことは、また後で情報を整理しよう……)


 兄の屋敷(つまりは俺の実家でもある)で、レオスたちの凱旋を待ちながら、今後における諸々の計画を立て直す……。


「マ、マスターッ!」

 

 俺の思考を引き裂いたのは、悲鳴のような少女の声。

 不意に俺とメグがいる地面を取り囲むように、これまでになく大きな、赫く光る召喚陣が現れた。

 その中心から、巨大な『右腕』だけが現れた。表出している部分だけでも、二メートルあるヴォルフの身長ぐらいはある。



ギガンテス(巨人)? いや、ゴーレムの分割召喚、か?)


 土より生まれ()でて、土へと還る(いにしえ)の魔神、ゴーレム……。地面と一体化したその腕が、手を開いた状態で俺とメグに迫ってくる。


 ──どうやら、ヨタカが討たれることは、向こうも織り込み済みだったらしい。


 ゴーレムの腕は、ヨタカの消滅を合図にして最後に現れる仕掛けだったのだろうか。


「させるか……!」


 俺はメグの前に立って彼女を庇いながら、掌から再び光剣を撃ち放つ。

 だが、急(ごしら)えのそれではまるで歯が立たない。光剣は『腕』を護る魔力の障壁に阻まれて砕け散った。


「カアアァッ──!」


 飛んできた大鴉が、火焔を纏った姿で突撃していく。が、それも通じなかった。目に見えぬ壁に激突した大鴉は、艶やかな尾羽根一枚のみを残して消滅した。これまでの奮闘で、使い魔としての魔力を使い果たしてしまったのだ。

 俺は尾羽根を回収すると、メグを召喚陣の外に突き飛ばした。


「マスター!」

「船が来ている。ヴォルフと一緒に、行け!」


 伸びてきたゴーレムの手に、腰から下を掴まれてしまった俺は、動くことが出来なかった。

 幸いなことに(?)獲物()を握り潰すという意図はないようだが、それでもがっちりと拘束されていて、下手に抵抗すれば何をされるかわからないという恐怖があった。ゴーレムの手に掴まれたまま、為す術もなく地面に──召喚陣の中へと引き込まれていく。

 まるで底なし沼のようだ。……落ちたことはないが。

 本能的な行動なのか、気づけば俺は両腕を上げていた。メグが必死に俺に向かって手を伸ばそうとするが、陣の外からでは届かない。ヴォルフが間に合って引き上げてくれれば助かるだろうか、などともちらりと考えたが、それよりも俺は、この先自分が一体どこに辿り着くのだろうと、そのことが気になり始めた。


(……この先にいるのは、ヨタカ殿の本体……ホーンオウルだろうか?)


 もしもヒュドラダンジョンに転送されるのなら、早くもホーンオウル氏本人との対面が果たせるのかもしれない。だが……。


(まさか、魔界──いや、黄泉の国行きなんてことは……)


 だとしたら一巻の終わりだ。

 それでも、不思議と死への恐怖はなく。

 三十四年の人生にも、特に悔いはなく。

 もう二度と会うことはないかもしれないと諦めかけていたレオスにも、十四年の時を経て再会することができた。

 イコとレオスは未だに顔を合わせていないが、ここまできたら二人は近々必ず、親子として名乗り合う日を迎えることだろう。


(そこに、俺がいないのは淋しいが……)


 ずぶずぶと地面の中に身体が沈んでいき、とうとう頭の先まで沈んだ。大鴉の尾羽根を持った手だけがまだ外に残っている。

 なぜか、そこで下に引き込まれる動きが止まった。

 暗い。

 身が凍るような冷たさに襲われる。

 おそらくは、召喚陣の中の次元と次元の狭間のようなところにいるのだろうが、耳だけはまだかろうじて外の音をかすかに聞き取っていた。

 必死に何かを叫ぶ声が、複数人分聞こえてくる。

 近くにいる男の声は、ヴォルフだろうか。きっと、助けの船が港に到着したのだろう。


「トワッ!」


 懐かしい、力強い声が俺の名を呼んだ。

 遠のきかけていた意識が、ハッと覚めた。


(……今の、は?)


 その声は、またすぐに聞こえてきた。


「待ってろ、今すぐ助ける!」


 そして両手を掴まれたかと思うと、ぐいぐいと上に引っ張り上げられていく。


「トワ、しっかりして! この変な魔法陣は今あたしが閉じるから!」

「え……、パッ、ト?」


 俺は驚いて目を開く。顔が、外に出た。途端に、身体が強固な防御結界に包まれた。


「え?」


 俺は、引き上げてくれたその相手の顔を見てきょとんと目を瞬かせた。

 まさか……、いや本当にまさかだった。


「レオ? ……なぜ?」


 膝をつき、必死の形相で俺の両腕を掴んでいたのは、レオスだった。

 金髪碧眼の冒険者装束の男は、凄まじい膂力(りょりょく)で俺の身体を完全に地面の中から引き出すと、折れそうなほど強く……、強く抱き締めてきた。




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