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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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14-2


 ──そして。

 バサッバサッと力強い羽音が、俺の頭上に降りてきた。

 大鷲ほどの体長──頭頂から尾の先までが一メートルほどある──の、自然界ではあり得ざる大きさの鴉……、レイブン家の当主が代々使役する『大鴉(オオガラス)』だ。


「これは……、兄上が寄越してきたのか?」


 大きな羽音に催促されるかのように、ヴォルフがガントレットを嵌めた太い腕を差し出すと、大鴉は悠々とそこに降りてきた。

 人の頭ぐらいは造作もなく握り潰せるほどの、大きくて鋭い鉤爪(かぎづめ)でヴォルフの腕を防具ごしに掴み、羽を畳んで止まる。

 ふむ。俺を止まり木に選ばなかったのは、なかなか賢明な判断だ。


『ほう。さすがは王宮の筆頭魔導師殿。なかなかの偉容(いよう)だ』


 嗄れた声が言った。

 メグの腕に止まった夜鷹を通じて、誰かが喋っている。

 大鴉の方は特に反応を返すでもなく、ただギョロリと夜鷹を見つめるのみだった。こちらは兄の思念と同調しているわけではないらしい。


「お前は何者だ」


 大鴉を腕に乗せたまま、既に魔法で重量が軽減された特別仕様の黒い甲冑を身につけたヴォルフが、厳かに誰何(すいか)した。

 夜鷹はニンマリと大きな口の端を釣り上げる。見るからに邪悪なものを感じ、背筋にゾッと冷たいものが走った。


『これはこれは。そこにおわすは黒旋風(くろつむじ)のヴォルフ殿か。汝のご勇名はかねがね……』

御託(ごたく)はいい。質問に答えろ」


 フ、フッフフ……、と夜鷹が(わら)った。


『何、我の名など。汝らの輝かしい名とは比べるべくもない卑小(ひしょう)なもの……』

「そうですか。ならば結構。貴方のことは『ヨタカ殿』とお呼びすることにします」


 俺は声を張って遮った。無駄にもったいぶった卑下自慢に延々と付き合うほど、こちらも暇じゃない。

 すると、虚を衝かれたようにヨタカが沈黙した。


『…………。なるほど、()()がリーファスか』


 声の温度(トーン)が一段下がった気がする。

 ほほう。貴様ときたか。


「そちらは我々をよくご存知のようだ。しかし、こちらは貴殿の名を聞いても誰だかわからない……つまりは自尊心が傷つくわけですな」

「トワ」


 たしなめるようにヴォルフが俺を呼んだ。


「まだ相手をよく知らないうちから、闇雲(やみくも)に怒らせてどうする」

「だが、名乗りもしない相手を気遣う必要があるか?」


 すると突然、大鴉が「カアーッ」と鳴いた。見ると、両翼を広げたヨタカがメグの腕から飛び立つところだった。


「……っ!」


 メグが微かな悲鳴を上げた。

 ヨタカの鋭い爪がメグの頬を掠め、そこが薄く裂けて血の筋が出来る。俺にはわざと蹴りつけたように見えた。

 音もなく、すうっと宙に舞い上がったヨタカが、硝子玉のように冷たく(ひか)る目で俺を見下ろした。


『──我のことを、取るに足りぬ者と侮るのは結構だ。我の方もそちらに払う敬意は持ち合わせぬ。……だがしかし、貴様はオメガとしては極上だ。アルファを産み落としたというその母胎には非常な価値がある』


 何? とヴォルフが眉を顰めた。

 俺もヨタカを睨んだ。何かとんでもなく胸糞の悪いことを言われた気がする。


『故に、特別に我が家名を明かしてやろう。我が一族の名はホーンオウル』

「ホーンオウル……?」


 俺はオウム返しに言った。

 それは確かに、どこかで聞いたことがあった。が、すぐには思い出せない。

 俺の心許(こころもと)ない反応を見てとったヨタカは、嘲笑うかのように「キョ、キョ、キョ、キョ、キョーッ!」と啼いた。


『ハハハ! そうか貴様はこの名すらも知らぬのかッ! ならばもう、ここで話すことなどない。決裂あるのみだッ』


 ──なんと短絡的な。

 まるで会話が成り立たない相手だった。そもそも使い魔の身体を借りている時点で、まともに話し合うつもりなどないのではないか。

 呆れ返りつつも、俺はヨタカに向かって問いを投げかけた。


「まあ、そう言わず。一つ訊ねるが、俺から勇者のマントを奪ったのは何故だ?」

『……あの薄汚れたマントがそんなに大事なのか? 十四年もの間、捨て置かれた身を慰めるために必要か?』

「なに……?」


 やはり、このヨタカは俺がオメガの獣性を持っていることを知っている。

 そして、レオスの子を生んだことも。レオスと長く離れていたことも。イコが(おそらくは)アルファであることも。


「答えになっていない。お前の目的は何だ」


 名乗ったのならそれも話せ、とヴォルフが問い詰めると、ヨタカはフッフッ、とまた嗤う。


『決まっている。我がホーンオウルの名にかけて、魔導貴族であるレイブンの一族に復讐を為すこと。その前に一言挨拶をと思ったまでよ。貴様らが何も知らぬまま、この島から逃げ出すのは業腹(ごうはら)だったからな』

「逃げ出すって……、まさかヨタカ殿はここに残るつもりなのか?」

『フッ、当然よ。このレルネ島はじきに、三つ首竜(ヒュドラ)ともどもに全て我のものとなる故にな』

「馬鹿な……」


 ヴォルフが呟いて、ちらりと俺を見る。本当に心当たりはないのか、という目つきだ。

 レイブン家への恨み……ならば本当にロダとは全く関係のない……十中八九、グリギアの人間なのだろう。

 そして一番肝心なことは、レイブン家に生まれたオメガのリーファス()に、何故か強い憎しみを抱いていること……。


(レイブン家への復讐? ホーンオウル……、()()()()()()()……?)


 ──ああ!


 連想の果てに、ようやく思い出した。

 忘れかけていた、遠い過去の日の因縁を。




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