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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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 気味の悪い夜鷹の出現は、俺の神経を再び逆撫でした。

 この賊の目的がどこにあるのかも……、わかりかけていたように思うのに、抑制剤やマントのあたりからよくわからなくなった。

 食糧や地図は、単に必要があってのことだろうと考えた。だから敢えて騒ぎ立てたりはせずに泳がせてみたのだが、それは却って悪手(あくしゅ)だったかもしれない。

 だがどう考えても、レオスのマントに関しては俺以外に需要があるとは思えない。

 ……ひょっとして、勇者レオスの熱烈な信奉者(ファン)の仕業だろうか。だとしたら尚更、感情的になって向き合うのはまずい相手か、と思った矢先の(くだん)の夜鷹である。


 ──いや、違うな。ファンなら、あのマントを絶対に切り刻んだりはすまい。


 少なくとも、お宝として扱う気は皆無なようだ。

 それにしても、鴉や梟であればいざ知らず、夜鷹を使い魔として使役する魔導師など聞いたこともないが、もしかすると兄なら何か知っているかもしれない。


「こうなると、魔導信が使えないのが恨めしいな」


 普段から当たり前のように使えているものほど、使えなくなったときはその恩恵の大きさを深く思い知ることになる。

 俺がぼやくと、ヴォルフがじろっと俺を横目に見た。


「はなから相手が魔導師だと決めてかかっているようだが、根拠は?」

「俺が鍵にかけてあった封印魔法が、全部綺麗に解かれているからな」

 

 食糧や地図を盗んだのは十中八九、あちら側の仲間であるメグの仕業だろうが、大切に仕舞い込んでいたレオスのマントだけは、彼女が持ち出すことは不可能だ。

 そこらの雑魚な魔導師風情にも無理だ。俺と同等以上の実力を持つ魔導師、あるいはキリィほどの高度な魔導解呪器具を持ち、さらにそれを使いこなすスキルを持つ盗人でなければ、こうも鮮やかに盗み出すことはできない。

 だが後者だと、時間と手間がある程度はどうしてもかかってしまうため、侵入者側のリスクが非常に高まってしまう。


「なるほど。しかし、隠れている賊が一人きりだとは限るまい」

「それはまあ、ほとんど勘だが。協力者(メグ)が盗み出した食糧の内容や量からして、おそらく一人分だろうとヘンドリックも言っていたからな」


 俺たちが波止場で話している間にも、グレン率いるモーガン商会の小型艇(ランチ)が次々と島に入ってきては、ギルドのダンジョン整備チームや拠点の従業員たちを乗せてグリギア本土のアクラ岬へと舳先(へさき)を向けて発っていく。


「……ねえ、本当に俺一人で行かなきゃ駄目?」


 島を出る最後の一艘となったグレンの小型艇の船梯子(タラップ)の前で、イコがまた俺とヴォルフの方を振り返りながら言った。

 やれやれ、これでもう何度目だろうか。

 俺も苦笑を浮かべつつ、また同じ言葉を返してやる。


「大丈夫だ。俺もあとからすぐに行くから、お前は先にイヴリール伯父さんのところへ行ってなさい」


 それにジョアナとヘンドリックとミランダも一緒に行くからと、先に船に乗り込んでいる宿屋とギルドの従業員たちの名も言い添えてやると、イコは少し怒ったように頬を膨らませた。


「あのねぇ、俺は父さんの心配をしてるんだよ!」


 おや。安心させようと思って言ったことが、かえって裏目に出たらしい。


「ヘンドリックさんもミランダさんもいなかったら、父さんの食事とか洗濯とか! 俺の方がまだ少しは家事とか出来るんだからね!?」


 残念なことに、それは事実だった。

 イコは、自分と同じ年頃の子どもがいなかったこの拠点で、幼い時分からたくさんの大人たちに目一杯構われて育ってきた。

 俺の仲間や、グレンとその配下たち。宿屋のヘンドリックとミランダ夫妻。猟師のビルや、その他にもたくさんの大人たちが不器用な俺に代わり、好奇心旺盛なイコに様々なことを教えてくれた。

 十四歳になったらすぐにも冒険者登録をし、ヴォルフやキリィと一緒にダンジョンに入ってクエストに挑戦する約束もしているらしい。

 我が子ながら、実に頼もしく育っている。

 こういう天真爛漫なところは、きっとレオスに似たのだろう。


「と、父さんなら大丈夫だ。そんなに長くはかからないし、ヴォルフも残ってくれるし……」

「うん。父さんの大事な探し物を手伝うんだよね? ……でもそれが見つからなくても、危なくなったら二人ともすぐ避難してきてよ?」

「大丈夫だ、イコ坊ちゃん。万が一の時のために船は沖にずっと待機させるし、俺も明日の朝には島まで様子を見に来るからな」


 いざとなりゃあ、首に縄をつけてでもマスターを船に乗せて帰るからな! と豪語されて俺は思わず半眼になった。

 いや、家畜じゃあるまいし。そんな扱いはごめん被りたいが……。


「あ! そういえばメグがいないんだけど……」


 イコが思い出したようにはっとした顔で言うのを、俺は笑顔で見返した。


「ああ、大丈夫だ。メグなら少し前の船で先に行ってもらったよ」

「あ、そうなんだ。良かったー」


 ──イコ以外の男たちが、何か胡散臭いモノを見るような目をちらりと投げかけてきたが、俺は微笑んだままで無視を決め込んだ。

 パットと違って、もしそれが本当に必要なことなら、俺はいくらでも平気で嘘がつける。




「……さて、と」


 イコたちが乗った船が沖に出るまで見送ってから、俺は(おもむろ)に背後を振り返った。


「待たせてすまないな」


 俺とヴォルフ以外は誰もいなくなったはずの波止場に、いつしか小さな人影が現れていた。

 ……さっきの夜鷹を腕に止まらせた、小間使いのメグが。




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