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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第一章 オメガの俺が最強勇者の子供を身ごもるまでの話

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     ➕ ➕ ➕



 俺自身の過去に触れる前に、まずはアルファとオメガについて、説明した方がいいだろう。

 今書こうとしている手記は、()()にも無理なく読めるように書くつもりだから、あまりあからさまなことまで記すつもりはないが、それでも書くにあたって、書けない事柄も振り返る必要はあるわけで。

 とりあえず、基本的なところからまとめていくことにする。


 この世界の人間には、第一の性別と第二の性別がある。

 第一の性別は男と女、つまりはオスとメスに分かれている。

 そして、たいていの人間はこの第一性のみで完結する。

 そうした大多数の男女は共に『ベータ』と一括りで呼称されることもあるが、それはあくまでも便宜上にすぎない。

 圧倒的多数を占めるベータは、普段の暮らしの中で自分たちのことをわざわざベータとは呼ばないからだ。少数派のアルファやオメガがいる場においてのみ、差別化を図る為にベータという呼称が使われる。


 そして第二の性だが、かつては『獣性』と呼ばれていたモノで、国や地域によっては神のごとく崇め奉られることもあれば、忌避され蔑まれ、まるで奴隷のような扱いを被ることもあったという。

 この性を発現させる者は非常に稀であり、我が兄の言によれば、このクナの大陸全土においてもおそらく全人口の一割にも満たないだろうという話だった。

 ゆえに世の中には、この第二の性のことなどほとんど理解せぬままに呑気に生きていくベータがわりと多くを占めているようだ。

 だが生憎と、俺と俺の家族はその部類ではなかった。魔導貴族という家系上、俺の身体に第二の性の兆候が現れる以前から、ある程度の予備知識にありつける環境ではあったのだ。

 そんな家に、俺がオメガとして生まれついたのは果たして幸いだったのかどうか……。

 それはともかく、男女いずれの性であっても獣性のオスに目覚めた者をアルファ、獣性のメスに目覚めた者をオメガという。

 アルファの特徴は、優れた狩猟本能を持つ超人的なオスらしさにある。

 生まれながらにして勇者や英雄に相応しい気質を持ち併せ、頭脳も明晰で容姿や体格にも恵まれている。歴史を紐解けば、国の指導者や王族の中に多く現れているのも頷ける。

 その一方でオメガの獣性は、子を産み育て、巣を守りぬく防衛本能にあるとされる。貴種や魔導師の家に生まれることが多く、性質的にも非常に慎重で用心深い者が多い。

 そして優れたオスと番うために、その目を惹きやすい類稀なる美しい容姿を持つことも……(だが何事においても例外というものはある)、おそらくは重要な特徴のひとつとして数えられている。

 そして何よりオメガの最大の特徴は、三ヶ月に一度、ヒートと呼ばれる『発情期』があることだった。

 ヒートの期間は、個人差はあるだろうが、おおよそ一週間程度。

 オメガのフェロモンに抗えるオスは、既に『番』のいるアルファだけとされていた。

 アルファは、女かオメガと交われば相手を妊娠させることが出来る。

 オメガは、ヒートの間にメスとしてアルファか男と交われば身ごもる事が可能だった。しかも相手がアルファなら、生まれる子供も必ずアルファかオメガである。

 ただし、女のアルファは身ごもりにくく、男のオメガはオスとしての機能にあまり恵まれない。第二の性の方が第一の性を打ち消すほど強い所為だろうと言われているが、それも現時点では定かではなかった。


 ヒートによる性衝動は、獣性を持つ者にとっては本能に深く根ざした原始的な欲求であり、どれだけ強い理性をもってしてもけっして抗えるものではない。

 一方で、オメガのヒートに当てられてしまった男やアルファ……つまりオスの大半が、自分たちが暴走してしまったのは、色情に狂った浅ましいオメガのせいだと訴えるのもまあ致し方ないことではある。

 逆にオメガの側が『ヒートに付け込まれて襲われた』などと訴えてみたところで、その言い分が通ることはまずなかった。多くの場合は──仮にそれが何らかの作為で起こったことだとしても──事故として処理され、しかも被害者はオメガの方ではなくヒートに当てられた側だと見做される。

 オメガの方でも、自衛のためにヒートの間は家に閉じこもったり、高額なわりには効き目がまちまちで完全にあてにするのは難しい『抑制剤』を飲むなりの対処を余儀なくされるのだが、それはオメガの懐や社会生活を非常に圧迫するものだった。

 そのうえ、オメガは神秘的で儚げな美しさ(何度も言うが例外はある)を持つ希少な種として奴隷商人の間で非常に珍重され、市場では目が飛び出るような高値で取引されるという全くもってありがたくない事実もある。

 ということはつまり、オメガであることを知られれば、ただ道を歩くだけでも良からぬ輩に付きまとわれ、誘拐される確率がぐんと跳ね上がるわけである。


 残念ながら、この世は未だオメガにとって安住の地であるとは言いがたく、その上業腹なのは、それが男のオメガである場合は迫害の度合いがさらに増す場合があることだった。

 女ならばまだしも、男でもオメガであれば子を生むことができる体質は、獣性を持たない一部の人間の目にはひたすら気味悪く、そして忌まわしく映るものであるらしい。

 国や地域によって程度の差はあれど、男オメガを殊更に劣等種として(おとし)める風潮があるのはそのせいだ。


 俺が生まれ育ったグリギア王国では、もちろん個々による運が左右する部分はあるにせよ、魔導による獣性研究が進んでいることもあって、男のオメガでもそこまで悲惨な目に遭う実例は少ない。

 他国に比べれば効果が高い抑制剤でもずっと安価に手に入れることができ、オメガを保護する政策などもまあまあ充実しているといえる。

 イコの父親と別れたあと、俺が迷うことなくグリギアに帰ってきた理由はいくつかあるが、その中でそれは最大のものであった。家を出た後に色んな国を旅して歩いた俺には、そのことが骨身に染みてよくわかっていたからだ。

 しかし、そもそも俺が家を出て行ったのも自分の第二性に起因していたことを思えば、なかなかに皮肉なことではあるのだが。

 とうに両親が亡くなっているとはいえ、仮にも勘当された身で実家に堂々と出戻るという選択肢はさすがになかったが、前述した通り、兄の力を頼ることには全く抵抗がなかった。

 俺には、自分自身のことなどよりも守るべき存在があったからだ。

 兄の許しを得ると、俺はさっそく赤ん坊のイコとともに、当時は定住者がまだほとんどいなかったレルネ島に移り住んだのだった。



 さて。ここから先はしばし、さらに遠い過去の話になる。

 十六歳で家を飛び出した俺は、『トワ』という名前で冒険者登録をし、その二年後には勇者レオスが率いるパーティの一行に加わっていた。


 ──そして。()()()の出来事が、俺にとっては全ての始まりとなったのだ。




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