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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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11-3




 塔の上の部屋へと続く階段には、俺の部屋からも直接行けるようになっている。

 塔の中にある階段の踊り場が、ちょうど俺の部屋と隣合った位置にあるのだが、そこに繋がる扉が少々変わっていて、壁に造り付けられた飾り棚ごと壁の向こう側に回転する仕掛けだった。

 貴族の屋敷などにはわりとよくある造りだが、それは万が一の場合を考えて造られた非常時用の避難経路でもあり、この仕掛け扉の存在を知っているのは俺とイコと、俺の仲間たちだけである。

 

(やはり、ここから行ったか)


 よほど慌てていたのか、飾り棚が少し壁から浮いて隙間が出来ている。

 俺は、その閉まりきっていない扉から塔の中の踊り場に出た。

 ゆっくりと階段を上がり、最上階に辿り着く。扉を開けようとすると、鍵がかかっていた。


 ──かけても無駄だと、わかっているだろうに。


 部屋の主である俺は、もちろん鍵を持っている。それに鍵などなくても、これぐらいなら魔法で簡単に開けることもできた。


 ──そうとわかっていて、それでも鍵をかけたのは。


「──イコ」


 扉をノックしながら、名前を呼んでみる。


「ただいま、イコ」


 帰宅の挨拶をしてみたが、何も反応は返ってこなかった。

 だが、中に誰かがいる気配はある。

 大きな張り出し窓の下にあるアルコープ。そこに蹲るように腰かけている我が子の姿が、ふと頭の中に浮かんだ。


「……イコ。書物机の抽斗に、紙の束が入っている。そこにお前の知りたいことが書いてあるから、読んでみてくれないか」


 それは、然るべき時にイコに読ませるつもりで書き始めた例の手記の草案だった。

 本文については、まだ序文に毛が生えた程度ほどしか書き上がっていないが、その主旨が簡潔にまとめられた草案には、俺が若い頃に家を出て冒険者になった経緯や、俺とレオスの出会いについても、ざっとではあるが記してある。

 ──それから、獣性とも呼ばれる第二性について。  

 イコの父親であるレオスはアルファで、そしてこの俺はオメガという第二性を持っていること。

 故に、男であっても俺の身体は妊娠、出産が可能であること……。読んでみれば、それらのことは理解出来るはずだった。

 耳をすましていると、やや間を開けて、抽斗を開く小さな音がした。

 俺は扉の横の壁に凭れるように、片膝を立てて石の床に座り込む。

 緊張し、我知らず握りしめた手が冷たく固まっていた。

 そうしてしばらく待っていると、ガチャリと扉の鍵を開ける音が響く。


「……イコ」

「……父さん」


 扉が開き、心許なげな表情を浮かべたイコがこちらを見下ろしていた。


「あの……、」

「読めたか?」


 訊ねると、コクリと肯く。

 何かを(こら)えるように、大きく見開かれた碧眼が、真っ直ぐに俺を見ていた。


「あの……。と、父さんが、俺を産んだの?」

「ああ、そうだ。驚いたか?」


 俺の声は、少し掠れている。全く予期しなかった状況での、告白の瞬間だった。

 生き別れたはずの母親が、実は、ずっと父親だと思って接していた男のオメガだった……。


(──気味が悪いと、思われてやしないだろうか)


 強張る頬を緩めるようにして、俺は無理に笑ってみせる。


「今まで隠していて、それに嘘までついて本当にすまなかった。お前の次の誕生日までに、その手記を書き上げるつもりだったんだが」

「うん、書いてよ。もっと、ちゃんとしたのを読みたい」

 

 イコはその場にしゃがみこむと、俺と目線の高さを合わせてきた。


「父さんと、母さん……じゃなくて、もう一人の俺とそっくりな父さん? の話。もっともっと知りたい」

「イコ……」

「俺……、間違いなく父さんの実の子供なんだよね? 父さんはオメガで……、本当に俺を産んでくれたんだよね?」

「ああ、そうだよ。お前は俺が産んだ。たった一人の可愛い息子だ」


 突然、イコの顔がクシャリと歪んだ。そして、すがるように強く抱きついてくる。

 よかった、と沁み入るような声で呟くのが聞こえた。


(──よかった? こんなに冴えないオメガの()()でもか?)


 実の親から、散々に疎まれてきた自分の器量を、俺はこの年齢になってもまだ肯定的に受け入れることが出来ないでいる。

 現に俺とイコの容姿には、まるで似たところがない。

 見知らぬ他人が、一目で俺たちを親子だと見抜くのはかなり難しいだろう。

 イコ自身が、俺とは血の繋がりがないのではないかという疑いを持ってしまうほど……。

 それでも──。

 イコは俺を親として愛してくれている。故に、自分の疑いが真実なのだと思いこんでショックを受けてしまったのだ。

 ……ああ、だからこそ。レオスとイコの言葉や気持ちを疑うのは金輪際やめようと、俺は心に決めた。

 イコが、俺が生みの親で「よかった」と言ってくれた。その純粋な愛情に全霊で応えていきたい。ただもうそれだけだ。


「手記はもちろん書き上げるが。お前には、改めて話しておくべきことがたくさんあるんだ」


 これまでのこと。

 それから、イコ自身の第二性のこと。

 そしてもちろん、これからのことを……。消息不明だったレオスが見つかったこと。少しややこしい事情はあるが、レオス本人はこの島で暮らしたいと望んでいることも、しっかりと時間をかけて話さなくてはならない。

 愛しい我が子の身体をぎゅうっと抱き返しながら告げると、イコは神妙な顔で頷いた。


「うん。……でもさ。その前に、ちゃんと決めておきたいことがあって」

「決めておきたいこと?」

「そう。つまり、父さんのことなんだけど」

「ん? 俺か?」

「そう。その、さ。……今からは父さんのこと、なんて呼べばいい?」



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