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──短い期間でぐっと身長が伸びたせいか。
十三歳になった頃から、グレンやパットによく『急に大人びた』と言われるようになった。
声はまだあまり変わらないが、でも少しずつ、低くはなっていっているみたいだ。
でも残念なことに、大好きな父親とは外見があまり……いや、全く似ていない。
自分の顔立ちは、おそらく皆が美しいと褒め讃える髪や目の色とともに、赤ん坊の頃に生き別れたという母親譲りなのだろうと……。
つい最近までイコは、何一つ疑うことなくそう思っていた。
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イコの父親で、レルネ島のギルドマスターでもあるリーファスが、何やら緊急の用件だとかで彼の兄に連れ出され、慌ただしく王都へと向かった日のこと。
いつものように、宿屋でヘンドリックの作った昼食を食べて来たイコは、隣にある自宅に帰る途中、二人連れの若い冒険者がパイプを咥えながら駄弁っているのを見かけた。
宿屋の客が、食後に裏庭で煙草を喫みながら話したりしているのはよく見る光景で、イコは気にせずにそのまま通り過ぎようとした。
……こちらには背を向ける形で立って話している、その内容が耳に入ってくるまでは。
「……さっき見かけた金髪の。あれ実は、元勇者の息子らしいな」
「え、そうなのか」
「ああ、俺らがまだガキだった頃に活躍してた、今は行方知れずの……確か、レオ? なんとかって勇者の」
「へえー!」
「この島のギルマスが、その勇者のパーティにもいたことがある魔法使いなんだってさ」
「ああ、白魔法使いのトワだろ? ならその勇者の名は『レオス』だ!」
「そうそう、それ、レオスだ。……あの子、マスターの息子のはずだけど、顔はレオスにそっくりだって、さっきギルドでベテラン勢が噂してた」
「ハハッ、なんだよ、本人もそこにいたんじゃないのか? 誰も直接訊かなかったのかよ?」
「それが、マスターは不在でさ。ピンクの髪の女の人が代理だって仕切ってた」
「ああ、パットさんか。あの人も確か、元レオスの仲間だぜ。訊いてみればよかったのに」
「……いやぁ、訊けねーだろ。なんか気が強そうだし。それに何かワケありっぽいしさ。余計なこと訊いたりしたら怒り出しそうで怖ぇもん」
「ああ……、確かにあの人、美人だけどおっかねえよな」
──話している二人とは、少し距離があった。
それも、そんなに大きな声じゃないにもかかわらず、イコの耳には一言一句、全て明確に聞き取れてしまう。
グレンにも『鼻がいいな』なんてよく驚かれるが、鼻だけに限らず、元々優れていた彼の五感は、最近自分でも驚くほどさらに発達しているような気がしていた。
いや、そんなことよりも。
(今、何て……? 勇者……?)
(俺が、勇者にそっくりって……、息子って。じゃあ、父さんは?)
(俺と父さんは、一体……?)
どういう風にその場から離れたのか、イコは全く覚えていなかった。
気がつけば、家の居間のソファに突っ伏すように倒れ込んでいた。
そうやって、どれぐらいの時間が過ぎただろうか。
(──金髪って言ってた。金髪は、この島じゃ俺しかいない)
島の外から来る人間の中にも、ごくたまに金の髪の人はいた。
だが、ギルドマスターであるイコの父親まで噂されていたとなると、おそらく彼らが言う金髪というのは自分のことだろう。
(勇者の子? 父さんは勇者じゃない。……母さんは?)
母さんの名前は、レオナ。
キリィがそう言っていた。
強い魔法使いだと、パットが言っていた。
勇敢で、どんな相手にも負けたことがない、とヴォルフが……。
(母さんは……、冒険の途中で、ダンジョンの崩壊に巻き込まれて行方知れずだ、って)
母親のことを、金髪碧眼の美しい人だと言ったのは、昔トワという名で冒険者をしていたイコの父親、リーファスだ。
でも、魔法使いだったはずのレオナが、勇者なわけがない。
(じゃあ、父さんが?)
いや、違う。彼も勇者じゃない。
だとしたら……。
そうして辿り着いてしまった答えに、イコは愕然とする。
親子であるはずなのに、そのあまりにも相似する点のない外見に、いつからかもやもやとした不安を感じてはいたのだが……。
(父さんは……、リーファス・トワは、俺の……本当の父親じゃ、ない?)
ガチャッ、と裏口の扉が開く音がした。
イコが身を起こすのとほぼ同時に、台所から居間に続く扉が開く。
「イコ? 戻っているか?」
そう声をかけながら、入ってきたのは大柄な壮年の男──ヴォルフだった。
ヴォルフも、両親やパットやキリィとともに、冒険者のパーティを組んでいた仲間の一人だ。鍛え抜かれたとわかる体躯は逞しく、イコが幼いときには、何度もその肩の上に乗せてもらった。
「すまなかった。一緒に戻るつもりが、パットに呼び止められて……」
顔を上げたイコを見るなり、ヴォルフはハッとして言葉を切る。
「イコ? どうした、何があった!?」
滂沱の涙。年齢よりも少し大人びて見えるようになった、少年の頬を流れ落ちていく。
「ヴォルフさん……」
「イコ、どうしたんだ。どこか痛めたか?」
ヴォルフはイコの隣に座り、その肩を抱いて注意深い眼差しでじっと少年の顔を見つめる。
凄腕の傭兵でもある彼の五感は、とっくにこの場には何も異常がないことを確認している。
──異常があるとすれば、それは目の前にいるこの少年の内側だ。身体か、それとも……。
はあ、と手で目を拭いながら、イコが深く吐息した。
「大丈夫、だよ。別に怪我して泣いてるんじゃないんだ」
「ならどうした? 何もなくて、そんなに泣くわけがないだろう?」
話してみろ、と。
そっと促され、イコは取り留めのない形で話し始める。
「みんな……、見たこともない母さんに似た俺の外見を褒めそやすけど。でも、俺は……。ほんの少しでいいから、父さんにも似ていたかった、な」
「イコ?」
ヴォルフは、怪訝に太い眉を顰めた。
イコは、覗き込む彼の視線から目を逸らしながら続けて言った。
「でも、違ったんだ。……俺の本当の父親は、レオス、っていうんだね?」




