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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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 ──短い期間でぐっと身長が伸びたせいか。

 十三歳になった頃から、グレンやパットによく『急に大人びた』と言われるようになった。

 声はまだあまり変わらないが、でも少しずつ、低くはなっていっているみたいだ。

 でも残念なことに、大好きな父親とは外見があまり……いや、全く似ていない。

 自分の顔立ちは、おそらく皆が美しいと褒め讃える髪や目の色とともに、赤ん坊の頃に生き別れたという()()()()なのだろうと……。

 つい最近までイコは、何一つ疑うことなくそう思っていた。



     ➕ ➕ ➕



 イコの父親で、レルネ島のギルドマスターでもあるリーファスが、何やら緊急の用件だとかで彼の兄に連れ出され、慌ただしく王都へと向かった日のこと。

 いつものように、宿屋でヘンドリックの作った昼食を食べて来たイコは、隣にある自宅に帰る途中、二人連れの若い冒険者がパイプを咥えながら駄弁(だべ)っているのを見かけた。

 宿屋の客が、食後に裏庭で煙草を()みながら話したりしているのはよく見る光景で、イコは気にせずにそのまま通り過ぎようとした。

 ……こちらには背を向ける形で立って話している、その内容が耳に入ってくるまでは。


「……さっき見かけた金髪の。あれ実は、元勇者の息子らしいな」

「え、そうなのか」

「ああ、俺らがまだガキだった頃に活躍してた、今は行方知れずの……確か、レオ? なんとかって勇者の」

「へえー!」

「この島のギルマスが、その勇者のパーティにもいたことがある魔法使いなんだってさ」

「ああ、白魔法使いのトワだろ? ならその勇者の名は『レオス』だ!」

「そうそう、それ、レオスだ。……あの子、マスターの息子のはずだけど、顔はレオスにそっくりだって、さっきギルドでベテラン勢が噂してた」

「ハハッ、なんだよ、本人もそこにいたんじゃないのか? 誰も直接訊かなかったのかよ?」

「それが、マスターは不在でさ。ピンクの髪の女の人が代理だって仕切ってた」

「ああ、パットさんか。あの人も確か、元レオスの仲間だぜ。訊いてみればよかったのに」

「……いやぁ、訊けねーだろ。なんか気が強そうだし。それに何かワケありっぽいしさ。余計なこと訊いたりしたら怒り出しそうで怖ぇもん」

「ああ……、確かにあの人、美人だけどおっかねえよな」


 ──話している二人とは、少し距離があった。

 それも、そんなに大きな声じゃないにもかかわらず、イコの耳には一言一句、全て明確に聞き取れてしまう。

 グレンにも『鼻がいいな』なんてよく驚かれるが、鼻だけに限らず、元々優れていた彼の五感は、最近自分でも驚くほどさらに発達しているような気がしていた。

 いや、そんなことよりも。


(今、何て……? 勇者……?)

(俺が、勇者にそっくりって……、息子って。じゃあ、父さんは?)

(俺と父さんは、一体……?)


 どういう風にその場から離れたのか、イコは全く覚えていなかった。

 気がつけば、家の居間のソファに突っ伏すように倒れ込んでいた。

 そうやって、どれぐらいの時間が過ぎただろうか。


(──金髪って言ってた。金髪は、この島じゃ俺しかいない)


 島の外から来る人間の中にも、ごくたまに金の髪の人はいた。

 だが、ギルドマスターであるイコの父親まで噂されていたとなると、おそらく彼らが言う金髪というのは自分のことだろう。


(勇者の子? 父さんは勇者じゃない。……母さんは?)


 母さんの名前は、()()()

 キリィがそう言っていた。

 強い魔法使いだと、パットが言っていた。

 勇敢で、どんな相手にも負けたことがない、とヴォルフが……。


(母さんは……、冒険の途中で、ダンジョンの崩壊に巻き込まれて行方知れずだ、って)


 母親のことを、金髪碧眼の美しい人だと言ったのは、昔トワという名で冒険者をしていたイコの父親、リーファスだ。

 でも、魔法使いだったはずのレオナが、勇者なわけがない。


(じゃあ、父さんが?)


 いや、違う。彼も勇者じゃない。

 だとしたら……。

 そうして辿り着いてしまった答えに、イコは愕然とする。

 親子であるはずなのに、そのあまりにも相似する点のない外見に、いつからかもやもやとした不安を感じてはいたのだが……。


(父さんは……、リーファス・トワは、俺の……本当の父親じゃ、ない?)





 ガチャッ、と裏口の扉が開く音がした。

 イコが身を起こすのとほぼ同時に、台所から居間に続く扉が開く。


「イコ? 戻っているか?」


 そう声をかけながら、入ってきたのは大柄な壮年の男──ヴォルフだった。

 ヴォルフも、両親やパットやキリィとともに、冒険者のパーティを組んでいた仲間の一人だ。鍛え抜かれたとわかる体躯は逞しく、イコが幼いときには、何度もその肩の上に乗せてもらった。


「すまなかった。一緒に戻るつもりが、パットに呼び止められて……」


 顔を上げたイコを見るなり、ヴォルフはハッとして言葉を切る。


「イコ? どうした、何があった!?」


 滂沱の涙。年齢よりも少し大人びて見えるようになった、少年の頬を流れ落ちていく。


「ヴォルフさん……」

「イコ、どうしたんだ。どこか痛めたか?」


 ヴォルフはイコの隣に座り、その肩を抱いて注意深い眼差しでじっと少年の顔を見つめる。

 凄腕の傭兵でもある彼の五感は、とっくにこの場には何も異常がないことを確認している。

 ──異常があるとすれば、それは目の前にいるこの少年の内側だ。身体か、それとも……。

 はあ、と手で目を拭いながら、イコが深く吐息した。


「大丈夫、だよ。別に怪我して泣いてるんじゃないんだ」

「ならどうした? 何もなくて、そんなに泣くわけがないだろう?」


 話してみろ、と。

 そっと促され、イコは取り留めのない形で話し始める。


「みんな……、見たこともない母さんに似た俺の外見を褒めそやすけど。でも、俺は……。ほんの少しでいいから、父さんにも似ていたかった、な」

「イコ?」


 ヴォルフは、怪訝に太い眉を顰めた。

 イコは、覗き込む彼の視線から目を逸らしながら続けて言った。


「でも、違ったんだ。……俺の本当の父親は、レオス、っていうんだね?」




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