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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第二章 元最強勇者のアルファが俺の元に帰ってくるまでの話

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32/48

10-3 ※

※ ※ ※

今回の話にはR-15の表現が含まれています。




 ざぶんざぶん、と埠頭にぶつかる波の音。

 潮の香り、港の喧騒。

 夜になっても、あちらこちらで大きな火が焚かれ、船への荷の積み下ろしが賑やかに行われている。

 それら全部に背を向けるように、俺とレオスは縺れ合うようにして再び甲板からキャビンの中に入った。

 さっきまで過ごしていたダイニングを素通りし、俺は二つある客用のキャビンの扉の一方を開けた。

 中にはカウチベッドが二つ並んでいる。部屋そのものは一応二人で使う仕様になっているのだが、大人二人で入ると、さすがに窮屈な感じは否めなかった。

 片方のベッドに身を寄せ合うように横たわり、幾度も軽いキスを交わす。俺だけじゃなく、レオスも相変わらず、強い抑制剤を飲んでいるらしい。

 原因はそれだけじゃないかもしれないが、俺も今は、レオスが我を失うような強い発情(ラット)を誘発するほどのヒートには至っていない。

 昔、初めて強いヒートを起こしてレオスに抱かれた時のように。

 いつかレオスと再会できたなら、あの時のように抑制剤など跳ね除けて或いは……、と思っていた俺の秘かな望みは叶わなかった。

 ただ俺の身体は緩やかにではあるが、レオスの匂いと熱とに反応を示している。そして、まだ半分ぐらいは、理性も残っていた。

 一張羅であるローブを脱がされながら、俺は譫言(うわごと)のように言った。


「待っ、て。グレンが……もし帰ってきたら……」

「グレンも、キリィも。今夜はもうここには来ないと思うぞ」


 上半身裸になった俺を抱き寄せたレオスは、俺の血色の悪い頬に唇を滑らせながら囁くように言った。

 その指先は悪戯をするように、俺の首に嵌ったチョーカーをなぞっている。


「ん、なん、で?」

「気づいてないのか……」

「何、を?」

「グレンは本気でお前に留守を頼んだわけじゃない。この船の周りには奴の配下が何人もいる。無論、お前と船を守るためにだが」

「守る? 何から?」


 俺が問うと、レオスは薄く笑んだ。


「さあ。悪い男にお前が攫われたりしないように、かな」

「そんな物好き、一体どこにいる……?」

「物好きかどうかは判断が分かれるところだが……お前はもう少し、自分の価値をわかった方がいいんじゃないのか」


 言いながら、もうこの話は終いだとばかり、レオスは俺を強く抱き締めてきた。


「……いや、しかし本当に細いな。これ以上力を入れたら折れそうだ」

「しかも、昔よりもっと貧弱になったかもしれない」


 真顔でそう告げると、レオスは厭そうに顔を顰めた。


「昔の話は無しにするんじゃなかったのか」


 ──昔の自分に嫉妬してしまいそうだ、と。本気を滲ませて言うから、おかしい。

 ついでとばかり、俺は釘を刺した。


「俺はお前しか知らないし……それも、十四年振りだ。下手だったりしても、その……、文句は言うなよ」

「奇遇だな。俺もたぶん、そうだ」

「嘘つけ」


 睨むように見返すと、レオスは小さく笑う。


「……記憶がない年数もあるから断言はできないが。この十四年間、誰ともそういうことがなかったのは、たぶん本当だ。だから、俺には実は番がいるんじゃないかと、一部ではそんな噂もあったらしい」

「え……」


 レオスは身体を起こすと、礼服の(ボタン)をいくつか外し、上着の前を寛げた。

 だが服を脱ごうとはせず、俺だけが丸裸にされた。

 身につけているのは、兄から貰ったチョーカーだけだ。

 レオスも気になるのか、複雑な表情でじっとそれを見ながら言った。


「新しいものだな。贈り物か?」

「王宮では、オメガはチョーカーを付けるのが決まりだからと。今朝、兄がくれた」

「なるほど」

「だから、普段はつけてない」


 気になるのなら外すが、と言うと「いや」とレオスは首を横に振った。


「……このままでいい。今日のところは」

「今日のところは、って?」

「次のときは、俺が贈ったものをつけてくれ」

「……わかった」

 

 天井に吊るされた小さなランプの灯り一つの(もと)、レオスは熱の篭った手で俺の身体中を撫で回し始める。

 はじめは、様子を窺うようにそろそろと動かしていたのが、次第に遠慮のない大胆な手つきになっていった。


「あ、レオ……っ」


 正面からのしかかられ、貪るように口付けられる。

 レオスの手が俺の前を掴み取る。少し慰められただけで、俺は呆気なく果ててしまった。


「レオ、レオス!」


 俺はしゃくり上げるようにその名を呼ぶ。

 達したばかりの俺の前を触る手つきが、泣きたくなるほど優しい。

 今度は、互いの手と手で相手のものを慰め合う。だが、レオスの方が巧みだった。

 彼が果てるまでに、俺は二度も果ててしまった。


 ──身体中、至る所を手や口で触れられ、愛撫された。

 幾度も果てて、胎の奥に燻るように宿っていた熱がようやくおさまってきた。

「……レオ?」

「大丈夫か?」


 いたわる声とともに、肩先に口付けられた。


「レオ……、最後までしないのか?」

 

 俺が訊ねると、レオスが苦笑する気配が伝わった。


「いや……、今夜は止めておく。今本気を出したら、一晩でおさまる自信がない」


 場所も場所だし、さすがにそれはまずいだろう? と身体を起こしたレオスにため息混じりで言われ、俺もハッとした。

 そうだ。ここは、グレンの船の中だった。こんな所で抱き潰されたりしたら堪らない。

 レオスの獣性は、とんでもなく強壮で強欲だった。というか、今でもそうなのか?

 キッチンで水を汲んできたレオスは、俺の身体を丁寧に清拭してくれた。

 

「トワ。俺は一度、エティスたちとロダに戻る」

「……そう、か」

「で、色々片付けたら、すぐにまたこっちに帰ってくる。そうしたらレルネ島に……俺を迎えてくれるか?」


 俺は、ベッドにうつ伏せたまま、レオスの顔を窺うようにすくい見る。

 ……昔よりも年齢を重ねた分、その容姿に変化がないとは言わない。

 俺が知らない間の、過酷な戦いの日々から得た壮絶な経験は、確実にレオスから若さを奪い取り、心身を老成させている。

 だが、やはり相変わらず美しい男だった。

 

「俺も、島に帰ったらイコに全て話す。あの子は生き別れた母親に会いたいと、幼い頃はたまに枕を濡らしていたが……、まさか元最強勇者が父親として帰ってくるとは、本当に夢にも思っていないだろうな」

「トワ……、それもこれも、全部俺が招いたことだ。だから、一生を賭けて必ず償う。お前にも、イコにも」


 そうだな……、と俺は呟いた。


「償いはいいが、条件がある」

「条件?」

「そうだ。またもし、お前がどこか遠くへ行くことになったとしても……、そのときは問答無用でついていく。たとえそこが、世界の果てや、地獄の底であったとしても」


 ──そう約束することが、俺の元に帰ってくるための条件だと。

 元最強勇者の鼻先に、俺はびしりと指を突きつけて告げた。




第二章 了 (第三章に続く)


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