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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第二章 元最強勇者のアルファが俺の元に帰ってくるまでの話

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   ➕ ➕ ➕



 ──俺とレオスの十四年ぶりの対面は、波乱と混乱を残したまま、あっけなく時間切れとなって終了した。

 ロダの使節団には、このあと行なわれるグリギアの国王との謁見で、次期国王からの親書を手渡すという重要な任務がある。

 そして夜には、国王主催の晩餐会が催される。ロダ側としては、次の体制が始まる前に少しでもここで、グリギアとの親交を深めておきたいところだろう。

 ロダを救った英雄レオスは、自由連合側においても『元最強勇者』として超がつくほどの有名人であった。彼には彼の、政治的な役割があっての今回のグリギア訪問といったところか。

 そうなると、俺はもう完全に部外者だった。

 俺はキリィとともに王宮を辞すと、そのままグレンの船が停泊している港に足早に徒歩で向かった。一度馬車の中から道は見ているので、迷う心配はない。

 その道中、キリィはこれまで俺には話せなかったという、ロダでのことを話してくれた。

 

 ──二年前。

 キリィは、兄の手引きで内乱が終結した直後のロダの地に入り、本業の薬の行商をしながら、様々な場所で情報を収集していた。

 兄は、当初からレオスのことをとても気にかけていて、キリィも何とかその身辺の近くに入り込めるよう尽力していたという。

 やっと、レオスの仲間の一人と親しくなり、そこからようやくレオス本人と再会することが出来たのだった。


「……つまり、レオスはキリィのことは覚えているんだな」


 俺が訊くと、キリィは少しバツが悪そうに頷いた。

 ……やっぱり。さっき、レオスとキリィが一瞬目を合わせたときの雰囲気は、互いを見知っているが故のスルーだった。


「俺のことも、嬢さんのことも、ヴォルフのことも、ケルス爺のことも。……トワ以外の冒険者仲間のことは、ちゃんと覚えてる。あいつが記憶をなくしてるのは、怪我を負う直前から遡って、だいたい五年か六年の間ほど……らしい」


 なるほど。よりにもよって、ちょうど俺たちが出会った頃ぐらいからの記憶がないわけか。


「しかもアイツ、さっきエティス様も言ってたが、トワちゃんのことは記憶をなくす前から、誰にも一度も話したことがないらしい。まあ、いつ誰に裏切られるかわからん状況だったみたいだから、それはそれで正解だったんだろうけどな。だから皆、レオスには番がいるってことを、俺が話すまで全く知らなかったんだ」

「いや、俺は番じゃなくて……」

「うるさい。イコのためにも、そこは絶対に否定するな。でないとアイツ、本当にこっちには帰ってこられなくなる」


 と、キリィは語気を強めて言った。

 ああ、と俺は思い出した。救国の英雄であるレオスには、かつて、ルキウスの王妃であった人との縁談話が持ち上がっているとか、いないとか。


「でも次の王は、ルキウスの実弟なのだろう? さっき会ったエティス様の婚約者だとかいう」

「ああ。ルキウスは、ある側室の一人を後生大事にしていて、正妃とその子供である王太子は、元は反乱分子の家の出だからとほぼ幽閉扱いだった。だからルキウスと側室が処刑されても、彼らは許されているんだが」

「では、その王太子はどうなったんだ」

「……線の細い子だそうだ。まあ、これまでに色々とあったんだろうが、どうやら精神を病んでるらしい。王妃殿下も、レオスとの婚約ははっきりと断られたそうだ」

「そうか……。じゃあ、一体何が問題だ? レオスの気持ち以外での話だが」


 ここまで事態が込み入っているのなら、俺はもう、最終的にはレオス自身が好きなように生きられる道を選べばいいと思っていた。

 とにかく、俺にとってはレオスが無事であるという事実を、自分のこの目で確かめられたことが何よりも大きい。

 今日、王宮に呼んでもらえたことの意味は、それだけでもう充分だった。

 だから、俺のことは別にいい。ただイコのことだけは、また改めて考えなくてはならないが。


「王妃との再婚話やら、王太子の摂政になるやらの話が完全に消えてやれやれ、となった途端、今度はまた、別の縁談話が山のように降ってきたのさ」

「ああ……」


 なるほど。あの国には絶対にレオスを放したくない手合いが……、いや、彼を必要としている勢力があるというわけか。

 次期国王とやらは、ルキウスの実弟でありながら、レオスとともに内乱を導いたリーダーの一人であったと聞く。今度はその彼とレオスとの間に、不協和音が生じでもしたら……。


「まさか、またイコの生命が不当に狙われる可能性があるのじゃないだろうな?」

「………。そうならないためにも、レオにはもう戻ってきてもらう方がいいだろ?」

「待て。なんだその今の間は?」


 歩きながら、やいやい言い合っているうちに、俺たちは港に到着した。

 大勢の乗客や船員、荷を積み下ろす人足たちで賑わう広い港の中を、今度はグレンの船を探して歩く。


「お前とイコのことは、つい最近、エティス様と一緒に打ち明けた。だからアイツはお前に会いたくてたまらなくなって、ギリギリのタイミングで今回の使節団のメンバーの中に無理矢理割り込んできたんだ」

「だから、お前も慌ててロダから帰ってきたわけか……」

「そういうこと」


 俺の知らないところで、誰かが(さい)を──この場合はキリィだ──が、振ってくれた。

 この十四年の間、レオスのことで俺は幾度か失意のどん底に落ちた。

 そして、その度になんとか這い上がってこられたのは、俺のそばにイコや仲間たちがいてくれたからだ。

 それでも、つい一昨日までの俺の感情は完全に凪いでいた。

 なのに兄から魔導信が来てからというもの、停滞していた物事が目まぐるしく一気に展開し、俺を取り囲む世界は今や狂瀾の真っ直中だ。

 明日の自分は、一体どんな気持ちになっているのかまるでわからない。

 誰しも、後悔がないように生きるのは難しい。

 エティスは、こちらに滞在中にまたなんとか時間を作ると言ってくれた。ならばレオスのことは、そのときに考えればいいのか。

 今はとにかく、早く一人になって気持ちを落ち着けよう……。そんなことを思っていると、不意に横を歩いていたキリィの足が止まった。


「キリィ?」


 彼は、まっすぐ前を見ていた。俺もその視線の先を追いかける。

 そこには、俺たちが乗ってきたグレンの小型帆船(セイルボート)──小型といっても、定期船の二倍はある──が、停泊している。グレンが所有する船の中ではもっとも速い船だった。


 その船梯子(タラップ)の前に、黒の礼服に身を包んだ金髪の美しい男が立っていた。




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