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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第二章 元最強勇者のアルファが俺の元に帰ってくるまでの話

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9-1




「はあ? 嘘って……。ああ……」


 エティスががくりと項垂れる横で、武人の男も黙ったまま、目を閉じて首を横に振る。


「見たところ、何か手違いがあったようですな」


 兄がレオスの方をじろりと見遣りながら言うと、「申し訳ありません……」とエティスが消え入るような声で謝罪した。


「彼に会って頂く前に、トワ様には先にあのこともご説明させて頂くつもりでいましたが……」

「おい、レオ!」


 俺を押しのけるように、ずいっと前に出てきたのはキリィだった。


「何が嘘だ。お前、会えば絶対にわかるってそう豪語してたじゃないかっ! ほら、ちゃんとよく見ろ! 嘘なんかじゃない、コイツが、お前の大事なトワだ!」

「キリィ……、キリィもういい」


 居た堪れなくなった俺は、キリィの腕を掴んでそっと引き戻す。

 今の状況や、レオスが俺を見る視線のよそよそしさでなんとなく……そう、大体のことは把握できてしまった。

 俺は、レオスに捨てられたのではなく、完全に忘れられているのではないか。

 おそらく、瀕死の重傷を負った時にでも、記憶を……失ってしまったのだろう。

 エティスはそのことを説明するために、先に俺と会って話をしてくれようとしたのだと、ようやくそう理解した。

 でも、再会しても、もう意味はない。

 俺は、十四年前の若かりし頃でさえ、よく言ったとしても十人並と言われていたほど、オメガとしては冴えない容姿だった。

 今はきっと、目も当てられぬほどに老けて窶れてしまっているのだ。

 エティスのように美しいオメガを見慣れているのなら、尚更……。


「もういい。よくわかったから」

「はあ? 何がわかったって?」


 珍しく、キリィの目が怒っている。

 俺はすぐにもここから出て行きたかったのだが、誰もこの場から動こうとしない。見るべきもの、聞くべきことがまだここには在るのだと言わんばかりに。


「──何が嘘だと?」


 淡々と、レオスにそう問いかけたのは兄だった。

 レオスは、まだ何か、俺を疑うように見ている。だが、自分が場にそぐわない失言をしたのだとはわかっているのだろう。

 一瞬、言い淀んでから、レオスは静かにそれを口にした。


「……失礼を重ねると承知で、一つお尋ねしたいのだが。構わないだろうか」


 レオスは、真剣な表情で、俺に乞うてくる。

 俺は、黙って頷いた。

 ──こんな状況だったが、俺はギルドの紹介で、初めてレオスと会った日のことを思い出した。

 あのときのレオスも、年下の俺に対してこんな風に丁重に話しかけてきた。とても育ちがいいのだろうな、と思ったことを覚えている。

 ほとんど忘れかけていたレオスに対する第一印象を、こんな時に思い起こすなんて……。

 

「では、その……年齢(とし)はおいくつだろうか?」


 ──は?


 俺だけじゃない。今、この場にいる全員の表情が全く同じだった。


「……あなたより二つ下ですから。今年で三十四になりますが?」

「う、」


 う? 何だ。まさかまた「嘘だ」とでも言いかけたのだろうか。

 レオスは、片手で顔を覆った。


「エティス、お前は確か、二十八だな?」

「え、ええ、その通りですが? 何ですか、藪から棒に……」

「──若い」

「は?」

「だから、この……、トワ殿の方がお前よりも若く見えると言ってるんだ!」

「はああっ!?」


 エティスが、腹の底からの頓狂な声を上げた。

 ……いや、それはそうなるだろう。

 だが、レオスはエティスの反応など全くお構いなしに、三十四だなんて嘘じゃないのか? とそんな問いを露骨に浮かべて俺を見ている。

 いや、そんな嘘をついてどうする……いや、いや、ちょっと待ってくれ。これは一体どういう……?


「馬鹿だな……、またお前、トワに……」


 キリィが呆然とした顔で呟く。

 それを聞くなり、兄は渋面になった。そして苦い声で俺たちを……、俺とレオスを睨むようにして呟く。


「全く。私は一体、何を見せられているのだ……」




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