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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第一章 オメガの俺が最強勇者の子供を身ごもるまでの話

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5-3



   ➕ ➕ ➕ 



 仲間全員でクエスト達成の祝宴を催したあと、俺たちはまたしばらく別行動をとることになった。

 レオスと俺も、以前のように二人だけで目的のない気ままな旅に出るつもりだったのだが……。

 皆と別れ、宿を発つ寸前、レオスの元に一通の手紙が届いた。


 その手紙は、レオスが訣別したつもりであった過去へと、彼を引きずり戻すものだった。

 それで最愛の家族の苦境を知らされたレオスは懊悩し、俺はただその様を為す術もなく見守ることしかできなかったのだ。

 レオスは、自分の決断をすぐには語ろうとしなかった。俺も訊くことができないままに三日ほどが経ち、ようやく俺たちは宿を引き払って旅を始めた。

 だが、それがただの移動だとわかるのにさほど時間はかからなかった。

 数日かかって辿り着いたのは、冒険の合間、レオスたちが旅の疲れを癒すべく度々訪れていたという、とある山間にある小さな美しい村だった。

 そこにレオスの名義で借りているという、さほど大きくはないが手入れの行き届いたコテージがあり、俺はその一室に通された。


「リー。すまないが、しばらくここで待っていてくれないか」

「待つ? 誰を……」

「じきにパットやキリィたちも来るから、ここで合流してくれ。宿にいた時に、もう知らせは出しておいたから……」

「お前は?」


 俺は取り縋るように訊いた。レオスがここに俺を置いて何処かに行こうとしていることは、とっくにわかっていたのだ。

 ──何処か、ずっと、遠くへ。

 独りで。


「レオス……!」


 レオスは昏い目で俺を見下ろした。


「トワ。俺にも兄がいる。本当は従兄なんだが、ややこしい家でな。俺の父親が、自分の兄の妻だった女と再婚したんだ。その名を聞けばお前もきっと驚く。何せこの俺よりも有名だから」


 ……勿論、 悪い意味でな、とレオスは片頬を歪めて笑う。


「あいつを止めなきゃならない。所詮、俺の出る幕ではないとずっと背を向けていたが……」


 ──このとき、レオスが淡々と初めて話してくれた身の上話は、正直俺が密かに予想していたのより遥かに意外で、途方もないものだった。




 レオスは、クナ大陸の東の果てにある国──ロダ王国の出身だった。

 ロダ王国といえば、百年以上も前から封鎖的な政策を執っていることで知られる絶対君主制の国だ。

 しかも、現国王はさらに前時代に逆戻りしたかのような独裁者で、東方の小国郡を次々と武力で占領し、その残虐非道な統治のやり方は、まさに悪政の典型として大陸中に轟いていた。

 その王こそ、レオスの父が再婚した相手の息子であり、実際の続柄は従兄でもあるルキウスだった。レオス曰く、驕慢で猜疑心が強く、まるで蛇のように執念深い性質であるそうだ。

 先頃、そのルキウスに反感を抱く一部の王族と貴族が手を組み、クーデターを起こした。

 それは瞬く間に鎮圧されてしまったのだが、ルキウスの怒りは物凄まじく、生き残った首謀者たちは即日処刑され、クーデター側に与した家や関わりを疑われた家は、妻子に到るまで皆残らず連行され、投獄された。

 その中に、ほとんど冤罪に近い形で捕らわれたレオスの母親と、その夫である養父がいたのである。

 

「俺が国に帰れば、何が起こるかわからない。いや、必ず最悪なことが起こる。あるいは、それ以上にもっと悪い事態が……。だから、俺一人で行かなきゃならない。お前も、今日からは必ず仲間と一緒に行動するんだ。俺が刃向かうと知ったあいつが、どこまで手を伸ばしてくるかわからない。もしグリギアに帰れるのなら帰れ。いいか、絶対に一人きりにはなるな。わかったな?」


 お前たちも巻き込んでしまうが、どうか頼む、わかってくれと、手を強く握り締められながら、告げられた。

 レオスは、最初から俺に考える時間を与えてはくれなかった。

 俺はともかく、あんなに強いヴォルフやパットにさえ、ここに集まるようにと指示を出した以外、何の説明もしていない。俺よりもずっと長く一緒だった仲間には、何も告げずに去ろうとしている。


 ──俺とも、別れて……。


 ざあっと音を立てて血の気が引いていく心地がした。

 感情よりも先に、身体が強い拒否反応を起こしている。

 この男と絶対に離れたくないと。


「トワ!」


 ……気がつけば、レオスの腕の中だった。ふらついてしまった俺を、レオスが強く抱きとめていた。


「大丈夫か?」

「……大丈夫、じゃない」


 俺は弱々しく首を横に振る。


「俺はお前に……、たった今捨てられたんだから」

「捨てる? お前をか? 誰がだ」


 論外だと言わんばかりに、レオスは語気を強めて言った。


「悪いがそれはない。勝手を言うが、お前は俺だけのものだ」

「レオ……?」


 必ず戻る、と。レオスは俺をぎゅうっと強く抱いたまま、耳許で囁いてきた。


「何があろうと必ず。何年かはかかるだろうが……。待っていて欲しい」


 長い時間、レオスは俺を宥めるように抱き締めていた。血の気が引いていた身体に、徐々に熱が戻ってくる。そしてようやく、レオスが頻りに俺に「一人になるな」と言っていることに気づいた。

 レオスが俺のもとから去っていくことばかりに気を取られていた。


(……残る俺にも、いや、俺たちにも危険があるということか)


 ショックのあまり、停止しかけていた思考が(おもむろ)に動き出す。

 案じるように俺の目を見ていたレオスにも、それが伝わったようだった。

 碧眼が小さく笑う。


「いけそうか?」

「ああ。取り乱して悪かった」

「いや、どんなお前でも、俺には愛しいから大丈夫だ」


 何が大丈夫なのかはさっぱりわからないが、お互いに調子が戻ってきたようだった。

 勇者とその一行は、絶望とは縁遠いものだと、この二年の間に知った。

 為すべきことを為していく。ただそれだけのことだ。


「仕方がないから、待っていてやる。ついて行ってもどうせ、足手纏いになるだけだ」

「ああ、悪いな」


 ありがとう、とレオスは笑顔で言った。ここでそんなに美しく笑えるとは流石だ。俺には出来ない芸当だった。

 それでも何かしたくて。俺は、そっと彼の唇に自分のそれを触れさせた。

 ……ヒートで抱き合っているとき以外では、こちらからしたのは多分、初めてだ。

 驚いたように、レオスが目を見開く。

 これで、少しは(はなむけ)になるだろうかと思っていると、笑顔をかなぐり捨てたレオスが、俺がした何倍もの激しさで猛然と唇を奪ってきた。

 俺もレオスの首に腕を回し、無我夢中で応えた。


 どうかこれが最後にはなりませんように、と。それだけを強く念じながら。




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