5-2
➕ ➕ ➕
どうやらレオスが、以前から俺に対してとても強い好意を抱いていたらしい……と気づいたのは、強引に誘われるがまま二人っきりで旅をしたその最中だった。
ヒートなどとは関係なく、レオスはしょっちゅう俺に触れたがったし、周りに人がいようがいまいが、特別な相手を甘やかすような態度や言動を取ったりもした。
そして、俺はそうされることが全く嫌ではなかった。だから、キスを求められても構えることなく自然に応じられたし、それ以上のことにも……。
ヒートのせいで、自分が為す術なく押し流されているのかと思っていたが、知らず知らずのうち、俺もレオスに少しずつ惹かれていっていたのかもしれない。
体から始まったと言われれば、まあそうなのだろうし、それをことさらに否定するつもりはなかったが、レオスからすれば俺とはまた違った言い分があるらしい。
──曰く、一目惚れであった、と。
それが本当に信じられなかった俺は、始めのうちは全く取り合わなかったのだが、「お前がずっとそんなつれない風だったから、俺はあの時までずっと気持ちを抑えつけて我慢していたんだ」とまで言われては、渋々とだが認めざるを得ない部分はあった。
あの時とは、初めてヒート中に抱かれた時のことだ。
あの夜、どうせ断られるならと、いつになく少し強引に食事に誘ってみたのだとも言っていた。
──今にして思えば、だが。ギルドで初めて引き合わされた時から、レオスは度々俺を選んで一緒に行動したがる節があった。
俺としては、必要以上にアルファには近づきたくない一心で、無難な案件以外はさりげなく避けていたつもりだったのだが、そんな俺のよそよそしい態度がレオスに我慢を強いる要因となっていたらしい。
それにしてもお前はあまり趣味がよくないな、と言ってやると、レオスは心外だとばかりに眉を吊り上げてみせた。
「ほっといてくれ。誰がなんと言おうと俺のリーは誰より美しい」
「……リー?」
俺が首を傾げると、レオスは甘く微笑んだ。
「お前のことだよ、トワ。でも二人だけの時は、リーだ」
「レオ……」
…………言われずともわかっている。この頃の俺たちは、どこからどう見ても甘い時を過ごす恋人同士だった。
二人だけで旅をしたのはひと月弱ほどのことだったが、俺たちにとっては間違いなく蜜月の時間であったと思う。
➕ ➕ ➕
やがてパットとキリィ、ヴォルフも合流し、俺たちはギルドを通じてドゥーリア古王国からの依頼を受け、新たなクエスト──国中の古代遺跡内に突如現れたダンジョンの攻略──に向かうことになった。
現れたダンジョンは四つ。
それぞれのダンジョンに棲まう、計四体の凶悪な魔神を斃すべしという、またもや難易度の高い勇者のパーティのための長期クエストだった。
ダンジョンとは、この世界と魔界との境界に現れる小さな異界だ。
一刻も早く攻略して結界を張り、資格を持つ者以外は入り込めぬように閉じなくては、この世にどんな災いをもたらすかわからない。
まず、唯一場所がわかっている遺跡に向かい、その近くにテントを張ってベースキャンプを造成する。
言ってしまえば野営だが、ダンジョンの内と外を結ぶ転移魔法陣を敷くための『始点』となる重要な地点だ。
次に、魔法や呪術によって巧妙に隠されたダンジョンの入口を探し出し、モンスターを倒しながらギミックを解除して奥へと進む。
枝分かれした迷宮の道を進んでは戻り、正解の道を見つけ出して行く。
途中にいくつか転移魔法陣を敷いておき、外のベースキャンプには一瞬で戻れるようにしておく。
未踏の地への転移は不可能だが、一度到達した地点の魔法陣にならいつでも転移できるのだ。
仲間の傷や状態異常を癒す以外にも、こうした高度な魔法陣の敷設や、戦闘中の防御結界の要を担うのは、星四つにランクアップしたばかりの白魔法使いである俺の仕事だった。
攻略にどれだけ日数がかかろうと、一定の時間以上は魔障が立ちこめるダンジョン内には留まらないようにした。眠る時は必ず、転移魔法陣でベースキャンプまで戻って休む。
ギミック解除の要であるシーフのキリィは、繊細な作業が要求される場面が特に多く、世話焼きなパットによって食事と睡眠時間の管理が徹底された。
その間に現れる敵の排除は、勇者のレオスと黒魔法使いのパットが一手に担った。黒騎士のヴォルフは、作業をする俺やキリィの護衛役である。
勇者のパーティであるにもかかわらず、そんな安全重視の正攻策がとられたのは、ひとえにオメガの俺がいたせいでもあった。
レオスと関係を持つようになってから、発情を抑えるはずの薬はほとんど効果がなくなってしまった。そのせいで俺は、定期的に激しいヒートに見舞われるようになったのだ。
当然ながら、その間の俺は冒険において何の役にも立たない。そのうえレオスまでもがさも当然のように俺に付き添って、立派な寝台付きの最高級テントのひとつに一緒に篭もる始末である。
約三ヶ月に一度、他の仲間たちがダンジョンに潜って汗を流している間、俺は延々とレオスに抱かれて喘ぎ続けるという、実に爛れた数日間を過ごす羽目になった。
最奥部にある祭壇まで辿り着くと、ようやくそこにダンジョンの主である魔神が現れ、最終戦の火蓋が切って落とされる。
魔神を撃破すれば、莫大な宝とともに次の遺跡の位置がわかる手がかりを得ることが出来るという仕掛けになっていた。
これを各遺跡のダンジョンにおいて行なうこと、三回。
そして最後の遺跡に入り、四体目の魔神を斃すまでに、丸一年ほどの時間を費やしたのだが……、はからずもそれが俺たち五人全員が揃って達成した最後のクエストとなったのだ。




