出会い
慌ただしい4月はあっという間に通り過ぎて、ゴールデンウイークという天国も過ぎてしまい人々が憂鬱に包まれている。僕は大学に向かっている途中にゴールデンウイークに入る前に大学の先生がおっしゃってたことを思い出していた。「ゴールデンウイークが終わるとここにいる人の半数ぐらいは学校に来なくなるよ」
実際はそんなことはなくほとんど同じ人数のままだった。人数がすごく減る瞬間を見てみたかったのですごく残念だ。
1回生のころはほとんどが必修科目で自分で受けたい講義を選択するということができないが唯一自分で選択した講義は租税論だけだ。租税論について興味あるかと言われれば特にないのだが国の租税を集めるシステムについて知ってみたいと思っていたのである。租税論は受講生が多いらしく学校で一番大きな教室を使って講義をしている。こんなに大きくて多くの人がいるのにも関わらず友達は誰一人いないため一人で講義を受けていた。いつも人のよってこなさそうな前方の端っこに座って、先生の話を聞いて熱心にノートをとっていた。量入制出、量出制入、キャピタルゲイン、インカムゲインなどの単語を覚えて理解した気になっているだけかもしれない。しかし、後ろの席でかたまってゲームをしている集団や講義を出席したふりをしている人間にだけには負けたくないと生意気にも思っていた。
何度か講義をすると自由席にも関わらずだんだん席が固定されていき、個人のルーティンの一部になっているのだと認識する。毎週同じ時間に講義を受けて、課題をしバイトに行く。大学生はこの決まったルーティンを作って楽に生きる方法を模索する。僕も5月中旬にもなると自分の決まったルーティンを作って生活をしていた。せっかくルーティンになじんできて大学生活に余裕が生まれてきたのにも関わらず、ある人の登場によって新たなルーティンを作る必要ができた。
いつも通り一人で租税論を受けていた。
背が170センチほどで髪の毛が短い人が僕に声をかけてきた。
「隣の席空いてますか?」と訊いてきた。
僕は空いてますよと答えた。席なんて山ほど空いているのにどうして僕の隣なんだと思いながら周りの席を確認した。まだ、講義の始まる20分前なだけあって数人しか座っていなかった。僕は不思議な人に動揺した。動揺がばれないために平静を装ったが本当に隠せていたか確証はない。そわそわした気持ちでいると声をかけてきた。
「何回生?」と訊いてきた。
僕は1回生ですと答えた。
その人は僕の言葉を聞くと納得したようにうなずいた。
「どうりで見たことないと思ったんだよね。僕は2回生だよ。よろしくね」
明るい口調で人と接することに慣れている雰囲気が溢れていた。
「先輩だったのですね。よろしくお願いします」と礼儀正しく答えた。
「君、名前はなんて言うの?」と先輩は続けて訊いてきた。
「高部正人といいます」僕は自分の本名をしっかりと答えた。
「正人君か、いい名前だね。ところでサークルとか興味ある?」先輩は僕に近づいてきた本当の目的と思われることを訊いてきた。これまでの質問は本題に入るための馴らしと初対面の定型文といったところだろう。
僕はすごく迷った。変なサークルである可能性は捨てられなく、大学生を狙った詐欺やカルト集団である可能性もある。僕の人生を終わりに導いてしまう選択になるかもしれない。いや、よく考えれば僕の人生はつまらないものだ。終わってもいいじゃないか。先輩の話に乗ってみることにした。
「興味ありますね」
「本当に?」先輩は最後の確認をしてきた。
「もちろん」僕は決意の決まったまなざしで先輩に返事をした。
「じゃあ、僕が入ってるサークルに入らない?」
「入る前にサークルについて少し教えていただけませんか?」
「わかった。説明するね。僕たちのサークルの名前は献身循環団体。メンバーは僕を入れて女性3人と男性2人の合計5人で全員2回生で構成されている。僕はちなみにサークルのリーダーをやらしてもらってる。リーダーといってもやってることは他のメンバーと対して変わらないんだけどね。サークルの活動内容はメンバー2人でバディーを組んで街の人からの依頼を解決したり、街をパトロールして困っている人を助けたりすることだよ。活動は基本的に土日が多いかな。たまに暇なら平日にも活動するけどね。僕たちの活動の目的は困っている人たちを無償で見返りを求めずに自分の善意によって助ける。これが循環して人助けが続いていく社会を目指していくことだよ。サークルについての説明はこんな感じかな。他に訊きたいことがあれば答えるよ」
先輩はサークルについて丁寧に説明してくれた。献身循環ときいただけではどのようなものかわからなかったが説明を聞いて何をするのか少しイメージをすることができた。説明を聞く前に抱いていた不安は消し飛び僕はこのサークルに入ることを決意していた。
「説明ありがとうございます。僕、そのサークルに入ります」
先輩は意外だったのか驚いた表情をした。
「え、本当に?」先輩はさっきと同じように最終確認をしてきた。
「もちろん」僕は迷いなく答えた。
「うれしいな。何人に声をかけても断られてばっかりだからさ。ボランティアってやりたがる人そんなにいないんだよね、みんなやっぱり大学生らしい華々しくて他ではできないようなことしたいんだよ。正人君は本当にいいのかい?」
「はい。僕に華々しいことなんて似合わないです。自分も誰かの役にたってみたいです。あ、決して献身循環団体が地味なサークルというわけではないですよ」僕は慌てて訂正した。
「大丈夫わかってるよ。これからよろしくね正人君」先輩はにこやかに笑いながら右手を差し出した。僕は差し出された右手と自分の右手で握手をした。
僕は気になったことを一つ質問した。
「給料とかは全くのゼロですか?」
「そうだね、基本的にはゼロだね。大学生なんだから遊ぶためのお金も少しは欲しいよね」
「はい、少しは」
「NPO団体だったら事業収入から給料が支払われるんだけど僕たちのサークルは収入がないからね。僕たちは直接的にお金をもらうことはないけどお礼としてお菓子や果物を貰ったりすることはあるかな。お金をもらうことよりも価値のあるものがこの活動の中で得られている気がするんだ。お金でしか得られないものがあるようにこの活動にしか得られないものがある。それが正人君にも見つかるといいなと思うよ」
先輩は今までの活動を脳内で振り返って感傷に浸っているような雰囲気で僕に話してくれた。先輩と話をしていると先生が来て講義が始まったので話をやめた。講義が終わった後、僕は先輩とインスタを交換し土曜日に学校に来てほしいこと、教室はまたあとで連絡すると言われて僕らは別れた。




