出会い…
まどかは、目を開けた。
「……うぅ、ん……」
寝ぼけ眼で上体を起こす。見慣れた天井。差し込む朝の光。
――いつも通りの朝だと思った。
スリッパを履き、制服に着替え、鞄に教科書を入れる。
「朝ごはん、食べよう……」
玄関のドアノブに手をかけた――その瞬間。
「……あれ?」
目の前に広がっていたのは、見知らぬ廊下だった。
中世ヨーロッパの洋館のような装飾。
タイタニックのセットを思わせる螺旋階段。
大理石の床が冷たい。
(ここ……どこ?)
階段の下には、大きなテーブル。
白いクロスの上に十脚の椅子。
そして、タキシード姿の金髪の男が料理を並べていた。
給仕なのか、それとも――支配者なのか。
「おっと、ようやくお目覚めか。こちらへどうぞ、まどかさん」
突然、名を呼ばれ、まどかは凍りついた。
(どうして……私の名前を?)
恐る恐る椅子に腰を下ろす。
テーブルには、ハムエッグ、トースト、かぼちゃのスープ、そしてサラダ。
理想的な朝食。なのに、どこか不気味だった。
「食べないの? じゃあ、食べちゃっていい?」
聞き覚えのある声に顔を上げる。
――喜美だ。
彼女は何の躊躇もなく、まどかの皿のハムエッグをフォークで突き刺した。
「ちょ、ちょっと! 何してるのよ!」
「だって、まどかが食べないから」
呑気に笑う喜美。その図太さに、思わず苦笑いする。
その隣には、うつむいた眼鏡の少女がいた。
「……」
声も出せず、小さく肩をすくめている。
(優子……?)
まどかは息を呑む。雄介の幼馴染――優子だ。
どうしてここに?
⸻
やがて、黒いタキシードの男が階段を下りてくる。
その金髪が、照明に反射して輝いた。
「どうだい、朝食は? おいしいか?」
喜美が元気に手を挙げた。
「おいしい! おじさんが作ったの?」
「まあな。俺は恭二という」
金髪の男――恭二は、ニヤリと笑う。
まどかは睨みつけながら言い放った。
「ここはどこ? あなた誰? 私、学校あるんだけど!」
「残念だが、それはできないよ」
恭二の瞳が異様に光る。胸ポケットから、銀の鍵を取り出した。
「外に出るにはこの鍵が必要だ。そして――」
彼の左胸が変形し、鍵穴が現れる。
「ここが出口への鍵穴さ。俺を“ときめかせた者”だけが、ここを開けられる」
パチン――指を鳴らす音。
少女たちの右手に、スマートウォッチのような腕輪が出現した。
「これは、“ときめき指数”を測る装置だ。
俺とお前たちの感情が数値で繋がっている。
一定以上になれば、鍵が出現する。
だが……下がりすぎると――」
恭二が冷たく笑う。
その瞬間、優子の体が透明になりはじめた。
「なっ、何これ!?」
「指数がゼロに近づくと、“物語”から消える。
お前たちは元々、漫画の中のキャラクターだからな。
存在しないものに戻るだけだ」
まどかは息を呑んだ。
(恋愛感情がなければ、存在できない……?)
喜美、優子――漫画の中では笑い合っていた仲間。
けれど今は、互いを出し抜かなければ消える敵。
(そんなの……できない……!)
膝を抱え、まどかはうずくまった。
「ようやくわかったろ。君たちの立場が」
恭二は指で部屋の奥を指した。
「5号室は衣装部屋だ。恋する女には必要だろう。
俺は8号室にいる。……さあ、始めようか。
恋愛という名の、生存ゲームを――」
階段を上がる恭二の背を見つめながら、まどかは気づいた。
――まだ七つの椅子が空いている。
「……あと七人?」
「本編の漫画世界と連動している。
彼女たちも、すぐにここへ来るだろう。哀れな羊たちさ」
その言葉が、静かな朝に不気味に響いた。
こうして、恋愛を“生き残り”で測るサバイバルが始まった。




