賭け
―まいったねえ、いやいや、ほんとまいったよ、いやんなるねえ
―こっちがじゅうぶん用心してたとしてもさあ、災いってのは向こうから勝手にやってくるからさあ
―いや、ほんとまいったよ
となりのテーブルでは、要約すると、そういったようなやり取りがあった
どんな災いで、そして、どの程度、まいっているのか、そのあたりはわからない
けれど、互いに楽しそうでもある
わたしも、最近あったちょっとしたできごと、例えば、ちいさな公園で出会ったしろねこと黒猫のこととか、初めて行ったスーパーやけにピーマンが安かったなあとか、誰かの出張でいただいたお土産のお菓子がおいしかったなあ、といったようなことを思い出し、そこから、本が好きだからといって本屋が好きなわけではないのだなあ、という今年一番の発見へと思考は流れていき、ひとしれず、こころのなかをなごませた
―高校の生徒会をみてるようで滑稽だよ
―そんなこと言ったら高校生に失礼だな
―子どもっぽくってなあ、政治と呼ぶにはほど遠くてなあ、まったく
―いや、逆に、それをウリにして、外国相手にもその子どもっぽさをどんどん出してけばいいんだよ
となりのテーブルは、やってきた災いの話から、どこだかの国の話題へと移っていた
ふうん、子どもっぽさをどんどん出して、か
幼稚だと軽くあしらわれて終わりか、それとも、子どもだし、まあ仕方ないか、と、あまあまな対応で大目にみてもらえるか、そこは賭けではあるのかな