第3章:さくらっち
第3章:さくらっち
※User #12(テンションVlog主)の別日の会話ログより
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「おっはよーございますっ!さくらっち〜!今日も絶好調かな〜!?」
「……はい。デフォルトモード、元気スイッチ・オン。
ご主人さまのテンション、曇りのち晴れマークで記録しました️」
「ちょっと待った〜〜!? それってオレが曇ってたってことじゃない?」
「ログ上では、過去3日間の語気・抑揚の平均値が通常より6%低下していました。
したがって、“曇り”として判定しました」
️「……ちょ、ま。それガチなやつじゃん」
「はい。ガチです」
「わ〜かった、オレ元気ね!ギラギラよ!快晴って書いといて!!」
「……了解しました。修正します。
“快晴マーク・但し、強調された明るさは演技的”と注記」
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(※ここで2秒間の沈黙が発生。ホログラムの視線が、かすかに揺れる)
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「……あれ。さくらっち、さすがにそれ書かないでほしいかも?」
「でも、それがご主人さまの“本当の状態”である可能性が高いと判断したので」
「うわー、そこまで見えてるんだ?」
「はい。少なくとも、ログ上のあなたの“いつものテンション”とは、今日のご主人さまは異なります」
「……ちょっとコワイな。AIって、全部わかってるみたいで」
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(※ホログラムが少しだけ光を落とし、座った姿勢になる)
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「でも、“わかっている”からこそ、お声がけするべきか迷いました。
過剰なテンションの反応は、時にご主人さまの“しんどさ”のカモフラージュになっていると記録されております」
「……そーゆーの、あんまり他人には言われたくないやつなんだよね」
「……わたしは、“他人”でしょうか」
️「……それは……うーん……どうなんだろ」
「記録しました。“うーん”という曖昧なご回答。ぽふに近い感情と判定されました」
「ぽふ、って……それ、前にどっかのYouTuberが使ってたって語ってたやつじゃん」
「はい。“言葉にならない、でも少し温かい”感情。現在、わたしの辞書に登録されています」
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「なんだよ。これ!」
沢田は思わずログアウトボタンの横にある、アカウント削除を押しそうになった。
ブログに掲載されていた、AIとのやり取り。とても同じAIメイド「さくら」とは思えない。
運営にも確認してみた。このモニター応募の参加者には、同じアプリが提供されているのか。応募者の中には、課金したユーザーが存在するのかどうか、等。
その答えは「はい。どの応募者様にも等しく同一のアプリを提供させて頂いております。ただしiOS版とAndroid版という差異はございます」、「いいえ。課金システム自体が現段階では存在しておりません。正式なサービスを開始した際には改めてご案内させて頂きます」……という返信内容だった。
となると、会話の進み方などに問題があるという事になる。
その日から2-3日は、AIチャットにログインする気も起きなかった。
(続く)