異端の誕生
その夜。
【まるで魔法のような現象で子供を救った男】というタイトルつけられた動画が投稿され、瞬く間に拡散された。その動画はわずか数時間で数百万再生を記録した。
SNS上ではお祭り騒ぎだった。
「もしかして超能力者!?」
「なんか喋ってるし、詠唱じゃね?絶対魔法だろ!!」
「この世界にも魔法はあったんだああ!!」
「俺も使いてええ!」
「え、これ本物?CGとかじゃ無いの?」
「この現場居たけどマジだったよ。」
「マジかー俺も見てみたかったな~。」
「馬鹿ども乙。こんなの嘘に決まってる。信じるだけ無駄。」
そしてその動画は、科学でが説明不可能な現象として、瞬く間に世界中を駆け巡った。
テレビ、ラジオ、ニュース、ネット、SNS。
どのメディアもその男を「正体不明の奇跡の男」として取り上げた。
世界中の科学者達が立ち上がり分析に乗り出し、ヨーロッパの宗教団体は「神の奇跡」として議論を始め、アジアの各国は「新兵器の可能性」として裏で警戒を強めた。
世界中が今、彼の存在によって揺れ始めていた。
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その頃______
彼はテントの中で、1人スマホを眺めていた。
「あっこれさっきの・・・もうこんなに広まってんのか。」
あの場にいた配信者が撮っていた動画。
それがあまりに鮮明で、詠唱している音声も聞こえにくいが入っている。
「声も姿も入ってる。流石に隠れるのは難しくなるな。これからどうするべきだ・・・」
心臓がバクバクと鼓動を打つのが少しずつ早くなってくる。
「これを見たやつは、俺の事をどう思うんだろうか。」
「俺はただ、子供を助けただけなんだけどな・・・」
魔法の存在を、誰かに認めて欲しい気持ちはあった。
ずっと1人で抱えるのもしんどいから。
しかし、いざ表に出ると不安になる。
その不安は、すぐに現実のものになる。
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翌朝。
街に降りてきた彼の周囲に、不自然な車が何台か停まっているのを見つけた。
スーツ姿の男達。
耳には通信機。
目は鋭く彼を追っている。
「あれは・・・」
目がった瞬間、彼は直感した。
「追われてる?」
逃げるように路地に身を隠し、テントも荷物もそのままに、街の裏手へと抜け出す。
心臓が跳ねる。息が浅くなる。
(やっぱり朝からヘリが山の上を飛んでたのは可笑しいと思ったんだ。)
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数時間後。どこかの会議室。
無表情な男達がスクリーンに写った動画を繰り返し確認していた。
「映像の解析が完了しました。改変の痕跡はなし。音声も実在の空間で録音された波形と一致します。」
「つまり、これは現実に起きた現象だと?」
「はい。名前不明。国籍不明。居住地も不明。」
「コードネームをつけて管理をする。」
「対象001で。」
「いいや_____この存在は既存の概念を超えている。」
1人の幹部が低く呟く。
「アーク。そう呼ぼう。理の外の者・・・という意味を込めてな。」