4-15 解放への鍵を掴み取れ! (2)
「……とにかく、お前らどこから侵入したかわからんが、無断で城へ立ち入ったこと、許してはおけん!」
二人いる衛兵のうちの一人がそう叫ぶや、それぞれ攻撃態勢を取り、ツナグたちへ向かい突進する。
一瞬怯むツナグだが、すぐに拳に力を入れ直し、衛兵の一人が槍を突き出したところを見事回避し、カウンターを叩き込んだ。
相手は態勢を多少崩しただけで、まだ完全には倒れていない。
「何してますの、ツナグ! どんどん追い討ちをかけるのですわ!」
「わーってるって!」
ツナグはもう一度拳を叩き込もうと一歩踏み出す。しかし一方で、もう一人の衛兵がツナグ目掛けて槍を突こうと動いていた。
「ツナグくん、後ろ!」
ハンスは慌ててそう叫んだ。同時に、ドールはすでに散らばった鉄格子の一部である鉄の棒を片手に動き出していた。
「ツナグの邪魔はさせませんわ!」
大きく棒を振りかぶるドール。見事衛兵の後頭部に直撃し、衛兵は気を失い、その場へ倒れた。
「サンキューだぜ、ドール!」
「お礼はあとですわ! 目の前の敵に集中なさい!」
ツナグはすぐに意識をまだ残る衛兵へと移した。衛兵は今まさに槍を振るわんとしているところであった。
ツナグは狙いを定め、拳を握るや全身の体重を乗せて前へと突き出す。
「――〈革命拳〉!」
ツナグの拳は衛兵の腹部に直撃。衛兵は口から胃液を吐き硬直し、そのあと崩れ落ちるように地面へと倒れた。
「……うしっ。とりあえずは万事休す、だな」
ツナグは衛兵二人が気絶したことを確認しつつ、そう話した――のだが。
「…… 〈革命拳〉……って、もしかしてコイツ……」
――ポツリと、階段付近から小さな声が聞こえてきた。
見れば、様子を確認しに来たのであろうか、さらに別の衛兵がツナグたちの所業を見てしまっていたのだ。
目にも止まらぬ早さで階段を駆け上がっていく衛兵。
ツナグが待てと声をかける間もなく、衛兵はこの場から去ってしまった。
「……万事休す、とは言い切れないようですわね」
その様子を見ていたドールが、そうひと言。
「まあいいですわ。こうして鍵は手に入りましたから」
ドールは気絶している衛兵の腰元から鍵を取り、ハンスを拘束している鉄の手錠を解錠した。
ようやく自由となったハンスは腕を大きく広げ、ドールはハンスの胸へと飛び込み、二人深く抱きあった。
ツナグはそんな二人を微笑ましく思いつつも、気を引き締めてこう告げる。
「さあ、動けるようになったってんなら、すぐ行こう。この城から早く逃げ出さねーとな」
ツナグはそう話しつつも、あることに気がついた。
「あー……そっか。ハンスは人魚……なんだもんな。その状態じゃ歩けないだろうし……よし、ここは俺がおぶっていくぜ。女子一人くらい、人魚だろうと問題ねぇ」
「すまないな、よろしく頼む」
ハンスはツナグにおぶられながら、ふと思ったのかこんなことを話す。
「しかし思ったのだが、どうせ衛兵から鍵を奪い取るのなら、わざわざツナグくんが鉄格子を破るまでもなかったかもしれんな」
「薄々感じていたことを言ってくれるな」
ツナグはハンスを背負う。腕に伝わる尾びれの鱗の感触に、改めて人魚の存在というのを感じさせられた。
――そして何より、ツナグが真っ先に思ったことがもうひとつ。
「…………」
「ツナグくん、どうした? やはり僕は重いかな?」
腕を絡め、よりツナグの背に密着するハンス。同時に押し付けられる――胸元。
「……いや? なんにも?」
ツナグは口ではそう言いつつも、明らかに緊張していた。
ハンスはボーイッシュな性格とは裏腹に、胸元を隠す貝の服が溢れんばかりの胸の大きさを持っていたのだ。
「……ツナグ。ハンスに対して変な感情を持とうものなら、八つ裂きにしてやりますから、覚えておくといいですわ」
ドールはツナグを鋭く睨みながら釘を刺した。
ツナグは苛立ちを隠せていないドールに萎縮しつつ、ハッキリと頷いて答えるのであった。