4-14 解放への鍵を掴み取れ! (1)
「……はぁ?」
ドールは片方の眉を吊り上げ、ツナグを蔑みを込めた眼で見つめた。
「……あなた、何を言っていますの?」
「……すみません、やってみます」
あまりのドールの圧に気圧され、ツナグは息を深く吸い込み、右手に拳を作る。
「大丈夫。俺ならできる、俺ならできる……」
ツナグは繰り返しそう呟き、鉄格子に向かって拳を撃ち込む。
「――〈革命拳〉!」
カーン、と鉄の振動する音が響く。
しかし、鉄は破られることなく、むしろ元の形状を保ったままだった。
「――ッた……ッ!」
ツナグはその場に右手を抑えて蹲る。右手の第二関節は、血が滲んでいた。
「ちょっと! それがあなたの本気ですの!?」
ドールはツナグの肩を揺らした。ツナグは「ごめんなさいごめんなさい……」と言うばかりだった。
「転生者ってもっと……こう、強い力を持っているものじゃなくって!? 少なくともこんなヘナチョコパンチ、とても転生者の力と思えませんわ!」
「俺自身もこの力を使いこなせてないというか……出るときは出るんだよ、なんかこう……バーンって!」
「なら、その力を今出しなさい!!」
「それはやまやまなんだけど……!」
そんな言い争う二人を見て、クスリと笑うハンス。そんなハンスの笑い声に気づいた二人は、ハンスを見つめた。
「まあまあドール。そのへんにしてあげよう。レディの調子というのもあるからさ」
「「……レディ?」」と、ツナグとドールは声を揃えて呟く。そして、二人は改めてツナグの今の格好について気づいた。
そう、ツナグは今、キズナの作戦によってセーラー服姿なのだ。おまけに、短い髪を無理矢理結んで作った、かわいらしい小さなサイドテールまである。
「……あー……あの、こんな格好ですけど、俺一応、男で……」
「なるほど、そういう趣味か」
「……いや、趣味でもなく……ううん……」
ツナグはすっかり調子が狂っていた。
ハンスをここから助け出さねばならないという非常事態であるはずなのに、なんだか平和的な会話が続いてしまっているからだ。
「……まあ、そんなことより! 俺……もっかいやってみるよ。ヒトリさんに任されてここまで来たんだ。もう一回撃ち込めば、もしかしたら……!」
ツナグが再び拳を撃ちこもうとしたときだった。
「――何をしている!?」
現れたのは、二人の城の衛兵と思われる人物だった。
「奇妙な音がしたかと思えば、何者だ、貴様ら!?」
「マズイですわ! 衛兵に嗅ぎつけられましたわ!」
「ああぁ〜……クソッ!」
ツナグは焦りを滲ませ、もう一度鉄格子に向かって拳を振り被った。
次の瞬間、鉄格子は弾け飛び、ハンスへの道は 開かれた。
「……ハンス!」
すぐさま駆け寄るドール。一方で、衛兵はこの事態を見て血相を変え、威嚇の如く槍を突き出してくる。
「ドール! 拘束は解けそうか!?」
「そんなの無理に決まってますわ! ……あ、でも! そこの者たちは鍵を持っているはずですわ!」
ドールは衛兵に向かって指を差した。
衛兵は「なっ……なにゆえドール様の名を……!?」と、戸惑っているようだ。どうやら目の前にいる学ランの人物がドールだとは、まだ気づいていないらしい。
ドールはそんな衛兵なぞ無視をし、高らかにこう命ずる。
「――ツナグ! その者たちから鍵を奪いなさい! ワタクシも協力して差し上げますわ!」
ツナグは怖気づく自分を抑え込むように、拳を手のひらに突き立てた。
「……うしっ! 男を見せろ、俺!」
衛兵たちはそんなツナグを見て目を白黒させ、「男……?」と首を捻っていた。