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転生の革命家  作者: みおゆ
第四章・自由を願う姫君
93/111

4-13 この期に及んで、及び腰

「ハンス!」


 ドールはすぐさま鉄格子に飛びつき、その隙間に顔をのめり込ませる勢いで、ハンスの名を叫んだ。


「ハンス! ああ、ハンス、怪我はない!?」


 牢屋の中の女性――その美しき人魚ハンスは、一切の辛さも見せず、「大丈夫さ」と朗らかに答えた。


「まあ……これさえなければもっといいんだけど」


 ハンスはそう言って、両腕を上げた。じゃらり……と鎖が擦れる音が響く。


 ハンスは鉄の手錠を掛けられ、身動きが取れないように拘束されていた。


「参っちゃうよね。腕を自由に動かせやしないし、ずっとこんなところにいるせいで、そろそろ僕は干からびてしまいそうだよ」


 そう文句を言いつつも、明るい表情を崩さないハンス。

 この場においても、彼女の意志は挫けたことは無いのだろう。


「それよりもドール。今日はいつもの雰囲気が違うね。初めて見る衣装だ、それもなかなか似合ってて素敵だよ」

「まあ、ありがとうハンス……!」


 頬に両手を当て、ウットリとする学ラン姿のドール。


「もっとお話したいところだけれど……まずはこの状況について聞かないとね。さて、君たちはなんでこんなところに?」


 ツナグとドールは一度顔を見合せてから、ドールは口を開いた。


「あなたを助けに来たのよ、ハンス」

「助けに?」

「ええ。今すぐここから逃げましょう……ワタクシたちの家がある――ココノッチュラ小国へ」

「……ドール」


 ハンスは目を少し見開いてから、何か諦めたようにその目を閉じた。


「……無理だ。僕は帰るわけにはいかない」

「ハンス、どうして――」

「僕が身を差し出すから、ほかのみんなには手を出さないでくれと約束したんだ。ここで僕が逃げ出してしまえば、またみんなが危機に晒される」

「……約束、ですか」


 ドールは一度固く拳を握り締めてから、こう話す。


「果たして、そんな約束がきちんと守られるとも思いませんわ。だって、そもそも――お父様……いえ、パペッティア王は、条約を破って国を襲撃したのよ。きっとまた、みなさまに危害を加えるに決まっていますわ」


「……」


 ドールに対し目を伏せ、黙り込んでしまうハンス。


 隣で話を聞いていたツナグは、「あのさ、ずっと気になっていたんだが……」と、口を挟む。


「……『条約』っていうのは、なんなんだ? なんか人魚が食用肉に成り下がった……とか、あの人魚の人は言っていたけど……」


 ドールは怒りを滲ませ、ツナグを睨む。


「あなた、そんなこともご存知ありませんの? その歴史は、決して忘れてはならないものですのに。……ワタクシのことを知らなかった無知な方とは思いましたが、それほどとは……」


 ドールの口振りに、それはとても重要な歴史だと伝わってきた。


「悪い……俺さ、まだ言ってもここへ来たばかりの転生者だから、この世界のことよくわからなくて」


 ツナグの言葉に、今度はドールは目を丸くした。


「転生者……ヒトリになってから以来ですわね。転生者が現れるのなんて。……いえ、申し訳ありませんでしたわね、一方的に責めて」


 ドールは頭を下げると、再び顔を上げこう話す。


「では、それについては後ほどお話いたしますわ。今は……ハンスをここからなんとかして出さないと」


 ドールはツナグを見て、こう命令する。


「ドール・リリィ・ホワイトが命じます。今すぐこの鉄格子を破壊し、ハンスを解放して差し上げなさい――あなたの持つその、〈革命拳(カクメイケン)〉という力で!」


 真っ直ぐと人差し指をツナグへ突き立てたドール。しかし、一方でツナグは冷や汗を浮かばせるばかりだった。


 そして、次に吐き出されるのは情けないひと言。


「ぱ……パンチで鉄を破るなんて、さすがに厳しくないですかね……?」

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