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転生の革命家  作者: みおゆ
第四章・自由を願う姫君
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4-9 海の中での命運はキズナ次第……?

「そういえば、ドールは行きたい場所があるって話してたよな。えっと、好きな人がいるところっていう……」


 いよいよ任務開始を迎え、まずはツナグからそう切り出した。


「ええ。好き、という言葉だけでは気持ち足らずですわ。もう……それはとても深く、愛しているお方がいるのです」

「なら、わたしたちはその場所までドールを連れてけばいい、よねっ? そうと決まれば、早速レッツゴー、だよ!」


 ドールは胸の前で手を組みながら、うっとりした表情で答えると、続いてキズナは元気良く腕を上げ、声高らかに宣言した。


 ドールはその宣言を聞き、「ありがとうございます。では、ぜひそこへと導いていただきたいのです」と前置きし、その場所を告げる。


「――我らの(みやこ)と云われる、ココノッチュラ小国へ」



 ――ドールとのやり取りを経て、ココノッチュラ小国を目指すツナグたち。


 変装――いや、どちらかというと仮装に近い格好をしているツナグたちだが、異世界の人々はそんなツナグたちを気に留める様子はなかった。


 ツナグのいた世界だったら、真っ先に目立つようなものだが……このあたりの常識は、どうやら違うらしい。


「ココノッチュラ小国って、どんなところなんだ?」


 道中、ツナグはそんなことを聞くと、ドールが口を開く。


「それは青く美しい国ですわ。あそこだけは、本当に別世界ですの。……まあ、海の中にあるのだから、そうと言えばそうなんですけれども」


「へー、そうなのか」とツナグは相槌を入れつつも、ある言葉に引っ掛かりを覚えた。


「……え、待て。()()()?」


 ドールはツナグの反応を一瞥し、「あら、あなたなんにも知りませんのね」と小馬鹿にし、続ける。


「―― ココノッチュラ小国は、深い深い海の底で栄える、言ってみれば人魚の国ですわ」


『人魚の国』と聞いて、「人魚だって!?」と声を上げるツナグ。


「本当に人魚がいるのか……!? だって、あんなのおとぎ話だろ……?」


 驚くツナグに、パエルは、


「アイツら、海の中から顔見せねーしな。アタイも絵本で知ってるだけで、実物なんて見たことねーし、おとぎ話って思うよなー」


 と、ツナグの論点とは少しズレたところから、同意していた。


「こんなかわいい半獣人の子もいるんだから、人魚もいるだろうさぁ。ツナグくんは何を今更驚いてんだぃ〜」


 ヒトリはパエルの頭を撫でながらそう言って、あっはっは〜と、間の抜けた声で笑った。


 言われてみればそうか、と内心納得するツナグ。しかし今度は、少しずつ不安が膨らんでいった。


「……え、でもよ。その国って海の中……なんだよな。そこに行こうって言ってもさ、俺らって肺呼吸なわけじゃん?」


 ドールは澄ました顔で、「ええ、そうね」と頷く。


「海の中の呼吸法と言ったらよ、エラ呼吸なわけじゃんか」

「まあそれと、呼吸をしない、という方法もありますわね」

「……そんな方法はない」


 ツナグはひとつため息をついてから、話を再開する。


「俺たちは一体、どうやって海の中にある国へ行けばいいんだ?」


「そんなことで情けない顔をしていたなんて」と、ドールは頭を抱えた。それを見ていたキズナは、ツナグをフォローするかのように、元気よくこう話す。


「ツナグ、そこは安心して、だよ! この世界にはさ、無限大の魔法があるんだから!」


 キズナがそう言ったタイミングで、広い浜辺に辿り着いたツナグたち。


 キズナが誰よりも先にその浜辺に降り立つと、クルリと振り返り高らかに両手を上げた。


「――〈魔空箱(カラッポ・マジカル)〉!」


 次に、キズナは魔法の詠唱をしたが、ツナグたちに特に変化はない。


 首を傾げるツナグ。


 キズナはツナグに向けて、頭をトントンと叩いた――いや、正確に言えば、頭に触れる手前で指をトントンと叩いていた。まるでそこに、見えない薄い膜があるかのようだ。


 ツナグもキズナの真似をしてみると――ツナグの指先はツナグ自身に触れることなく、その手前で止まった。そこには確かに、透明な何かがあったのだ。


 ツナグは全身を触り確かめれば、それは顔周りだけに存在しているようだ。


 ツナグの動きを見ていたキズナはクスリと笑って、説明する。


「わたしの魔法で、みんなの顔に透明なマスクを付けたの! マスクの内側に常に一定の酸素が生み出されるようになってるから、これで海の中も呼吸はへっちゃらってワケ、だよ! 例えるなら、酸素ボンベとダイビングマスクが合体した……みたいな感じ、かな?」


 ツナグは新たな魔法を体験し、さきほどまでの不安はすっかり消え去っていた。


「魔法ってのは、本当に便利だな」

「そうね。それに、一度でみんなにこうして魔法をかけちゃうなんて、キズナさんはすごいです」


 ツナグに続いて、アムエも感心の言葉を洩らしていた。


「それじゃ、海の中へ行こうか、だよ。ココノッチュラ小国の入口は、ちょうどここを降りてったらあるからね」


 キズナは言って、一番に海の中へと足を踏み入れたが、「あっ、待てキズナ。入る前に一個だけ確認させてくれ」とツナグは引き止めた。


「あのさ……念のため聞いておきたいんだが、この魔法ってどれくらいの間持つんだ? キズナの意志でオフにするまで、半永久的に続く感じ……みたいな認識でいいのか?」


 もし海中で魔法が切れてしまっては、惨事になってしまう――そう考えてのツナグの発言だった。


 キズナは「えーっとね」と考える素振りを見せてから、笑顔を浮かべ答える。


「それは……わたしの魔力次第、かなっ?」

「……ん?」

「持続時間は正確にはよくわかんないけど、わたしの魔力が尽きない限りは大丈夫、だよ! そんな魔力を消耗する魔法じゃないし、まあドールを送り届けるくらいまでは持つ……はず!」


 ハッキリとしない回答に、みるみる顔が青ざめていくツナグ。


「えっとそれって……任務が終わるまで確実にこの魔法が持続する保証はない……ってこと?」

「まあそうなる……かな? でも心配しないで、だよ! わたし、がんばるから!」


 キズナは「お先!」と言って、海中へ潜った。


 続けて、アムエとパエル、そしてヒトリも躊躇いなく海へと潜り、シャルは「足元にご注意ください」と、ドールの手を取り、彼女を海中へとエスコートしていった。


「……お、俺……溺死だけは勘弁だぜ……」


 次々とみなが先へ進む中、ツナグだけは少しずつ後退し、帰ろうとしていた――だが、そんなツナグの肩を素早く掴み、止めたのはウィルだ。


「また弱気ゆえのめんどうなことを言ってないで、さっさと行くぞ、ツナグ」


 ウィルはガッチリとツナグの肩を掴んで離さず、抵抗するツナグをものとのせず引きずっていく。


「いやだぁぁぁ! 海で溺れたくないぃぃぃい!」とツナグは泣き叫ぶが、ウィルは容赦なく……二人はともに、海の中へと身を沈めていくのだった。

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