4-7 キズナの作戦、だよ! (1)
「ヒトリさん! 今すぐこのお姫様をお城へ返しましょう!」
改めてドールの自己紹介を聞いたツナグの第一声はそれだった。
ヒトリは呆れながら、「いやいや、そもそもツナグくんが彼女の依頼を引き受けて来たんじゃあないか」と言ったが、ツナグは「お姫様なんて知りませんでしたもん! もしこんなのバレたら、俺ら打首モンッスよ!」と必死に訴えるばかりだ。
「っていうかツナグさぁ、いくらドールのこと知らなくても、許嫁の話とか聞いた時点で、なんとなく気づかなかったの?」
キズナに指摘されたツナグは、「……あ」とそこでようやく合点がいった。なかなかツナグも鈍い男である。
「ツナグって、情けない奴なのね。手配書の写真はあんなに反骨精神に満ちた男らしい顔でしたのに」
ため息をつくドールに、「ツナグ様、普段はあんな感じで腑抜けですから」とシャルはコメントした。
そのとき、遠くが何やら騒がしいことに一同は気づいた。ドールはいち早く何かを察したのか、急いでキッチンのカウンター裏へと身を潜めた。
ツナグとキズナが代表して窓の外を見れば、兵士の軍団が「姫様ー!」、「ドール王女様ー!」と口々に叫び、すぐそこまでドールを探しに来ていた。
兵士たちは家の前を通り過ぎていき、やがて見えなくなったところで、ツナグは青い顔をして言う。
「や……ヤバい……アレ、どう見てもお城の人たちがドールを探してたよな……? もしこんなのが今ここで見つかったら、俺らは……」
「誘拐の罪とかなんかで、処刑されちゃうかも、だよ!」
頭を抱えるツナグに、自分の発言とは裏腹に大して心配もせず笑顔のキズナ。二人の温度差をカウンター越しに見ていたドールは、苦笑いを浮かべていた。
「……にしても、まさかこんなに早く追っ手がくるとは思いませんでしたわ。一応部屋には、ワタクシがいるように細工はしてきたつもりなのだけれども」
「細工って……どんなのだよ」とツナグは聞くと、ドールは自慢げに答える。
「お気に入りのテディベアに、ワタクシのパジャマを着させてベッドに寝かせて来ましたの!」
「んなのすぐにバレるに決まってるじゃねぇか!」とツナグは渾身のツッコミを入れ、ガックリと肩を落とした。
「まあいつものようにネガティブなツナグさんは置いておきまして、早くドールさんを連れて移動したほうがいいですね」
ツナグの対応に慣れ切ったアムエはそう話し、ヒトリはその言葉に頷いた。
「ああ、早速わたしの〈瞬間転移魔法〉を使って、どこか遠くへ行こうかぁ……と言いたいところだけれど、今回はそうはいかなくてさぁ」
ヒトリは困ったような顔を浮かべつつも、その口調は実に平坦なものでこう話す。
「わたしの〈瞬間転移魔法〉……同時に運べるのが6人までなんだよねぇ……。わたし含めて、定員7人といったところでさぁ」
そうなると、この場にいる全員を一度では運び切れない。今ここにいるのは、ドールも入れて全員で8人なのだから。
それを聞いたツナグは、「でも、ヒトリさん」とこう意見する。
「それだったら、二回に分けて移動すればいいんスよ。まずドールを入れた6人をヒトリさんが運んでから、ヒトリさんはまたここへ戻ってきて、残りの人を運ぶって流れで」
ヒトリはやれやれを深くため息をつきながら首を横に振った。
「ツナグくぅん……それじゃあ、わたしが重労働じゃないかぁ。結構簡単そうに移動してみせてきたけれどさぁ、これって結構体力使うんだよねぇ……なかなかに魔力も消耗するんだよねぇ……それに、いたいけな女子に何度もご足労願うなんて、ツナグくんは心が痛まないのかいぃ?」
「……いや、ヒトリさん、もう女子って歳でも……」とツナグは言いかけたが、鋭くヒトリから睨まれたため言葉を引っ込めた。
「〈瞬間転移魔法〉できねーならよ、一体どうするってんだよ? ただ見つからねーように移動するって言っても、追っ手がそこまで来てる中、この人数だとなかなか目立つぜ? アタイらってバレたら、すぐに捕まっちまう」
パエルは問題を提示したが、それに即座に答えを出したのはキズナだった。
「それなら、わたしたちだってわからないようにすればいい、だよ!」
キズナは「ちょっと待ってて!」と言い残し、部屋を出て行った。数分も経たないうちに戻ってきたかと思えば、その両脇にはたくさんの衣服が。
キズナは両手を広げ、衣服をその場へ投げ広げると同時に、アクセサリーやらも飛び出していた。
床一面の衣装を見せびらかしながら、キズナは言う。
「――つまり、わたしたちってわからないように、変装して移動する、だよ!」
キズナはナイスアイデアとばかりに、とびきり明るい笑顔を見せたのだった。