4-4 ツナグを一人で行かせた理由
ツナグがギルドでドールと出会った一方で、アイリス家では、キズナはソファの上で寝転がりながら、こんなことを尋ねていた。
「ねぇ、お姉ちゃん。なんでツナグを一人でギルドに行かせたの?」
食卓のテーブルについて新聞を読んでいたウィルも一度新聞を閉じると、「僕も気になっていた。なぜわざわざ一人で行かせたのか……と」と、キズナに同調した。
コーヒーを嗜んでいたヒトリは、カップをテーブルの上に置きながら、「ん〜? ま、大した意味はないんだけどさぁ」と口を開くと、こう続ける。
「ツナグくんなら、何か事件を持って帰ってくれると思ったんだよ」
「……事件?」と眉間に皺を寄せたウィル。
「ああ。ツナグくんはさぁ、転生者で……それもただの転生者じゃなくって、とびきりの力を秘めた転生者で……カリスマ性がある男だろ?」
キズナは腕を組みつつ、「ツナグに……カリスマ性……?」と首を傾げていた。
「まあ、普段のツナグくんを見ていても確かにピンとこないだろうけどさぁ。君たちも気づいているだろう? ツナグくんの言葉には、時々言い知れない力が発揮されることがあるってさぁ」
その話を近くで聞いていたパエルは、「アタイはよくわかるぜ!」と輪に入ってきた。
「アタイ、兄ちゃんから逃げてたときさ……『待ってくれ!』って兄ちゃんに言われた瞬間、身体がピタって止まったことあったんだよ。アタイ、普通なら絶対そんな待ってくれなんて言葉聞かねーのに。……あんときは、冗談抜きで動けなかったぜ」
パエルは真剣な表情で、言う。
「――三大卿相手ならまだしも、ただの兄ちゃんに、だ。……ま、ただの兄ちゃんではなかったみたいだけどな、なんせ転生者だし」
パエルは頭の後ろで手を組みながら、ニシシと笑った。
「…… 三大卿……いえ、それ以上の力が、ツナグさんにはあるのですか?」
アムエも会話の輪に入り、後ろからシャルも見守っていた。
「……わたしはまだ、そんなことまで話していないよ」
ヒトリはそう制し、「……ま。でも、将来はどうなるかわからないけれどねぇ」と言って、背伸びをしてみせた。
「話は少し脱線したけれどさ、ツナグくんはそういうわけで、特別な力を秘めてる。そのせい……とはまだ言いきれないけれど、ツナグくんが関わるようになってから、よくあの末裔どもの顔を見るようにもなった気がしないかい?」
『末裔』――その言葉を指すのはただひとつ。
「マーザーデイティの末裔……ですか。確かにボク自身、ツナグ様と出会って初めて、マーザーデイティの末裔と対面しました」
シャルはラバーとの一件を思い出しているのか、その口調は少し悲しげだ。
キズナはうんうんと頷きながら、
「それ、あるかも、だよ。ツナグが来てからだよね、末裔と立て続けに会ってるのって」
と、言った。
「……そう。ツナグくんは、誰かに影響を与える力があるのと同時に、誰かを引き寄せる力もある……そう睨んでいるのさぁ。……ま、それが末裔っていう、面倒事なのが欠点だが……まあ、革命を起こすのなら、大元を立ち向かえてこそ、とも言えるけれどねぇ」
話をまとめるかのように、ウィルはこう引き継ぐ。
「……つまり。今回ツナグもギルドへ一人で行かせたのは、その誰かを引き寄せるランダム性に賭けた……と?」
ヒトリは「そのとおり」と指を鳴らした。
「きっと面倒事を引き連れて帰ってくるかもしれないが、ちゃんと報酬がいいのを選べ、とは伝えているし、そのへんはツナグくんを信頼するとして。ツナグくんがギルドで選んだ案件は、とびきり革命的なものだろうと、わたしは期待しているのさぁ」
「アハハ! なんかお姉ちゃんらしい、だよ!」
キズナは笑って、ソファから身体を起こした。
「んなこと言ってるけど、兄ちゃんの奴、ギルドでちゃんと案件引き受けてこれるのか?」
パエルはやや信用ならないといった様子で苦言を呈するが、「僕とツナグは以前、キズナにギルドについて教えてもらったことがある。いくらツナグがバカだとはいえ、それくらいできるだろう」とウィルは答えた。
「今はとにかく、ツナグさんを待つだけですね。……そうだ、パエルちゃん。待っている間、わたくしと文字のお勉強でもしていましょうか」
アムエに提案されたパエルは、「やるー!」とやる気満々だ。二人は勉強の準備に入る中、それを見ていたシャルはポツリと呟く。
「……そういえばツナグ様は、どこまでこの世界の文字を読めるようになったのでしょうか? そもそも文字が読めないと、案件の内容も理解できませんよね……」
それを聞いたヒトリ、キズナ、ウィルは互いに顔を見合わせた。
「……」
「……」
「……」
シャルは三人を見て、嘆息を洩らす。
「……ツナグ様、どうかギルドで上手くやれてるといいですが……」