4-2 我が家の大ピンチ
「――大ピンチ」
ニューエゥラ軍一同が朝食を囲む中、そう切り出したのはヒトリだった。
「大ピンチって、どうしたンスか?」
何やら不穏な空気を感じ取ったツナグはそう聞くと、ヒトリはコーヒーをひと口飲んでから、こう告げる。
「大ピンチなんだ――『家計』が」
――家計。
説明されるまでもなく、それは、ニューエゥラ軍の生活費用が圧迫しているのだとわかった。
「まあ自分でこう言うのもなんだけれどねぇ……ほら、わたしってこの世界じゃあ、結構高給取りなんだよぉ。なにせ、三大卿のひとりであるヒトリであり、お国からいろいろお恵みをいただける立場だからねぇ」
「ま、その分、国から言われたお仕事はしなくちゃダメ、なんだよねっ!」
キズナに補足され、頷くヒトリ。
「そうなんだよねぇ。まあ高給取りなわけだから、今までそんな不自由なく呑気に、わたしたちは暮らしてこれたんだけれどさぁ。まあ、ちょっと……ある争論が起きてしまってねぇ」
「争論とは……何事でしょうか」と不安な色を示すアムエ。
「ほら、わたしは……いや、わたしたちは、あの一件以来、指名手配犯なわけだろぅ?」
あの一件――ツナグが初めてマーザーデイティの末裔のひとり、チトモクを一発殴った件だ。あの暴行をきっかけに、ツナグたちは晴れて国際指名手配犯になってしまった。
「――指名手配犯に給付をし続けられない。でも国の仕事はしてほしい……国は言った。わたしは、金をくれないなら転生の間がどうなろうと知ったこちゃないねぇと返して、まあ揉めに揉めたんだ」
ウィルは紅茶を嗜みながら、「ふむ。国の言い分もわかるが、ヒトリの言うことももちろん、だな」と相槌を打った。
「そんな言い争いの末、辿り着いた結論が――わたしに対する減給だった」
パエルは席を立ち、「げっ、げんきゅーって……! それって、きゅーりょー減らされるってヤツだよな!?」と、ワナワナと震えている。
「折衷案、だとさ。こっちからしたら、全然折衷案だとも思わないんだけどねぇ。本当、今わたしがちょっと槍を振るったら、目の前のコイツらなんて一瞬でどうにかできてしまうんだけれどさぁ。まあわたしは大人だから、石壁に穴を空けるだけで済ましてあげたのさぁ」
「壁に穴を空けるのは、あまり大人の対応とは言えませんが……」とシャルは無表情ながらも、困り気味にそう言った。
「まあそんなわけで、そんなわけなんだ。こうして我が家の人数も増えた今、入るお金より出費するお金のほうが多くなってきている状況にあるわけさぁ。つまりわたしが言いたいのはねぇ、そろそろ貯金も尽きてしまうし、生活するお金が足りなくなってきた、というわけなのさぁ」
ヒトリはそう話しつつも、まるでピンチとも思っていないような表情で笑う。
「だからね、そろそろギルドでひと儲けする頃合いだと思うのさ。とびきりいい報酬があれば、とにかくそれを選んで実行さぁ。そうしたら、しばらくその報酬で、食いつなぐことができるしねぇ」
ヒトリは言って、ツナグを真っ直ぐに見つめた。
「――だからさ。頼んだよ、ツナグくん」
ツナグは目を丸くし、自分を指差した。
「……え、俺?」
ヒトリはにっこりと口角を上げる。
それはもう「やれ」という、無言の圧力を掛けているとしか思えない笑みだ。
こうなったヒトリに対して、何も言ってもムダだ。
ツナグはしかたなく、ギルドへ案件を探しに向かうこととなったのだった。