3-22 彼女の意志表明
「……やってくれるよなぁ、本当に」
モリヒトは気絶したチトモクを肩に担ぎながらそう言った。
それから、離れた位置から見守っていたヒトリを一瞥し、視線を落とした。
「革命家だかなんだか知らんが、こんなことをして平気でいられるのも、今のうちだ」
モリヒトをため息を挟んでから続ける。
「――アマソラ様の目に余れば、いよいよお前らも生きていられなくなる。それなりに覚悟しておくんだな」
モリヒトは最後にそう言い残して、その場を去った。
シビコはモリヒトの背を見送ってから、ずっと蚊帳の外で待機させられていたメローサたちを見やった。
「さて、じゃあウチもコイツらシバキにいくわ。今日はホンマ助かったわ、またな」
シビコはメローサたちを立たせ、そのまま引き連れて去っていく。
あまりにもあっさりした別れに、ツナグは拍子抜けした。キズナも肩透かしを食らったように、「なんだかドライって感じ、だよ」と言ってふと視線をずらすと、ヒトリの姿に気づいたのか顔を明るくさせ、「お姉ちゃん!」と駆け寄った。
再開早々ヒトリに抱きつくキズナ。ヒトリは「ただいま」とキズナの頭を撫で、ツナグたちにも視線を送った。
「みんなちゃんと任務は果たせたようだねぇ。隊長として誇らしいよ」
「えへっ、わたしね、副隊長として頑張ったんだよ!」
「そうかい、そうかい〜」と、ヒトリは微笑ましくしてから、少し離れた位置に立つパエルを見やった。
ヒトリに続いて、ほかのメンバーもパエルに注目する。
「まあわたしは詳しく知らないんだが……君がここに残っているということは、ニューエゥラ軍に興味があるということかな?」
ヒトリは聞くと、パエルは首を横に振ってから答える。
「アタイはヤクの運び屋をしてた。その罪の罰として、シビコさんからニューエゥラ軍に入るよう言われた」
パエルは「……でもよ」と、続ける。
「今はアタイ自ら、アンタらについていきたいと思ってる。革命とかは正直わかんねー……でも、末裔をぶっ倒したい気持ちはアタイも同じだ。どうしようもならねーアタイみたいな奴がほかにもいるなら、アンタらがアタイにしてくれたみたいに、アタイも全力を尽くしたい」
パエルはハンマーを背に掛け直しながら、改めて胸を張った。
「アタイは盗みと足の速さしか取り柄がねー小娘だ。アタイには頼る先も、もうねー。どうか前科持ちのアタイの面倒を見てくれねーか。……お願い、します」
パエルは深く頭を下げた。
ヒトリはゆっくりパエルに近づいて、その頭に優しく手を置いた。パエルは恐る恐る顔を上げ、ヒトリからの返答を待つ。
「もちろん、ともに革命起こそうじゃないか」
にこやかにそう答えたヒトリ。ほかのみなも、ヒトリと同様に新たな仲間の入隊を笑顔で迎えていた。
パエルは一人一人に視線を向けてから、いよいよその入隊の意を口にする。
「アタイはパエル・ラッタ・ホンムリ。子供だからって、容赦は無用だ」
ヒトリは右手を差し出し、パエルはその手を握り返した。
――こうして、ニューエゥラ軍には新たな仲間がまた加わり、より一層賑やかになった。次なる革命は何が起こるのか、それはまだ誰にもわからない。
新たな仲間を迎え入れたところで、ツナグはふとあることを思い出したかのように、パエルにこう聞く。
「そういやパエル、俺の財布返してくれよ。なんだかんだ返してもらってなかったからさ」
「ん? あれならもう使い込んじまってねーぞ」
「え!?」
「ウカウカしてる兄ちゃんがいけないんだぜ」
ガックリと肩を落とすツナグ。隣にいたキズナは苦笑いを浮かべていた。
「さーて。じゃあわたしたちも帰るかねぇ。ほら、〈瞬間転移魔法〉するから集まって〜」
ヒトリの集合がかかり、キズナ、ウィル、アムエ、シャル……と次々とヒトリの身体に抱きつくように集まっていく。ツナグもパエルを連れて、ともにヒトリの背にくっついた。
「……兄ちゃん」
パエルはツナグを見上げ、子供らしい純真な笑顔を見せた。
「アタイのために、本当にありがとう」
ツナグは、ただ優しく笑い返した。
「さて。全員集まったし、おうちに帰るよ、皆の衆」
ヒトリの足元に、全員を包むような巨大な魔法陣が浮かび上がる。「〈瞬間転移魔法〉」と、ヒトリが唱えた刹那、一同は瞬時にして姿を消した。
遠くから見れば、世界はまだ何一つと変わっていない。
――だが確実に、ニューエゥラ軍はこの地に足跡を刻んでいる。