3-19 アンタの償いは
「ひぃふぅみぃ……うん! 悪い人たちは全員捕まえた! だよ!」
すっかり崩壊してしまったギルドを背景に、アムエの〈母の御裁縫〉によって拘束されたギャングたちを見下ろしながら、キズナはそう言った。
「ほかの人の避難もバッチリ完了したし、うん! ニューエゥラ軍、バッチリ任務完了、だよ!」
キズナはニューエゥラ軍のみなにVサインをして見せたが、ウィルにこう言われてしまう。
「いや、まだ安堵するのは早計だ。僕らは一人、ギャングのリーダー格であるメローサを取り逃しているのだから」
キズナはハッとして、「そうだった、だよ……早く、メローサも捕まえないと……!」と話したときだった。キズナは誰かが近づいてきたのに気づき、そしてその人物を見て顔を明るくさせた。
「ツナグ!」
――やって来た人物とは、ツナグとパエルもツナグだった。ツナグは意識を失い、すっかり伸び切った状態のメローサを背負っている。
「ゼェ……よ、よぉみんな……ハァ……こっちもバッチリだぜ……ハァ……」
息切れしながらそう話すツナグはどうも締まらないが、いつもらしいとニューエゥラ軍のみなは微笑みを浮かべた。
ツナグはメローサを地面に投げ捨てるように降ろすや、ぐーっと背伸びをした。その様子を見て、改めてキズナはこう話す。
「これで本当に任務完了、だよ!」
次にキズナは、パエルへと視線を向けた。それに倣って、ほかのニューエゥラ軍のメンバーも次々とパエルへ注目する。
パエルは目を伏せながら、小さな声で言う。
「安心しな、アタイはもう逃げねーよ」
すっかり元気の失ったパエルに、隣にいたツナグは何か声を掛けようとしたが……気休めにもならないと、口を閉ざした。
「アンタら! 捕まえる奴を間違ってるよ!」
そこへ現れたのは、女性の獣人――バー『URA』の店主だ。
店主はパエルとニューエゥラ軍の間に立ち、こう話す。
「パエルは何も悪くないさ。アタシら大人が無理矢理コイツを働かせてた、捕まえるのはこのアタシとメローサ、それにパエル以外のメローサに加担してた連中さ! ……そうだろ?」
キズナは「……うん、元々、わたしたちもこの子のことは――」と言いかけたとき、「そんなこと認めるわけあらへんがな」と、高い女性の声でありながらも、重みある言葉が一同に降り掛かってきた。
みなは一様にその人物を見る――カツカツとヒールの音を鳴らしながら、その威厳ある風格を放ちながら現れたシビコを。
どうやら彼女は創造の間を仕事を終え、この場に現れたようだ。
「大人も子供も関係あらへん。犯した罪は、みんなきちんと償ってもらう」
続けてシビコは、気を失っているメローサに向けてこう放つ。
「テメェはいつまで寝てんだ、このヒョロガリ! ウチの前で寝てるんやぁないで!」
瞬間、メローサはすぐに目を覚まし、シビコを視認するや慌ててその場に立ち上がった。
「……ウチは、アンタらのこと信用してたんやけどなぁ」
シビコは言って、メローサを睨む。
「特にお前は、下をまとめる手腕は気に入ってたんや……だが、こんなくだらねぇことにその力を使うなんて、ガッカリやわ」
シビコは深いため息をついた。
「末裔に尻尾振るやなんて……金はホンマに人をダメにしてまうなぁ」
メローサは冷や汗を一筋流した。シビコはそれを見逃さず、こう話す。
「……『どうして末裔のことを知っている』、とアンタは今思ったな?」
メローサはぎこちないながらも、ゆっくりと頷いた。
「ウチを舐めるな。ウチは三大卿の一人であり、レールガイのボスなんやで。最近末裔の野郎が……特にシーミの奴がそういうのにハマっていることは、耳に入ってたんや。でも、アンタらはあんなドブ犬野郎靡かないと……思ってたんやけどな」
シビコの淡々とした語りは、むしろ裏切られた悲しさを如実に物語っていた。
「……ご苦労やった、ニューエゥラ軍。あとの処分はウチがやる。後日ヒトリのとこに報酬は振り込んどくさかい。今日はもう帰り――」
「ま、待ってくれシビコさん!」
シビコの言葉を遮ったのは、ツナグだ。
「しょ……処分って……パエルも、なのか?」
シビコは「……聞いてへんかったのか?」と凄みながら答える。
「犯した罪はみんなきちんと償ってもらう――ウチはそう言ったんや」
「でも! ……パエルはしょうがなかったんだ。家族のために、働くしかなかった! むしろ、パエルは被害者なんだ、家族を……あんなふうにされて……!」
「――世の中、結果がすべてなんやで」
シビコは「なぁ、メローサ?」と、鋭く奴を睨みつけてから、ツナグへと視線を戻す。
「してしまったことは事実。償うことは確実にしてもらう」
「……っ」
「パエルの償い方はただひとつや」
シビコはパエルを指差し、こう命ずる。
「――パエル。アンタの刑は、今日からニューエゥラ軍の一員になることや」
パエルは予想もしてなかった言葉に、顔を上げ目を見開いた。
シビコは口角を上げ、こう続ける。
「せいぜい毎日政府から目の付けられる、気ぃの休めない日々を送るんやな」
驚愕の表情を浮かべるパエルの隣で、店主は静かに、安堵のような笑みを零していた。