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転生の革命家  作者: みおゆ
第三章・小さなお尋ね者
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3-15 敵対は迷いを生んで(2)

「ガキが! 調子に乗んなよ!」

「こっちがお前らはっ倒したるわ!」


 ギャングたちは雄叫びを上げながらツナグたちへと襲いかかる。


「クソっ! お、俺は喧嘩は苦手なんだよ……!」


 ツナグは文句を垂れるが、逃げられないこの状況下だ――意を決して拳を作り、不器用ながらもその拳を前に突き出した。


「がぶぁっ!」


 ――運良くそれは一人の男に命中した。


「やった!」


 ツナグの中でほんの少しの自信が芽生え、気持ちが一瞬緩んだ刹那だった。殴られた男はニヤリと口角を上げたかと思えば、ガラ空きだったツナグの横腹を思い切り殴り返してきた。


「……がぁ……っ」


 喉から息を洩らすツナグ。ふらりと後ろへよろけるツナグに、続けて男は拳を打ち込もうと右腕を引いた。


 もう一発くるとツナグはわかっていても、足元が固まっていない今、避けることは不可能だ。ツナグはもう一発腹にパンチを打ち込まれ、あまりの衝撃にその場に蹲ってしまう。


「……はぁ、はぁ……」


 これまで戦闘経験の少ないツナグにとって、こんな大勢での、その上、互いの距離が近い戦いはかなり不利だ。


 喧嘩のスキルなんて、ツナグにはひとつも持ち合わせていないのだから。


 ほかのみなと違って魔力らしいものも持ち合わせていない。


 ……だが、ここでただ諦めるには早すぎるということは、ツナグは何より自覚していた。


「シビコさんは、人を守るためのギャングをやってるって言ってたんだ」


 ツナグは再び立ち上がり、相手の男に向かって拳を叩き込んだ。


「それを裏切るようなことする奴らは、今、ここで止めなきゃなんねぇだろ!」


 その叫びは相手へ訴えかけるというよりは、ツナグ自身に言い聞かせているようなものだった。


 心を奮い立たせるために、自分の中に眠る、闘志を燃やすために。


 ツナグはこの中で誰よりも弱いかもしれない。だからこそ、誰よりも強く心を持たなければならないのだ――ニューエゥラ軍の一員として、世界をよりよくしていくために。


 ギャングから次々に繰り出させる攻撃の中、ツナグたち一同は各々の持てる力を使い反撃し、一人、また一人とギャングたちを戦闘不能へと追い込んでいった。


 徐々にツナグたちが圧倒していく様を、離れから眺めていたメローサは、少しばかり動揺の色を浮かべていた。


「……さすがヒトリのとこにおる連中やな。そう簡単には倒れてくれへんってわけか」


 メローサは「……しっかし」と言いながら、視線をツナグへ移動させていく。


「なんであんな男がヒトリの傘下に入っとるんや? 必死に腕を振り回しとるみたいやが、アイツだけ目立つほど弱いやんけ……まあ、他人のこと気にしてる場合やないわ」


 メローサは呟き、足音を潜ませながらそっと足元にメローサの身体の幅ほどの魔法陣を出現させた。


「この騒動に乗じて、俺だけ先にトンズラさせてもらうわ」


 魔法陣は光り輝き出す。メローサは〈瞬間転移魔法(テレポーテーション)〉を使用し、この場から立ち去る魂胆か。


 このまま逃げられてしまうと思われた矢先――そんな卑怯なメローサを、ツナグは見逃さなかった。



「おい! 逃げるな!」



 ツナグの叫びはメローサを引き止めるのに十分だった。


「……っ!?」


 メローサはたちまち冷や汗を浮かべ、その場に硬直した。


 魔法陣は消え去り、メローサは何が起こったと言わんばかりに動揺のを顕にしている。


「……な、なんで小僧の言葉ひとつに……!?」


 メローサは動かない、いや、動けないのか――その場に立ったまま、顔だけをツナグのほうへ向けていた。


 ツナグは周りの男らを懸命に振り払いながら、その拳を握り締め、メローサの元へ駆けていく。


「く、来るな!」


 メローサの叫びに構うことなく、ツナグはどんどんと彼に近づいていった。


「お前ら! この男を止めるんや!」


 メローサに言われ、ツナグを止めようと動き出すギャングたち。

 ツナグは男たちに腕を掴まれ、身動きが取れなくなっていく中、救いの声は場に響いた。


「〈母の御裁縫(マーザー・ナート)〉!」


 アムエの指先からしゅるしゅると魔法の糸が放たれ、ギャングの男たちを拘束した。


 力が緩んだ隙に、ツナグは男たちの手から逃れ、再びメローサへと一直線へ向かう。


「……っ、すみません、もう持ちません……!」


 一度に五人もの男を縛り上げたアムエだったが、大の大人の男を同時に五人も縛りつけることはやはりかなりの力を要するのだろう、アムエは数秒して力尽き、その糸は解けてしまった――だが、数秒稼げれば問題ない。


 すでにツナグは床を蹴り上げ、メローサの頬に拳を叩き込むところまで来ていたからだ。


「くらいやがれ! カクメイ――」


 ――〈革命拳(カクメイケン)〉、ツナグだけが持つ、その特別な拳を繰り出そうとしたときだった。それは呆気なく、断ち切られることとなる。


「……っ! お前……っ!」


 ――ツナグの拳はメローサではなく、巨大な硬いハンマーに阻まれてしまったからだ。


 ハンマーを盾にしている者の正体は、小柄な身体に似合わず、肉食獣のような戦意を見せる半獣人の少女。


「パエル、そのハンマーをどけてくれ!」

「悪ぃな兄ちゃん。アタイは初めから、メローサ側なんだぜ!」

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