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転生の革命家  作者: みおゆ
第三章・小さなお尋ね者
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3-14 敵対は迷いを生んで(1)

 ツナグたちはついにヤクグループの本拠地へと乗り込むと、まず目に飛び込んできたのは、いかにも胡散臭そうな顔つきをした細長い男だった。その男のほかに数名の男たち――シビコの探していた、今回のヤクを流通させる犯人であるギャングの一員ら――が、ちょうど集めた金でも数えていたのだろうといった様子だった。


「なんやパエル、今日も仕事は終わりのはずやで――って、アンタらか」


 細長い男は舌打ちをし、ツナグたちを蔑むような目を向けた。


「アンタらがここに来たっちゅーことは、誰か裏切ったか……パエル(ガキ)か、いや……あの狐の女やな」


 細長い男はぶつくさと言いつつ、ツナグたち一人一人を一瞥していく。


「あなた……シビコといっしょにいた人、だよね?」


 細長い男に向かって、キズナは恐る恐るそう問いかけた――そう、この男は、ツナグたちがレールガイアジトにて、シビコの隣に立っていた男だったのだ。


「ほー。あんな影みたいに立ってた俺のこと、覚えてくれててありがとうなぁ」


 嫌味ったらしく礼を吐く細長い男に、ツナグは怒りを滲ませこう話す。


「お前……シビコさんに隠れて、こんなことに手を出してたのかよ」

「――クソガキが。『お前』なんて誰に口聞いてるんや。俺はちゃんとメローサって名前があんねん」


 細長い男――メローサだという男の一瞬で見せた凄みに、思わず後ずさるツナグ。


 メローサはすぐにあっけらかんとした態度に戻すと、ヘラヘラとした笑顔を張りつけて言う。


「まあまあみなさん、そう構えんといてくれや。シビコにも勘づかれてしもうたことやし、俺らな、ちょうどもうこの町から出ようと思うてたところやねん。ヤクなんて(モン)も広めようなんて思うとらんよ? だから、ここは見逃してくれへんか?」


「嘘です!」と、メローサの言葉に対し、即座に否定を放ったのはアムエだった。


「――反省をした人の顔じゃありません……この町を出て、さらに取引の場を広げるおつもりでしょう!? そんなの、わたくし許せません!」


 アムエにとって、特にヤクの存在というのは許せないのだろう。普段の温厚な喋り方は捨て、声を荒らげて責め立てた。


「ボクもアムエ様と同じ意見です。あなた方からは、悪い狐の匂いがプンプンします」


 続けて、シャルもメローサに畳み掛けた。メローサは「はぁ〜……」と怠そうに頭を搔くや、静かにこう告げる。


「なんでこうも寄って集って……これは俺らのビジネスや。関係ないアンタらは口出さへんでもらえんかなぁ?」

「ふん、ビジネス……か。君らのしていることは、ただの犯罪行為だと自覚はしておいたほうがいい。人の尊厳を破壊する、最低な行為だと、な」


 今度はウィルの言い返しに、メローサの眉間の皺はますます深くなっていく。


 睨み合う両者。その間に流れる緊迫した空気感の中、先に口を開いたのはメローサだった。


「どうしても俺らを止めたいようやけど……こっちだって、そう簡単にお縄につく気もないねん」


 メローサは両手を広げ、自身の仲間たちに向かって言う。



「お前ら、コイツら土に埋めてやれや」



 メローサの指示と同時に動き出したギャングの一味。


 突如始まる戦闘に、ツナグは「ひぃ!」の情けない声を上げた。


「ツナグ、ビビってないで倒してく、だよ!」


 キズナはそんなツナグの尻を叩き、気合いの喝を入れてから、その両手に魔力を纏わせた。


 数は相手のほうがやや有利だ。しかしキズナはそんな状況にも屈することなく、闘志を全面に腕を振り上げた。


「一気にいくよ! 〈魔落雷(マジック・サンダー)〉!」


 振り下ろされたキズナの腕とともに、相手のギャングたちの身体に高圧の電流が走った。


 バタバタと倒れていくギャングたち。キズナの動きを読んだか、守りに入った者をちらほらとおり、その者たちが次々に銃身をツナグたちへを向けていく。


「あれ……仕留めきれなかった、だよ」


 魔力の消費でみるみる脱力していくキズナ。銃身は一斉にそんなキズナへ向けられていくが、それよりも早く先手を打ったのはシャルだった。


「撃つのが遅かったですね。まあ、そのほうが助かりますけど」


 シャルは右足を軸にし、その大きく左足を横に蹴り上げた。


「――〈マリケリ〉」


 シャルのその蹴りは、易々と二、三人の男たちを薙ぎ倒していく。


 その様子を見たほかの男たちは、とても一介のメイドが出せるパワーではないと、怯みを見せた。


「ビビるなおどれら! さっさと撃ち殺さんかい!」


 ――しかし、空気を震わすほどのメローサの鋭い命令が放たれた刹那、男たちの顔つきは変わり、次々と銃を抜いていく。


「待って! 銃は死ぬって!」


 ツナグは叫ぶが、それで事が収まるはずもない。刹那、耳を劈く破裂音が辺りを埋めつくしていく――そう思われたのだが。


「君たち、銃を斬られたことに気づかなかったのか?」


 ウィルのひと声で、男たちはようやく異変に気づいた。


 次の瞬間、彼らの持つ銃はまるで紙切れのようにハラハラと形を崩していった。


「――〈静かなる剣(クワイエット・ソード)〉。僕の剣は、月より静かに君らを斬るだろう」


 ギャングたちはここで引き下がるかと思われたが、そう簡単には事は終わらない。彼らは壊れた銃を捨て、新たな銃や、ナイフや拳を構えるなど、各々戦闘態勢を改めて立て直していき、キズナの魔法攻撃で倒れていた者たちも再び立ち上がり、臨戦態勢を取っていた。


「みんなどうしてそこまでヤクにこだわるのかなぁ……悪いことに、固執するのかなぁ……でも、これも革命のしがいがあるってこと、だよね」


 キズナはアムエに支えられながら立ち直し、ギャングたちと向かい合う。


 アムエはそっと「〈母なる恵み(マーザー・マジカル)〉」と唱えた。一瞬、キズナの身体にふわりと青い光りが纏い、すっかり彼女の表情は元の力強いものへと戻っていた。


「魔力も戻ってきたよ、ありがとアムエ」とキズナはアムエに告げてから、革命軍副隊長らしく、ツナグたち一同に高らかと指揮する。


「さあ、こんなところで負けてられない、だよ! みんな、こんな人たちはっ倒しちゃおー、だよ!」


 続けて、キズナはお得意の決めゼリフを言い放つ。


「――さあ、革命の時間だよ!」

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