3-11 約束の代わりに
「わーい! もう元気いっぱい、だよ! ありがと、アムエ!」
キズナは万歳をして、喜びの笑顔を見せた。
――一時、店主の攻撃により気を失ってしまったキズナとウィルだったが、アムエの迅速な治癒魔法によりすっかり回復し、今は通常どおり動けるまでになった。
店主もアムエの〈母の御裁縫〉により拘束され、まずは一人目確保、といった次第だ。
「まさかこんな身近に犯人がいたなんてな……」
ツナグは店主に視線を向けながら、悲しげに眉を下げた。
「シビコはグループがいるって言ってたし、まだ関わってる仲間がいるはず、だよね?」
キズナは言って、続けてシャルもこう話す。
「ええ、そのはずです。単独ではないはずです。ほら、さっさと仲間のことも吐かないと、またボクが『めっ』ってしますよ」
シャルは手のひらを突き出す動作をした。それを隣で見たツナグは「もう一回あんなのやったら死んじまうよ……」と、恐れをシャルへと向けていた。
店主はすっかり堪忍したようだったが、ずっと押し黙ったまま話そうとしない。困り果てた一同は顔を見合わすが、手がかりが目の前の店主以外にない以上、どうにかして情報を吐かせるほかない。
「あの、わたくしたちはあなたを殺したりだとか、これ以上危害を加える気もないんです。ただ、あなた方の犯罪を止めたい、それだけなんです。ヤクに溺れ、苦しむ人がこれ以上増えないためにも……」
アムエはていねいにそう説明するが、店主は語ろうとする素振りを一切見せなかった。
「アムエ様、やはりお願いではダメかもしれません。ここはボクが……」
そう言って手を上げようとするシャルに、ツナグは慌ててその手を引き止めた。
「シャル! 拷問じみたことダメ、ゼッタイ!」
シャルは「そうですか」と、無表情のまま手を下ろした。ツナグはなかなかシャルには恐ろしいところがある、と思いつつも、この現状をどうしたものかとため息をついた。
「なあ、ツナグ。ツナグが命令すれば口を開く、なんてことないか?」
ウィルの提案に、ツナグは首を傾げた。
「ツナグはたまに……人を従えさせる力を見せるだろう? アンデル迷宮でモリヒトと対峙したときも、動きを止めて見せたじゃないか」
ツナグは「まあ、そうだけどよ……」と言い、渋々、といった具合に店主に尋ねる。
「店主さんのほかの仲間がどこにいるのか……教えてください」
ツナグはそうお願いしたものの、店主は口を開くことはなかった。
「ツナグ! もっとこう……『はよ教えんかい!』くらい言わなきゃダメなんじゃない?」
「シビコ様の口調が移ってますね……」というシャルの横で、ツナグは力を存分に発揮できない情けない自分に不甲斐なさを覚えた。
そんなツナグを慮ってか、アムエはこう口にする。
「ツナグ様……もしかして、パエルさんのこと気にされてる……とか?」
「パエル?」と疑問を抱くキズナ。アムエは「実は……」と、運び屋の少女とすでに接触していることをキズナとウィルに説明した。
「ツナグ。心のどこかでは、ヤクグループを壊滅させてしまえば、パエルとやらの少女の居場所を奪うことにならないか、悩んでいるのか?」
ウィルに問われ、俯くツナグ。
「ツナグ……だったら、なおさらヤクグループを突き止めて止めないと。パエルの居場所は、こんなところじゃダメなはずだよ。居場所はまた、わたしたちが作ってあげればいいんだよ」
パエルの話題が出たときだった。突如店主は嗚咽を上げだし、涙を流しはじめたのだ。
突然のことに驚く一同。店主は涙を流しながら、ようやく口を開く。
「……もし、パエルを本当に救い出してくれるってんなら、仲間のことを言ってやってもいい」
急な申し出に一同は驚きつつも、力強く頷き返した。
それを受けた店主は、「……約束だよ。破ったら、殺すからね」と前置きし、こう語る。
「流通拠点はここから東へ行った先にあるギルドにある。ギルドの一部のヤツらとも手を組んで、あそこで秘密裏に売買してるんだ」
「それは……確かッスね?」
「ああ、嘘じゃない。一番左の受付嬢に『URAの依頼を受けに来た』と伝えればいい」
ヤクグループの本拠地がわかったツナグたちは、次はそちらへ向かうことにした。
「……でも、なんで急に教えて……」
ツナグは呟いて、なんとなくカウンターのほうへ目をやると、棚に並べられたボトルの間に一枚の写真があることに気づいた。
――そこには、パエルと同じくらいの獣人の子供が写っていた。
「……」
ツナグはこれ以上何も言うことはなく、店主をバーに残し、一同はその場を後にしたのだった。