3-10 巡り合う仲間
キズナとウィルは、早速『URA』というバーまで急いでいた。
「もしかして、あのキツネのお姉さんが何か関係あるってこと……!?」
「シビコも初めから身内で起きていること……と言っていたし、十分可能性のある話だと思う」
バーに辿り着いた二人。まだ日が昇る昼の時間帯なせいか、バーは準備中のようだった。
キズナは試しに扉に手をかけた――すると、鍵はかかっておらず、簡単に扉は開いた。
「おや、お客さんかい? 悪いけど、まだ準備中だよ。出直してきな」
カウンターの奥からあのキツネのような見た目をした、獣人の豊満な女性――このバーの店主が顔を出した。
店主は二人を見るなり、肩を竦めた。
「なんだ、アンタたちかい。またボスに会いに来たってんなら、悪いけどあいにく今は外出中だよ。まあ元より――そんな何回もアジトに出入りさせるわけにもいかないけどねぇ……」
店主の目つきが鋭いものへと変わる。まるでそれは、二人の真意を探るように。
「……ちょっと外を歩いていて疲れてね、一杯いただこうとこちらへ来たんだ」
ウィルが言うと、店主はかかっと笑い声を立てた。
「未成年のガキが生意気言ってんじゃないよ。いくらだらしないこの町でも、さすがにお子ちゃまには酒は出せないねぇ」
「――『メローサのおすすめ』をいただきたくてな」
ウィルのひと言により、店主の空気は一変する。
「……誰かから聞いたか」
「道端の陽気なご老人に、少し」
店主はふーっと息を吐き、腰に手を当てた。
「……まあなんとなく察しはついてたよ。ボスがヒトリさんたちに何か頼むってぇのは、こっちの事情を知られたかもしれないってね」
次の瞬間、店主は銃を取りだし、ウィルに向かって構えた。
「……で、どうする? 取り締まろうってんならこっちだって全力で対抗するさ。それかアレか? アンタらも純粋にコレがほしいか? 今なら安くして売ってやるよ」
店主は言って、懐から紙袋を取り出し見せた。キズナは前に出て、店主に訴えかける。
「そんなのいらない、だよ! わかってるの!? それはみんなをおかしくしちゃうモノなんだよ! どうしてそんなのを広めたり――」
キズナが口を開いた刹那、銃声が響いた。店主の銃口からは細い煙が立っている。
「うるさい娘だ。そんなの金のために決まってるだろ――っ!?」
店主は言いかけて目を見開いた――放った銃弾は命中せず、ウィルの持ち前の剣技で銃弾を弾き、キズナを守っていたからだ。
店主はその光景を受け、冷や汗を滲ませる。
「……アンタ、ただの剣士じゃないねぇ……?」
「それはどうかな。僕は至って普通の剣士でいるつもりだが」
店主は口角を吊り上げ、「オーケィ!」と叫んだ。
「悪いが、このことがボスにバレる前にさっさとトンズラさせてもらうよ!」
店主は銃の引き金を引いた。ウィルはすかさず剣で銃弾を防いだが、刹那、ウィルの身体に目に見えるほどの電流が走る。
「……電気魔法を仕込んだか……ッ!?」
「アタシだって魔力は多少なりとも持ってるのさ!」
痺れて動けずに、その場に蹲るウィル。
店主はそんなウィルを見下ろしながら言う。
「一瞬は殺そうと思ったけど……やめておくよ。殺してヒトリさんに恨み買っちまったら、それこそヤバいからね」
店主はそう言ってその場から逃げようとするが、キズナがそれを見逃すはずもなかった。
「――そのまま行かせない、だよ! 〈魔法光〉!」
キズナは魔法で素早く作った光の球を店主へ投げつけた。店主は球を避けたが、球は扉に直撃し、ボロボロに朽ちてしまう。
「……この小娘。修繕費どうしてくれんだい」
「よ、避けたから扉が壊れた……んだよ!」
店主はため息をつき、今度は二丁の拳銃を両手に構えた。
「これ以上店を荒らされても困る。しばらくは気絶してもらうよ」
店主は銃弾を二発同時に放った。一発はウィルに、一発はキズナに命中し、二人の身体は一瞬硬直し、身体を小刻みに震わせながら床の上に倒れた。
「あ……っ、まっ……て」
キズナは閉じかけている瞼を必死に開けようとしながら、店主に手を伸ばす。
だが店主はもうキズナたちを一瞥することもなく、店から出て行こうとしていた。
「だ……め、だよ。これじゃ、また……どこかで……」
徐々にキズナの声が萎んでいく最中、唐突に聞き覚えのある力強い声が響く。
「――〈クウ・トッ・ショウ〉!」
突如広がる衝撃波。それとともに、店主の鈍い叫び声と木材のへし折れる音が鳴り響いた。
バーの扉を見やれば、攻撃の構えをしているシャルと、その後ろには、今の攻撃を見て顔を青くしているツナグ、シャルが店主に一発決めたことにガッツポーズを取っているアムエがいた。
一方、攻撃を受けた店主は破損したカウンターの上で半ば白目を剥きながら、「な……何が……」と、状況を把握しきれていない様子だ。
そんな店主を傍らに、まずはシャルから口を開く。
「ツナグ様。あの方から微量にパエル様の匂いを感じます」
「……え? それ、殴ってから言う……?」
「わ! キズナさん、ウィルさんっ、わたくしが今すぐ治療いたします!」
頼もしい仲間の登場にキズナは安堵し、目を閉じたのだった。